第二章【第七話 闇と光…】
「勝てない…そうだな、俺はお前に”闇”の中じゃ勝てねぇーよ確かに…」
不滅が追い詰められ、天狼寺が手も足もでない中で波留ノただ一人が抗っていた。
目の前の最強の魔王の一角に…
「そうだ、俺は闇の中じゃ負けやせんぜよ。」
「ならよぉ…」
圧倒的に不利な状況と圧倒的に格上の相手、それを前に波留ノは今だ立ち上がり…
その拳を相手に向ける。
「もう弓はしまいか?魔王殺し…」
「図々しい、お前が折ったんだろうが…まぁーでも、俺の武器は折れても…俺の。いや、俺達の心はぁ!」
武器を折られ、その身を傷つけられ、それでも今だ彼の目に宿る闘志の炎は灯り続けている。
その理由は…
「”誰にも折れやしねぇーーーよぉぉぉ!!!”」
仲間を信じ、それと同時に自身の力を信じる。
波留ノの圧倒的な自信の表れが、そこにはあった。
そして魔王は、この何も見えない暗闇の中で…
ひときわ目立つその闘志の灯を、かき消すために動きだす。
「波留ノぉぉぉ!!!シズリぃぃぃ!!!」
当然、波留ノには何も見えていない。
向かってくる羽音すら、先の超音波で耳がイカれて聞こえやしない。
会話は偶然にかみ合い、その形を保っているだけに過ぎない。
しかし、彼の拳は…その闘志に燃え盛る目だけは!
不思議と…目の前の敵を捉えて見えた。
「俺な、前回の戦いで…緋色の魔神に言ったことがあるんだ。」
「あ”!」
「”俺は後、三つ残してるぜ…能力”を…」
蝙蝠の王が、その言葉に聞き耳を立てながらも「戯言」と罵り構わず攻撃を仕掛けたその瞬間。
波留ノの肉体に変化が起きる。
「闘気開放…」
波留ノが蝙蝠の攻撃を受ける直前で、纏ったそれは純白のように白い何か…
彼はそれを”闘気”と呼び。
その開放を高らかに宣言し、蝙蝠はそれに攻撃を仕掛けた。
しかし!
「なぜだ!?…なぜ俺が…」
「”ダメージを喰らっている”…か。」
攻撃をしたはずの蝙蝠は、その闘気に触れた瞬間。
攻撃をした指先の爪が溶けてなくなり、その事実に驚愕する。
「闘気ってのは、勇者の基本技の一つ。自身に流れる退魔の力を武器以外の形で対外に放出する…そんなシンプルな技だ。」
「なん…だと…」
蝙蝠は驚愕していた。
今まで数多くの勇者と戦ってきたが、そんな技を使う者は見たことが無い。
それはなぜか…答えはシンプル。
「その技を教えたのは、アガイアレプトだな。」
「そうだ…」
アガイアレプトの司る、高貴なる水の支配の特性は”流れ”。
この世のあらゆる流れ、時空だろうと次元だろうと動作や生命にだって流れがある。
それらを支配するアガイアレプトに攻撃は通用しない。
故に最強、そんな彼女が教えた覚えていて当然の基本技。
それは、本来勇者を教育する女神すら至らなかった発想の転換。
「勇者の力をそのままエネルギーとして使う、こうすればこんな事だって…」
そう言って次に波留ノがやって見せたのは、目に闘気を纏うと言う芸当。
「ここは魔王の作りだした闇、退魔は弱点。つまり…」
「見えているのぜよ、その目でこの俺が…」
「そう言うことだぁ!」
もう一度説明する、この少年”波留ノ・シズリ”の能力は…
《俺は一切の邪悪を薙ぎ払う代償に、俺の牙は一切の万人や善人にその力を振るえない。》
と言うものである。
これを波留ノは、略称として”退魔の力”と呼んでいる。
そしてこの能力であれば、波留ノは魔王の力の一切。
その力が強大であればあるほど、その力を無効として自身の力を強化できる。
そして相手は上位10宙の一人にして、闇と夜を愛する蝙蝠の王。
魔王の力が強大故に、波留ノ力はより強化され…
「今の俺には、何から何までお見通しだぜ…」
目に纏った闘気は、その目の視力をさらに底上げし闇の中を見通し。
今…魔王に向かい放たれ用としている拳の闘気をより強化して強く、強靭に変えて魔王のその身を滅ぼす。
「うあぁぁぁ!!!」
「こいつは、勇者の闘気を魔王の体内に直接流し込んで爆発させる…」
故に名を…
「”魔王爆殺拳”!」
その強力な、技に思わず白目を向いてしまう魔王に追い打ちをかけるかの如く波留ノはこう発した。
「そいつはまだフルパワーじゃない、ただの前座。俺にはまだ”レベル2”があんだぜ!」
「まさか!」
レベルとは、勇者の使う武器の進化形態の名前。
波留ノの使う剣から弓へ、弓から…のように全然性質の違う武器に派生するのでは無く剣は剣のまま弓は弓のまま似た性質のさらに上位のもの進化する。
そして波留ノが編み出したレベル2は、ただ一つ…
「退魔ノ剣・マーク1/レベル2…ファイターぁぁぁ!!!」
その拳に再び纏われたのは、剣と盾では無く純白のグローブ。
それを纏い、その上から闘気をさらに纏い振るう拳は…
「これがぁ!闇を打ち滅ぼすぅ!!…”光の一撃だぁぁぁ!!!”」
放たれた強打の速度は、光が止まって見える速度…否。
900憶光年の宇宙を一瞬で駆け走る速度…否。
その一撃の速度を表すなら…音、光、宇宙を置き去りしてなお上がり続けるその速度の名を表すなら!
(だめだ…避けられん…)
速度が存在するために必要な、”時”。
それを動くより前、まだ動作が起きる前の静止した時の中の時間。
故にその速度の名を、”不動ノ時間”と呼ぶ。
「おらぁぁぁ!!!」
静止した時の中で、その時間より早く動く波留ノのみがその中で動けている。
魔王は動けぬまでも知覚はしているが…だからこそ残酷。
分かっていて避けられない、不可避の恐怖に魔王はただ絶望し…
「ぎゃぁぁぁ!!!」
その身を退魔の光で焼かれ、屠られた。
「ヘヘッ!まだ何か隠していたようだが…出す前に終わっちまったな…」
魔王序列第七位・蝙蝠の王。
その身を弱点である退魔の焔に焼かれ、第二形態を出せずして退場。
一方その頃、追い詰められたはずの不滅もまた…
【僕だって、魔王だよ…】
波留ノとは対照的に、女神の炎の圧倒的な光に対抗するだけの闇の焔を纏ってその身を焦がす。
【闇之焔埜不死鳥】
次回…
第二章【第八話 女神の炎と邪神の焔…】