表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終局黎明  作者: さたかひ
9/10

新たな出会い

 魔物襲撃の翌日。学園はまだざわめきが収まらず、あちこちで昨日の話題が飛び交っていた。

 臨時で応援に来ていた魔術師たちの姿もちらほら見える。その中の一人、艶やかな黒髪を背に流した和服姿の女性が、じっとこちらを見ていた。


「――君、ちょっといいかしら?」


 透き通るような声に振り向くと、落ち着いた微笑みを浮かべたその女性が立っていた。

 彼女は橘花蓮と名乗り、学園の外で活動する熟練の魔術師だという。


「昨日の戦い、少し遠くから見ていたの。あなた、炎の適性があるわね」


「え? 俺、炎なんて使ったこと――」


「自覚はないのね。でも魔力の流れ方で分かるの。あなたの魔力は、静かに見えて芯が灼けるように熱い。扱えれば、大きな武器になるわ」


 穏やかな表情でそう告げられ、なぜか否定できなかった。

 花蓮は少し間を置き、ふわりと微笑む。


「もしよければ、私のところで修行しない?」


 唐突すぎて言葉が詰まる。

 だがその笑顔の奥に、説明の余地を与えない強い光を感じた。


「え、えっと……学校の授業もありますし――」


「大丈夫。学園長には私から話を通すわ。拒否権は、ないわよ?」


 最後の一言は、柔らかな声色のままなのに鋭く突き刺さった。

 気づけば俺は頷いていた。


 ***


 数日後。学園の授業を早退し、師匠の案内で街外れの山中にある道場へ向かった。

 木々の隙間から差す陽光と、涼やかな風。そんな自然豊かな場所に小さい洞穴があった。


「ここは私が昔よく使ってた場所よ。ここならいくら魔法の練習をしたって周囲に迷惑かけないし。」


 中は少し肌寒く、薄暗いが過ごしやすい場所だった。


「まずは炎を呼び出す感覚を掴みましょう。安心して、燃えたら私が消すから」


「燃えるって……俺が?」


「そ。炎は命と同じ。無理やり出せば自分をも焼く。だからこそ、制御が必要なの」


 言葉と同時に、師匠の掌に赤橙の炎が灯る。細い糸のように揺れながら、まるで生き物のように彼女の指先を漂っている。


「ほら、怖がらずに。目を閉じて、自分の中心にある熱を探して」


 促されるまま目を閉じる。

 胸の奥に、微かにくすぶる何かを感じた。熱い、けれど心地よい感覚。そこへ意識を集中させると――。


「……あっ」


 掌がじんわり熱を帯び、淡い赤い光がにじむ。次の瞬間、小さな火花が弾けた。


「いいわ、そのまま……でも、もっと速くできるようにならなきゃダメ」


 師匠の声色がふいに鋭くなる。先ほどまでの柔らかさは消え、挑発するような眼差しが突き刺さる。


「炎は迷う者を待ってはくれない。ためらえば、敵に刺されるだけ」


 その強気な声音に、背筋が伸びた。これが彼女の本性――見た目の清楚さとは裏腹な、修羅場をくぐってきた者の眼。


「さあ、もう一度。今度は“迷わず”出しなさい」


 道場に熱がこもる中、俺の修行が始まった。


やっと修行だ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ