第八話 銀翼ノ天使と滅却ノ翼
「セズール?」
「はい!魔王様の忠実な下辺、セズールにございます。」
その場で追い詰められた魔王を抱え、名乗りを上げたのは校門前で波留ノ達を出迎え学校中を案内した銀髪の女セズール。
「やめてよセズールちゃん…相手は西郷を倒した奴だよ。それに僕に触れたら…」
「ご心配には及びません、わたくしは四天王とは別に貴方に付き従う忠実なる下辺。…強さが足りていなくとも、主の盾となってこの命散らすことに寸分の迷いもございません。」
銀髪の彼女の決意と忠誠心は強固な者であった。
しかし、彼女は四天王ですらないただの雑兵。
眷属の中でも特別力を与えられたわけでもないただの化身使いの少女である。
「でわ…始めますわよ。勇者ぁ!」
「いいぜ、誰でも構わねぇー。俺はただ魔王を殺せりゃそれでいい。」
「ならば…私し不滅の魔王最後の下辺、銀翼ノセズールが全力を持ってお相手いたしますわ。」
銀髪の彼女の名はセズール、その銀翼の翼を広げ閃光の如き光速で駆け走る。
「んだこれ早すぎて見れねぇー!」
閃光の速度は光、彼女の異名は銀翼ノ閃光。
速度だけなら学内最速、しかし魔王の眷属としては一般生徒と変わらないレベルの力しか持っていない。
その実力は完全な彼女の怒力の結果である。
努力が才能を凌駕する、そんな少年漫画のお決まりは勇者と言う圧倒的才能の前では通用しない。
「悪い目が慣れてきた、これで終わらせるぜ。」
波留ノはまだ、退魔の剣を使っていない。
しかしただのパンチ、勇者の身体能力を乗せただけのただのパンチである。
「ぐはぁ…」
しかし勇者のパンチのその威力は、通常の生物には強力な一撃となって彼女の全身に痛みが駆け巡る。
「まだ…ですわ。まだまだこれからですわよぉ!”銀翼ノ流星”。」
それは閃光の速度で放たれる銀の柱の集団、ビル一つ分の質量の物体が光速で彼を襲う。
光速の速度はもちろん、それには速度に付随する威力が上乗せされる。
「本来質量持つ物体が光速を超えることは不可能なのですわ、そんなことがもし起きたらブラックホールが発生して銀河一つを飲み込んでしまいますもの。」
しかし彼女は超えた、彼女の努力は太陽系を飛び越え銀河すら掌握する域へと至りそれを魔王の作った強固なるこの学園で波留ノ一人に対して八本の柱をぶつける。
「見切っても、威力で押し負けるか。いい考えだ…」
「しかしどうするつもりだ?見ての通り彼女には魔王の眷属としての闇以外は邪悪の精神が宿っていない。退魔の剣で攻撃はできても、あれを跳ね返すのは汝には不可能だぞ。」
最果ての言うとおり、波留ノの退魔の剣は対象の邪悪が弱いと性能が格段に落ちる。
落ちた矛と盾では彼女の攻撃は受けきれない。
「んだな、でもよぉー。負ける気はねぇーぜ…」
波留ノは追い詰められたその状況で笑った。
秘策があるのか?最果てが疑問の表情を向けるなか柱は地面に衝突しその衝撃と爆風で学園を含んだ世界が滅ぶ。
「マジぱないじゃん、察すがセズールちゃん。最果て自慢の勇者くんを倒すとか、新・四天王筆頭はセズールちゃんで決まりだね。」
「ありがたき幸せ。」
永劫の学園の理は永劫回帰、何度滅んでも何度誰かが卒業しようともその度に卒業した生徒は1年生として舞い戻り。
崩壊した世界は再び元通りに再構築される、今はまだ不完全で学園までは再構築できていないが大地はある。
そしてその新天地で、セズールは魔王に跪き忠誠を誓った。
「なに勝手に終わりにしてんだよ」
何もない、空すらまだ青く染まるまえの白き純白の中で最果てと波留ノは彼女らの目の前に現れる。
「馬鹿な…どうして…」
「気風・道徳。忠誠・武勇・奉仕・廉恥・名誉!そりゃー大層な善意だ。邪悪を起源とした力が嘘みてぇーによぉ~…でもおめぇーには欠落してんのさ大事もんが…」
「大事なもの…」
君主のためなら世界すら滅ぼさんとするセズールに向けた波留ノのメッセージ。それは…
「”世界を思う気持ちだ”。お前は結局、崇拝する魔王以外の一切を顧みずに世界も…お前のダチも全部吹き飛ばした。こんなちんけな人一人頬むるためになぁ…」
「それがどうしたといいますの、第一この世界は破壊されようと何度でも蘇る。不滅の魔王様の如く…ですから…」
「なーに言ってんだ?俺はそう言う話をしてんじゃねーんだよ。…悪について罪について論じてんだぜ。」
退魔の剣は彼女の心を邪悪として認めなかった、しかし今一度剣はそれを再定義する。
彼女の純粋無垢な邪悪について…
「この世で最も、どす黒い悪は。”自分が悪だと気づいていない”…お前は最悪なんだよ。」
例えどのような理があろうと、道理があろうと。
誰かを殺すこと、破壊することそれは悪。
「しかしならば!魔王を殺す貴方も悪ではありませんこと…」
「そうかもな、いやそうなんだろうな。でもよぉー俺は勇者だぜ、自分の力じゃ死なないさ…」
これぞ理不尽、退魔の剣は銀翼の流星が放たれた時点でセズールの攻撃は退魔の盾で相殺されていた。
「世界を破壊してもいいなんて発想に至った時点で、お前の負けは確定していたのさ。」
「ならば!銀翼ノ…」
「おーと!その手はもう使わせねぇーぞ。世界の皆が可哀相だからな…」
波留ノはひと思いにその右手を退魔の剣へと変えて、その腹を一突きして決着をつけた。
「セズ…ちゃん…」
残酷にも貫かれた腹を見て、不滅の魔王はセズールに駆け寄る。
「すみません…魔王様。また…魔王様を一人に…」
・
・
・
・
・
「いやだ…」
その瞬間不滅の魔王の全身から焔があふれ出し、再構築されつつある世界を焔で覆い尽くす。
「こりゃどう言うことだ?あいつは最弱じゃなかったのか?」
「奴は腐っても魔王…と言うわけさ。」
「カッコつけてねぇーで!解説しろや。お前そう言う役回りだろ!」
「メタいことを言うな」
状況にそぐわず、二人は割と冷静に目の前の出来事に対処する。
「彼女の能力は二つ、不滅の再生能力と滅却の焔の二つだ。」
「は!んな能力あっていいのかよ?矛盾してんじゃねぇーか…」
「そうだな、だから彼女はこの世界を作ったのだ。何度壊しても再び回帰する…この世界をな…」
波留ノはその力の仕組みを聞いた時、ある考えに至りこう発言する。
「それじゃまるで”呪い”だな。」
・
・
・
・
「は?」
魔王は波留ノの発言に切れ、その炎はその憤怒に影響を受けたかのように火力を増してその形状を弓へと変かさせ放たれる。
「不死鳥ノ弓」
それは周囲大地を消炭にしながら弓に引かれる一撃の矢に収束していく。
「ここは僕の居場所だよ、君なんかに壊されていい場所じゃない。」
「魔王が何言ってんだ?お前らは世界を滅ぼすのが目的だろ。」
「違う!僕は世界なんて滅ぼさない。永遠に同じ安らぎを繰り返すんだ、楽しかった日々を…友達を…恋人を家族を!この場所で永遠のものとして保存し続ける。」
魔王は泣いていた、まるで本当に世界をいつくしんでいるかの如く。
それはあり得ない出来事だった、魔王が世界を滅ぼすどころか永続させてその崩壊を嘆くなんて奇行を起こすは…
そしてふと波留ノは思った。
「お前…”なんで魔王やってんだ?”」
波留ノがそう言うと、魔王は歯をギシギシとやって迷わず矢を放つ。
「一撃の元に灰燼に帰せ…最大出力充填・不死鳥ノ矢」
次回…
「僕は…ただ…”弟を護りたかっただけなのに…”」
【不滅ノ王と呪われし少女】