修行①
再び深く息を吸い込む。胸の奥で燻る熱を、さっきよりもはっきりと意識する。
目を閉じたまま両手を前に差し出すと、心臓の鼓動に合わせて魔力が集まっていくのが分かった。
――迷うな。
そう考えつつただ炎を呼び覚ますことだけに集中する。
瞬間、掌に赤い火が灯った。さっきよりも明るく、揺らめきも大きい。
「……できた」
小さな成功に思わず声が漏れたが――
「そこで安心しない!」
師匠の鋭い声と同時に、彼女の炎が突風に煽られるように伸びて襲いかかる。
「うわっ!?」
慌てて後ずさるが、炎はすぐ目の前で止まった。
花蓮は片手で炎を操りながら、じっと俺を睨む。
「敵が待ってくれると思った? 戦場では、成功した瞬間こそ隙になるの」
言葉は冷たいが、その奥に確かな熱を感じる。
俺は息を整え、もう一度炎を呼び出した。
⸻
何度も繰り返すうちに、炎は少しずつ形を持つようになっていった。
しかし、長くは持たない。集中が途切れると炎は消え、時に逆流するように体を灼いた。
「ぐっ……!」
腕に走る熱痛に思わず顔をしかめる。
師匠は容赦なく言い放った。
「痛みを恐れるな。炎は裏切らない。裏切るのは、扱う者の心の弱さよ」
その言葉に、母を失った日の記憶が蘇る。
あの日、俺は何もできなかった。目の前で、ただ奪われるのを見ていた。
――二度と、あんな無力な自分には戻りたくない。
強く念じると、掌の火が一気に燃え上がった。さっきまでの小さな炎とは比べものにならないものだった。
「……ほう」
花蓮の瞳が一瞬だけ見開かれる。だがすぐに口元を引き締め、さらに炎を放ってきた。
「その力、本当に制御できるか確かめるわ」
襲いかかる炎の壁。反射的に俺は手を突き出し、自分の炎を前に放った。
二つの炎がぶつかり合い、轟音とともに道場の空気が震える。
⸻
結果は――拮抗。
師匠の炎は俺のものを押し返しきれず、逆に彼女もまた一歩後ろへ下がった。
「……初日でここまでとはね」
彼女は炎を消し、深く息を吐いた。
「ただ力を出すだけなら、あなたにはセンスがある。けれど――制御はまだまだ。今のままでは自分も周りも焼き尽くす」
俺は荒い息を整えながら、必死に頷いた。
「もっと……強くなりたい。だから教えてください、師匠」
花蓮は一瞬だけ柔らかく微笑んだ。けれどすぐに、鋭い眼差しに戻る。
「いいだろう。明日からは、もっと厳しくいくよ。覚悟なさい」
その言葉に背筋が震える。だが恐怖よりも、胸の奥で熱く燃える期待の方が大きかった。
こうして俺の、本格的な修行が始まった。
ん〜最近モチベが......




