第三話 魔導王襲来
「「はぁ~はぁ~…」」
二人は走り回って息を切らせながら、とある路地裏で追ってを巻いた。
「おいおい、なんで世界最強の魔王がバテてんだよ。」
「汝こそ、こんな体力で魔王をやれるのか?相手は汝のいた地球と言う星の8千倍の星を歩いて七週半できる連中の集まりだぞ。」
意味わからんインド神話みたいな規模間に、波留ノはあきれつつも確かに体力の問題を感じていた。
「筋トレは欠かさずやってるはずなんだけどどうして…」
「なぁーに簡単だ、この世界は汝達のいた地球の20倍重力が重い。もっとも、その分生物、建物含め耐久力もお前達の世界の比ではないがな。」
「はぁー!んなら何で、戦う時はあんなに体が軽いんだ?」
「それは勇者の加護によるものじゃろう、そしてお前はまだ正確には勇者ではないから力を完全に引き出せておらんのだ。」
最果てのその言葉に、波留ノは再び「はぁ?」と返して最果てはその反応を見るや否や次のように述べた。
「いいか、この世界の異能である加護には必ずリスクとリターンが発生する。」
「リスクとリターン?」
「そう、例えばあの転生殺しがそうだ。」
「あぁーあの甲冑の?」
「あ奴は自身の鎧と剣に”転生者以外の一切を傷つけられない”と言うリスクを払い”対象の能力や体質などの一切を無視して対象が転生者ならば必ず一撃の元に葬りさる”と言うリターンを得た。」
最果てが路地裏で語ったこの世界の異能力、”加護”の説明はとてつもないものだった。
「んだよそれ!つまり、今俺がお前以外を絶対殺せないってリスクを駆けたら俺はお前にだけ最強になるってことか?」
「そうだな、その代わりお前は正真正銘我以外を殺せなくなる。自分自身もな…」
「含みがあるな、そりゃーどう言う意味だ?」
最果てはその仕組みの難解さと、利便性について語った。
彼女曰く、対象一人の人間のみを殺せなくなると言うことはそれ以外の森羅万象。
あらゆる存在の殺す、無機物であれば壊すに該当する現象もしくはそれを起こしうる可能性のある現象が一切起こせなくなる。
そして、自身すら殺せないと言うことはその肉体に老死はなく不死者となる。
「しかしだ波留ノ、殺すこと壊すことができないと言うことは例えば物や人に触れただけで殺せるもしくは壊れるかもしれないと言うごくわずかな可能性も消し去られると言うこと。もっと言うなら地面を踏んでいることで地面を壊すかもしれないし、空気を吸い込んだことでその空気を体内で分解してしまうかもしれない…」
「拡大解釈か?意味わかんなぁーぞ。」
「そうだな、しかしそれがこの世界の現実だ。最も、我のような上位魔王には存在せんがなそんな制約。」
せっかく理解しかかった波留ノ頭にさらなる疑問が…
「テメェー!マジで訳わかんなぁーこと言ってんじゃ!」
『突然だろう、吾輩達魔王は"契約をし力を分け与える側"。上位存在なのだから…』
路地裏で会話している二人の背後から、まるで心の底から響くような声が聞こえる。
「なんだテメェ!気持ち悪いぃー声の掛け方してんじゃねぇーぞ。なんだ?この世界じゃテレパシーは普通のなのか?あ"ぁー!」
「おっとこれは失礼、吾輩は、七十二宙第71神座…"魔導王"と申すもの。」
「聞いてねぇーよ!いや…お前魔王なのか…」
波留ノは相手が魔王とわかるやいなや、目にも止まらぬ早さで背後をとって…
「オラァ!」
殴りつける。
「聞きませんよ、それに貴方の相手は吾輩では無い…」
「んだと?」
そう言って魔導王の周囲から現れたのは、複数対のゴーレム。
「これが吾輩の力の一つ、"錬金術"。彼らを倒してから、出直しなさい。」
魔導王が生み出したそれらは波留ノとほぼ同速で殴りかかりそのスペックを波留ノや最果てに見せつける。
「んだよ!やるじゃん。お前ら…」
波留ノは、苦戦していた。目の前に生み出され続ける言わば意思の無いノーネームドのモブキャラのような奴らに。自身と同スペックの量産品、数は遥かに多い。
負けている、このままでは負けると波留ノは戦いながらに確信した。
しかし…それを"最果ての魔王"は許さない。
(波留ノよ、それが自身の今の実力。しかし奴らはただのモブ、魔王の力の一割にも満たないカス同然の傀儡。それにやられる要では魔王討伐など…)
勇者の身体能力一つでは、決して敵わぬ無数の敵。
一体一体倒すことはできても、その数は無限に等しい。
それに何より波留ノの頭を悩ます要素がもう一つ…
(こいつら…くそ硬てぇー…)
ゴーレムは、錬金術によって魔導王が触れた周囲の地面や壁から作られている。
それに加え、魔導王の掌握化に置かれていることで魔導王からの身体能力、攻撃力、そして耐久力の大幅なバフを受けている。
故に"硬い"、故に破壊できず"倒せない"。
(身体能力が同じでも、波留。汝には天性の戦闘センスがある。だから捌き切れるだろう…が、しかし倒せるだけの火力が無い。波留ノよ気づけ…"禁を貸さねば何も得られない"、ノーリスクで得られるものなど何一つ無いと言う事実に…)
最果ては願う、波留ノの勇者としての覚醒を。
そしてそのために必要なピースを、彼女はあえて"会話"と言う形で彼に教えた。
しかし、それに気づけるかは"勇者・波留ノ"、彼しだいである。
(数にキリがねぇー上に、硬くて壊さねぇー。んでも、わかってんだ…こいつはあの野郎の力の一端でしか無いことくらい。どうやったらいい!どうやったらこいつに勝てる…)
その瞬間、波留の脳裏に浮かんだ最果てとの会話。
(それだ!)
その脳裏に浮かぶ「奴は転生者以外の一切を傷つけられない事を代償に…転生者を一撃の元に葬りさる力を得た」と言う部分に感化され、"波留ノ・祇厨理は覚醒にいたる。"
(なぁーなぁーお天道さんよぉー!。…ずっと背いてきた半端もんの俺は嫌いかも知れねぇーが、もし…もしよぉー!。力くれんなら…)
「"俺は一切の邪悪を薙ぎ払う代償に、俺の牙は一切の万人や善人にその力を振るえない。"」
その瞬間、賭けたリスクを代償に変幻した波留ノの右腕。
それは白く何より純白な色をした剣、刃先には十字の傷が付けられた剣と…"左腕には同色の盾"を備えていた。
「"退魔の剣!マーク1・グラディエーターァァァ!!!"」
それが、少年の持った力の名であった。
「なるほど、白き純白の力。確かに勇者のそれですねぇ〜。」
力を見るや否や、考察を始める魔導王。
力を警戒してから、魔導王は指パッチンで更にゴーレムの生成速度をあげ応戦する。
それに対し波留ノは…
「オオオオオオオォォォォォォ…ラァ!!!」
向かってくるゴーレム達に向けて、その全てを屠らんとする横切りで応戦し蹴散らす。
「ならばこれでどうです?闇ノ無人機」
魔導王の手によって生み出された魔王の力を強く受けて、黒く染まった鎧を持つ二体のゴーレム。
「波留ノ!そやつらはの強度は先ほど比ではない。魔王の力が強まっておるからな!気をつけろ!。」
魔導王が生み出した目の前にいるゴーレムの強度を、最果ては察知し波留ノに声を張って助言をする。
それに波留ノは…
「たりめぇだぁぁぁ!!!」
一撃で片方を粉に変え、もう片方の攻撃を盾で受け止め白き剣の一撃の元にまた白き粉に変える。
これぞまさに"粉々"と言う奴だろうか。
(ありえない!ダイヤモンドの8億倍の強度を持つ吾輩が作り出した"黒魔石"性のゴーレムだぞ。あの剣に一体どのようなリスクを貸したと言うのだ!)
困惑する魔導王に向けて、波留ノは拳を突き出し彼にこう告げる。
「こいよ魔王!ビビってんのか?あ"ぁぁぁー!」
「フフッ…面白い!勇者ァァァ!!!」
「魔王ォォォ!!!」
次回!
「吾輩は魔導王、魔術、錬金術、召喚術…あらゆる術を極めた魔導士の王なりぃ!」
【魔導王覚醒】