第四話 魔導王覚醒
「勇者ァァァ!!!」
「魔王ォォォ!!!」
二人の唸るような叫び声に好悪して、周囲が揺れる。
(凄まじい力のぶつかり合い、これでこそ魔王と勇者の勝負と言ったところか。さぁー波留ノ、汝の力を見せてくれ…)
冷静に外野から戦いを分析する最果てをよそに、先に動いたのは波留ノであった。
踏み込んだ足の勢いは地面を割り、魔導王の元へとミサイルの如き速度で駆ける。
しかし、魔導王も負けじとその手に魔導書を出現させ叫ぶ。
「グリモワール第一節、”神々ノ反逆者”」
そう言って魔導王の背後に現れるのは、無数の黒い触手。
それが波留ノに向かって襲いかかり、そのまま波留ノは黒い触手に包まれ姿が消える。
「吾輩の力の中でもっともシンプルな物理の魔法。そのまま圧死して死ぬと言い…」
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「”誰が…死ぬって?”」
しかし波留ノの剣はその全てをかぎ分け、切り裂きその全てを白く染め上げ塵変え。
ついに魔導王の首元まで、その剣を届かせた。
「グリモワール第三十一節、”仮面地獄”」
波留ノの周囲に広がる魔導王の群れが、その目から手から口から。
「グリモワール第四十節、”闇閃”」
それは魔王が持つ基本攻撃手段の一つであり、最果てが使っていた悪魔ノ一矢と同様の紫色の光線。
魔導王はそれを極め、体のあらゆる箇所から強力な光線を自由自在に放つことができる。
「「さぁーどうだ、勇者よ。流石に数の不得手だ、諦めるか?」」
「そんなわけねぇーだろ三下、さっきから馬鹿の一つ覚え見たいに数ばっか増やしやがって。弱い奴ほど群れるとはよく言ったもんだ…」
波留ノの煽りに、魔導王は千を超える魔術の行使で周囲を取り囲み波留ノをハチの巣にする。
「盾ぇぇぇ!!!」
波留ノも負けじと、左腕の盾で魔導王の攻撃を全て防ぎきり魔導王の一瞬の隙をついて手に纏った剣を投擲する。
「ぐあぁ!」
初の命中、それによって魔導王の作り出した全てと”幻像”が消え。
周囲の世界が溶けてなくなる。
「こいつぁー…」
「汝は夢をみとったんじゃ、奴の幻術の中でな。」
そう、波留ノの周囲に出現した魔導王の群れは全て幻覚。
しかし幻術をかけられた対象者の神経と直接繋がっているが故に、波留ノにも戦闘時のダメージが残る。
「お互い、満身創痍って感じだな?魔王。」
「ふざけないでください、吾輩は魔導王。魔術、錬金術、召喚術…その全てを極めた魔導士の王ですよ。魔術、錬金術の行使はここまでです…そろそろ最後のトリックと行きましょうか…」
そう言って魔導王は本を閉じ、空中に無数の魔法陣を展開させる。
「召喚術、”奇々怪々”」
周囲の魔法陣から生み出したのは、ゴジラで出てきそうなほどの巨大怪獣の群れ。
目立つのは、三体。龍のような化け物と触手の化け物、そして人型の巨人まで…
その他にも多数の怪物が跋扈し、魔導王の周りに展開し続ける魔法陣からはおそらく肉食の魚の怪物が装填され。
いつでもその魔法陣から放てるようになっている。
「こんなもん、どうせ見かけ倒しだろ。」
そう息巻いて突入する波留ノがまず狙うのは、三体の中で一番没個性な人型の巨人。
しかしその巨人には他にはないある特徴があった…
(ギャロ!)
「目が…」
その巨人は、一見するとただの黒い巨大な人形の何か。
しかさ、その真の能力は"複眼"。
身体のあらゆる部分に目を自由な数作り出す事ができる能力。
それにより巨人には"一切の死角が”存在しない。
(これじゃ背後をとっても意味がねぇ…)
そう思うと同時に、踏み出す地面を失った波留ノはその巨体から放たれる打撃を受けることしかできず遥か彼方へと吹き飛ばされる。
「んだよ…街が見えねぇーほど吹き飛ばされても死なねぇ~とか。マジ俺も人間やめてんなぁー。」
波留ノは、吹き飛ばされた勢いのまま街を出て遥か先の山々を三つほど貫通してその先の荒野にある大きな岩にぶつかり止まる。
「やはり、バトル漫画と言えば荒野だろ。」
「はぁ?これ小説、漫画じゃねぇー。つかお前、何で漫画何て知ってんだ?。この国にはそんなもん見あたらなかったぞ。」
「ハッハ!吾輩の加護は大まかに三つあってな。一つは、魔術や錬金術、召喚術を含む魔導士としての知恵、二つ目がお前に一度見せた世界中のどこにでも幻像を生み出すことができる能力、そして最後が…”思考操作”による人々の集合意識を誘導したり対象の動きを制限したり、対象の思考を完全に把握したりする才能の三つが吾輩の魔王としての力だ。」
魔導王は魔王の中でも、最も多彩な能力を使う魔王である。
神秘的なエネルギーや現象を引き起こす魔術、存在する物体を操り形を変化させたり別の要素を加えたりする錬金術、異次元や異世界などの次元の壁を超えてあらゆる物や人や怪物などを呼び出す召喚術。
そして世界のどこにでも発生させられる幻覚と対象の思考を読み書き換える思考操作…
これをもってして”魔王”、対する波留ノはシンプルな剣と盾の力のみ。
「今からここでタイマンをしましょう、貴方の好きなステゴロで構いません。」
「いいのかよ、負けちまうぞ。距離取ってビーム放つしか脳のねぇー魔法使い様じゃな。」
「それは誤解だ、卿らはゲームのし過ぎで魔法使いについて認識を誤っている。魔法使いだからと言って肉体を鍛えないとは限らないのだよ!」
魔導王がそう言うと波留ノは「そうかよ」と返した直後に、勇者の身体能力を利用し目にも止まらぬ速さで接近する。
「読めているよ…」
魔導王は地面すら陥没するほどの剛脚と轟音を響かせる速度の乗った、雷の如き一撃の剣を…
(かわされた…)
これが思考操作による、相手の思考を読む能力。
戦闘に用入れば確実に相手の手を見切って交わし、反撃できる絶対の能力。
それから、波留ノは幾度となく攻撃を続け。
「オリャリャリャリャ!」
拳のラッシュを絡めたが…
(全く…当たらねぇー)
”無力”。それどころか…
「ごはぁ…」
魔法使いだからと、侮った男の拳の一撃に血反吐を吐く始末。
(さぁーどうする、波留ノよ。能力を看破し、力を封じてなお力量で負ける。覚醒一つでは勝てない…”ならばどうする!策を思いつく他あるまいなぁ!)
自身の呼び出した勇者がやられるさまを見てなお、力を貸すことなく見物を続ける最果て。
そんな助船が期待できない状況で、波留ノは思い切りの良い作戦を立てる。
「あ”…」
(なんだ?ついに意識を飛ばしたか…)
魔導王が突如、涎をたらし白目を向いて亡者の如きカッスカスの唸り声をあげる波留ノを見てそれを察した。
「ハハッ!無様だなぁー。勇者、これなら怪獣を用意いる必要もなかった。クックック、ハァーハッハ!」
魔導王が勝ちを確信し、ゆっくりと歩いて接近。
様子を伺うように、体をツンツンとした後。手を広げて高笑いを浮かべる最中。
波留ノの拳が…
「なぁがぁ!」
突如動き出した波留ノの剣が、魔導王の頬を貫き地面に強打させ頭が割れて脳が飛び散る。
「へっへーんだ!どうよ。心を無にする大作戦は、我ながら天才的閃きだぜ!」
それはとてつもなくシンプルな作戦、思考を読むのなら読まれる思考を止めて勘と本能で攻撃すればいい。
そんな阿保らしい作戦に、最果ては背後で大笑いを浮かべる。
『己れぇぇ!!!勇者ァァァ!!!』
喋る口も考える頭も失なって、後は血の通う心臓と四肢と魂のみになった魔導王は。
そのグロテスクな顔面を上げて立ち上がり、テレパシーで最果てや勇者に会話を送り、膨大な量のエネルギーをその右手に蓄えだす。
「んだよ、付け焼刃の八つけ仕事はみっともねぇーぞ。」
『フハハッ!気づいていないのか愚か者めぇ!』
そう息巻いている魔導王の言葉に違和感を覚えた波留ノは、周囲を見渡すとある事実に気づく。
(森が枯れてる!)
そう周囲の森が枯れ、川が干上がり、動物がバタバタと倒れて、日が沈む。
『どうだ!吾輩の最後の攻撃わぁぁ!。この太陽系中の全生物の生命エネルギーから星々の膨大なエネルギーまで全てのありとあらゆるエネルギーをこの一撃の元に吸収したぁ!。この技の名を”崩壊ノ嵐”。』
その言葉に偽りはなく、魔導王がその技を作り出して直後。植物は全て枯れて自然が育つ環境の地面が風化しひび割れた荒野と化す。
それから沈んだ日は二度と戻らず、太陽が消えたことで寒さで地球の海が大地が空が全てが凍り付いてしまう。
それはまさに世界の崩壊、それを予感させるほどの絶対的力。
「んだよ、やけになって惑星崩壊とかドラゴンボールかよぉ!フリーザかよセルかよぉー!」
「案ずるな、この世界は犠牲になるがあれが奴の最終手段。あれを放てば奴はもう立てまい、これを耐えれば勝ちだぞ!波留ノ!」
「耐えるつったって…」
波留ノは目の前の非現実に困惑のあまり、人生で初の弱音を吐くところだった。
しかし、それを最果ては許さないし何より自身の信念がそれを許さない。
「やってやらぁぁあ!!!耐えりゃーいいんだろう耐えりぁーよぉぉお!!!」
波留ノが、熱く心に誓うと同時に魔導王は終始高笑いを浮かべたまま太陽系中の全エネルギーの乗った球体を一つの惑星レベルまで圧縮し今立つこの星にぶつける。
『絶望しろ勇者波留ノ!ものの一行動で世界が星々が崩壊しそこに暮らす生物全ての命を奪い取る。これが魔王の真の力だぁ!』
「御託はいいからさっさと落とせよ、かめはめ波よろしく!俺の剣で空中分解させてやるよぉ…」
魔導王はがそれを放り投げると、揺れていた大地の表面が削り喰らわれそのまま大地を飲み込まんとするが波留ノがすんでのところで左腕の盾を使って受け止める。
「うぉぉぉ!!!」
『永久に散れぇ、勇者ァァァ!!!』
「ざっけんな!」
二人の力のぶつかり合い、相殺するか退魔ノ剣。
はたまた、貫くか魔導王の必殺崩壊ノ嵐。
両者一歩も譲らず、決死の攻防。
しかしやや魔導王が優勢に思われ、大地をえぐるエネルギーの塊に波留ノの足が後ろに…また後ろにと後退する。
『諦めるのだな勇者…』
「諦めれっかよ!こんなとこでぇ!」
その瞬間、波留ノの脳裏を過る妹の声。
「散れねぇーんだよ…例えどんな犠牲を出そうが、お天道様に背ぇー向けようが、恥さらそうが、血反吐吐こうが…」
その瞬間、脳裏に浮かぶ妹の笑顔。
「罪だって悪だって!何度でも犯してやる。俺にはまだぁ…」
その瞬間、脳裏に浮かぶ…
「ごめんねお兄ちゃん…」
病になり、涙の中詫びる妹の顔と声。
「”支えて!護って!救わなきゃならねぇー妹がいんだよぉぉおぉぉおぉぉぉ!!!”」
最後の決意が、心が、思考が…”繋がりが”彼の力となってその身に現象として現れる。
『これはまさか…』
そう、受け止めていた退魔ノ剣グラディエーターに搭載された。
左腕の盾が巨大化し、右腕の剣を背にして地面に突き刺し足を止めてその攻撃を宇宙の彼方へと魔導王の方角に向けて押し返す。
『ひっ…ひっ…ひでぇぶぅぅぅ!!!』
「さんざんドラゴンボールいじった挙句に、最後の悲鳴は北斗の拳かよ。全く、最後まで取っ散らかったまとまりのねぇーパロディーやろーが…」
魔導王は、自身の放った光弾と共に宇宙へ飛び立ち宇宙空間での爆発によりこの世を去った。
そしてそれと同時に、最果ての肉体が光り輝きその身を幼児から小学校低学年程度に成長させる。
「これで多少力が戻ったな…」
「そうか!そりゃーよかった。んで、この有様な訳だがどうする?」
「どうするとは?」
「だから…お前の戻った力で何とかしてやれねぇーもんかなって。このままだとこの星もやべーし俺達も暮らして行けねぇーだろ?。」
波留ノがそう述べると、最果ては「案ずるな」と言って指パッチンをする。
すると周囲の氷が溶けて外の世界があらわになると同時に、波留ノは衝撃を受ける。
「森もあるし、山も、地面も、川も、空気も…」
「言ったろ、案ずるなと。我は最強最古の魔王、魔月神”最果ての魔王”だぞ。力の寸分でも取り戻せば世界の一つ二つ再構築するなど造作もない。」
最果てが余裕そうな顔でそう言うと、波留ノは再び「お前、大概なんでもありだな…」と少し引き気味でツッコミ。
最果てはその表情を見るや否や、もう一度指パッチンんをして場所を移動させ街へとテレポートする。
「あれ?ここ確か…」
「あ?覚えていないのか。王都だよ、先ほどまでいたな…」
波留ノが驚いたのはそこではない、王都だけでなくそこに暮らす人々もそっくりそのまま何事もなかったかの如く元通りになっているのだ。
(これが魔王の力、すげぇー。世界だって、死人だってなんだって…思いのままに治せるし壊せる。これなら俺の妹も!)
そう確信した波留ノは魔王に導かれ、次の世界へと歩みを進めるのであった。
次回…
「ようこそ、永劫の学園へ…」
【永劫ノ学園と不滅ノ魔王】