新たな出会い
魔物襲撃の翌日。学園はまだざわめきが収まらず、あちこちで昨日の話題が飛び交っていた。
臨時で応援に来ていた魔術師たちの姿もちらほら見える。その中の一人、艶やかな黒髪を背に流した和服姿の女性が、じっとこちらを見ていた。
「――君、ちょっといいかしら?」
透き通るような声に振り向くと、落ち着いた微笑みを浮かべたその女性が立っていた。
彼女は橘花蓮と名乗り、学園の外で活動する熟練の魔術師だという。
「昨日の戦い、少し遠くから見ていたの。あなた、炎の適性があるわね」
「え? 俺、炎なんて使ったこと――」
「自覚はないのね。でも魔力の流れ方で分かるの。あなたの魔力は、静かに見えて芯が灼けるように熱い。扱えれば、大きな武器になるわ」
穏やかな表情でそう告げられ、なぜか否定できなかった。
花蓮は少し間を置き、ふわりと微笑む。
「もしよければ、私のところで修行しない?」
唐突すぎて言葉が詰まる。
だがその笑顔の奥に、説明の余地を与えない強い光を感じた。
「え、えっと……学校の授業もありますし――」
「大丈夫。学園長には私から話を通すわ。拒否権は、ないわよ?」
最後の一言は、柔らかな声色のままなのに鋭く突き刺さった。
気づけば俺は頷いていた。
***
数日後。学園の授業を早退し、師匠の案内で街外れの山中にある道場へ向かった。
木々の隙間から差す陽光と、涼やかな風。そんな自然豊かな場所に小さい洞穴があった。
「ここは私が昔よく使ってた場所よ。ここならいくら魔法の練習をしたって周囲に迷惑かけないし。」
中は少し肌寒く、薄暗いが過ごしやすい場所だった。
「まずは炎を呼び出す感覚を掴みましょう。安心して、燃えたら私が消すから」
「燃えるって……俺が?」
「そ。炎は命と同じ。無理やり出せば自分をも焼く。だからこそ、制御が必要なの」
言葉と同時に、師匠の掌に赤橙の炎が灯る。細い糸のように揺れながら、まるで生き物のように彼女の指先を漂っている。
「ほら、怖がらずに。目を閉じて、自分の中心にある熱を探して」
促されるまま目を閉じる。
胸の奥に、微かにくすぶる何かを感じた。熱い、けれど心地よい感覚。そこへ意識を集中させると――。
「……あっ」
掌がじんわり熱を帯び、淡い赤い光がにじむ。次の瞬間、小さな火花が弾けた。
「いいわ、そのまま……でも、もっと速くできるようにならなきゃダメ」
師匠の声色がふいに鋭くなる。先ほどまでの柔らかさは消え、挑発するような眼差しが突き刺さる。
「炎は迷う者を待ってはくれない。ためらえば、敵に刺されるだけ」
その強気な声音に、背筋が伸びた。これが彼女の本性――見た目の清楚さとは裏腹な、修羅場をくぐってきた者の眼。
「さあ、もう一度。今度は“迷わず”出しなさい」
道場に熱がこもる中、俺の修行が始まった。
やっと修行だ




