第二章【第九話 次元の違い…】
「滑稽だな、はてどうする勇者よ。手も足も出んどころか肝心の手と足を失ってしまって…」
ここは一面雪景色の中心、身の毛もよだつ魔王の眼前。
そこに天狼寺は立っていた、目の前に座す…”序列第二位・狼王の御前に…
そして現在彼女は、半身を再生不能になるほどの、高密度な斬撃により負傷しており、
その後、四肢を捥がれて地面に這いつくばるのみ…
「勇者よ、這いつくばる姿はまるでゴキブリだな。そのままでは辛かろう、殺してしまおうか。」
「あんたになんか…絶対…負けない…」
天狼寺は、勇者の生命力によりギリギリ半身が吹き飛んでもその口と脳だけは少しながら動かせた。
「ほほう、まだ私の前でそのような口が聞けたのか。」
天狼寺は狼王に、鋭い眼光を飛ばす。
「よい、その心意気に免じて…容易く葬ってやろう。では、永遠にな…」
狼王は、今まで天狼寺との戦闘で使った技の中でも、最大と思われる一撃で彼女のトドメを告げた。
「"魔王閃"」
それは、自身の展開した極寒の空間。
その広さ、通常宇宙の約1億倍のそれを、容易く蹴破る威力であった。
当然、骨も皮膚も残りようがない…。
「う…あ…あぁ…」
はずだった。
「馬鹿な…」
「悪いけど、私の能力は《自身を含む全存在に均等に力を振り分ける》こと…つまり…」
「私との力関係を均等にしたのか…」
「そう言うこと…」
天狼寺のリスクとリターン、それは《自身を含む全存在に均等に力を振り分ける》にすること…。
それ即ち、力関係の喪失。
自身より、格上に対するアンチテーゼ的異能。
これ受け、威力は減少し本来自身の空間内を破壊する威力が天狼寺により弱体化。
空間の半壊までに止め、自身はそれ以上の耐久力を狼王から受け取った。
「これは厄介…手を打たねばな。」
「これで終わりだと思わないで…、"勇眼"!。」
勇者の中でも、女神の寵愛を受けた者のみに許された希望の眼…。
「この目で私は、あなたの全てを”模倣”し”凌駕”する!。」
故に、”上位コピー”。
相手を自身のレベルまで落とし、自身は相手の全てをそれ以上の力で引き出す、”無敵”の異能。
「ほほう、ならば見せてみよ。そなたの奥の手、この王の御前で…」
「言われなくとも…」
そして今、歴史上。
恐らく、勇者が振るうことの決してない”闇の閃光”が今…。
「”魔王閃”」
今度こそ、完全な形で放たれ…。
「残念だ…」
「がはぁ…」
なかった。
「そなたに言っておくが、なぜ魔王以外がこの技を使わんかわかるか?。それは肉体適正の問題だ。」
「適正?」
「さよう、本来人間やもちろん勇者の肉体は強大な闇に耐えられるようにできておらん。しかし勇者は、その肉体に女神の光を、無意識化で常時に纏うことで魔王の負の力に耐えうる肉体を得た。」
「なら…」
「しかしだ、それはあくまで外的要因の話…内部に闇を飼えるように、勇者の体はできておらん。」
「は…」
「一つ聞いても良いか、”万理の模倣”と言うと聞こえはいいが…預かり知れぬ”力技”を真似た、それのどこが脅威だと言うのだ?」
とどのつまり、現在天狼寺は、自身で使おうとした技でその肉体を自滅させた状態にあるのだ。
そのため、血反吐を吐いて俯いている…。
「そうだ、さらに勇者の肉体を痛めつけるいい技が一つある。…」
すると、狼王は地面に向かって指を刺し。
「”魔王之深淵”」
天狼寺の立つ地面に、巨大な黒い穴を出現させた。
「わぁぁぁ!!!」
「そこに落ちれば、生きては戻れん。永遠の奈落で、闇がお前を待っている…。」
狼王が言う通り、落ちて行った先で天狼寺を待っていたのは、穴の左右から伸びる無数の手。
「それらはお前の肉を欲している、つまりお前は餌、食べやすいようにバラバラのミンチにされてあの世へ~。」
「こんなもの、勇者の再生能力なら…」
「無駄だ、勇者の力は天から舞い降りし女神が与えた”光”の力。深淵は光すら閉ざす闇の中の闇、そこではそなたの力の全てが無力だ。」
天狼寺は悟っていた、絶望する暇すらなく、逆転の希望をへし折られ、深淵へと突き落とされた…自身の愚かさを呪いながら…その死期を…。
”【彼女、だけならね。】”
「!」
狼王が勝利を確信し、閉じていく穴を見届けることなくその場を去ろうとした瞬間。
「お前は…」
その耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
【久しぶりだね、狼王くん…】
「久しいな、魔王序列元37位…”不滅王”。」
漆黒の炎を纏う不滅の姿があった…。
「不滅ちゃん!…どうして。」
【最果てが、「我は波留ノの方へ行くから、お前は天狼寺のとこ行けって。」】
その頃一方、波留ノは…
「おーい!魔王はいるかぁー!」
城の中で、迷子になっていた。
「おっかしぃなぁ~確かこっちに階段があったはずなのに…」
(「クックック、滑稽、滑稽、実に下等種族らしい察しの悪さ…」)
「誰だ!」
そんなこんなで迷っていると、背後から知らない声がする。
「誰だとは、無礼であるぞ。この”序列第一位”・始まりの魔王、”蜘蛛王”の御前だと言うのに…」
目の前に突如として現れた魔王を自称する…
「蜘蛛?」
極めて小さい、ただの蜘蛛。
「失敬な、己は序列第一位・暴虐武人の殺戮マシーン事蜘蛛王であるぞ。原点にしてちょうて…」
波留ノは、迷わず目の前に現れた小さな蜘蛛を手で掴み握り潰そうとする。
「おい!なぜ潰そうとする!。無礼だと言っておろうが!」
「いや、普通に考えて目の前に魔王自称する喋るただの蜘蛛出てきたら、やれそうなうちにやるだろ…。」
「お前な!朝蜘蛛を殺すと縁起が悪いんだぞ!」
「今、朝なのか?ここ空ねぇーしずっと暗いからよくわかんねぇー。」
なにはともあれ、最後の魔王を見つけ対峙?…する、波留ノであった。