第二章 【第五話 劣等感】
獅子王と不滅は、両者共に後天的に…
誰かから継承する形で魔王となった。
だからこそ、その指導役としてアガイアレプトが抜擢された。
「獅子君はさぁ~魔王に…なりたかった?」
不滅にとって魔王は呪縛、弟を助けるためにとった最悪の手段。
「吾輩は…”ただ力が欲しかった…”。誰にも何も奪われぬだけの力が…」
獅子王は元々勇者の仲間であった。
獣人の戦士として、彼は勇者と共に魔王を倒す救世の旅をしていた。
一番のタンク、一番のアタック。
彼は頼れる存在であった、しかしそんな彼を絶望させる出来事があった…
「おい!おいぃ!」
その代の勇者、そしてその勇者のパーティーが自身を残して全滅したことだ。
「吾輩は、序列第五位…猫之王…」
仲間を弔う暇すらなく…目の前に立ちはだかる巨悪。
それに挑み世界を救えるのはもう…自身ただ一人…
「おぉぉぉ!!!」
世界を救うため、彼は無謀だと知りつつそれでも全力を持って魔王に向かっていく。
かつての獅子王。
「君、度胸だけは認めるけどにゃぁ~…流石にバカ過ぎ…」
向かってくる獅子王を前に、魔王は「猫又」と唱える。
すると、背後の地面から無数の触手のように蠢く何かが現れ獅子王を阻む。
「斬鉄!」
獅子王の鋭い爪が、襲い来る触手のようなものを両断しながらただ…
目の前の魔王に向けて猛進する。
「はぁ~、君みたいな暑苦しいのは面倒だにゃぁ~…やっぱ…」
獅子王が魔王に到達し、攻撃を仕掛ける直前。
魔王は一瞬にして、その姿を消し…
「”力でわからせるしか、無いにゃ…”」
獅子王が反応できない速度で、魔王は真横に移動し。
両足で飛び蹴りを獅子王に繰り出す。
「ぐぁ!」
一瞬のうめき声と共に、とんでもない爆音で遥か彼方に吹き飛ばされる獅子王。
「やっぱり大したこと無いにゃ…”魔多々旅”」
魔王は先ほどの速度より数段上…いや、もう速度と言う次元にいない。
空間跳躍の類いで、吹き飛ばされた獅子王の地点まで移動し…
「がぁ!」
「諦めろにゃ…」
獅子王の首根っこを摑み、もう片方の手の平に「闇炎」を作り出し獅子王の顔にそれを近づけ追い詰める。
「やはり雑作もない、勇者も含め有象無象の雑兵。お前もその一人に過ぎなかったようだな…にゃハッハッ」
魔王が勝利を確信し、殺す直前で高笑いを浮かべる中…
彼は、懐に隠した一本の短剣を取り出し魔王の首に…
(グチャ!…ポタポタポタ…)
「あ”…あ…」
流れるどす黒い魔王の血と共に、猫之魔王は力尽きてその場に寝そべる。
「はぁ~はぁ~…いくら魔王と言えど、勇者の剣に宿る魔王特攻の前では…その強靭な皮膚も意味をなさん…」
「いつから…剣を…」
力尽きる直前、猫之魔王は獅子王に問いかける…
「貴様が与えてくれたもう一つの隙…瀕死の勇者に寄り添ったあの時さ…」
獅子王は瀕死の勇者を抱きかかえ、声をかける中。
微かな意識で勇者は、獅子王に短剣と化した勇者の剣を託し…
友の腕の中で静かに絶命した。
「なるほど…みゃぁーははめられたわけだ…でも心せよ…獅子の戦士よ…」
獅子王が息が残る魔王にとどめを刺そうと近づく最中。
魔王は気になることを口走る…
「なぜ魔王を殺すのが必ず勇者なのか?その理由は…」
獅子王が確実に当てられる場所まで近づき、上から勇者の剣を振り下ろしそれが魔王の心臓に至る直前。
「”勇者以外が魔王を倒せば…その者が次の魔王になるからだ…”」
獅子王は衝撃の真実と共に剣を心臓に突き刺し…そして…仲間を殺した忌々しい魔王へと変貌したのだ…
そして今に至る…
「魔王になって、配下を従え理解した。魔王とは絶対的な力の象徴、常に誰よりも強くなくてはならない…」
彼は強さを求める、次なる脅威が自身の配下を…魔族の国を…自身から奪わぬように…
「魔神の野郎に従うのは尺だが、女神と勇者に滅ぼされた我が国を復活させてくれるなら本望。次こそ失わん…そのために力がいる。不滅、お前の力が…」
不滅王は死なない、その眷属である配下も同様に滅びない。
滅びても、一定周期でまた一年生から学園に入学し復活する。
つまり、仲間を失いたくない獅子王にとっては願ってもない力。
「でも!獅子君だって他者を癒せるじゃないか!僕にはできない!」
「癒すと言っても死ねば癒せぬ…目を話して配下が死んでいたら。もうその配下とは二度とあえん…」
癒す力と不滅の力は似て非なる者…
それに獅子王は不滅の持つもう一つの力にも憧れていた。
「貴様の不滅の焔…それも羨ましかった…他者と自身を癒す我に足りない高火力の極み…」
獅子王はずっと前から嫉妬していた。
魔王として序列が自身より下の者が、自身より優れた力を持っている。
なのにその者はそれを持て余している現実に…
「魔王同士の差し合いは禁止されているが!…勇者にやられ寝返ったお前はもう魔王ではない。…お前を倒し我は長年欲したお前の力を吸収し強くなる…」
「どうしても…戦わなきゃいけないんだね…」
二人は向き合い、互いの目的の前にぶつかり合う…
「「いざ尋常に…勝負!」」
ぶつかり合うタイミングは全くの同時、しかしやはり物理攻撃では獅子王に武があるのか吹き飛ばされる不滅。
「不滅之…」
吹き飛ばされ距離ができたことで、不滅はいつもの如く炎の弓を作り出して彼に高火力にして消えぬ不死鳥之矢を喰らわせようと構える。
しかし…
「”頭が高い”」
獅子王の言葉と共に突如として発生する強力な高重力。
「我は獅子王…獅子とは本来”百獣の王”。あらゆる生態系の頂点に立つ存在…他を従えるためにはそれ相応の圧力が必要だろ」
それが故の”重力”、他者をひざまづかせるための高重力。
その圧力に不滅は逆らえない。
「我が一歩づつ貴様に近づくたびにだんだんとその圧力はまし…完全に零距離になる頃にはその身が押しつぶされるぞ」
「やってみてよ…どうせ僕は不滅…」
「”ちこうよれ”!」
不滅がそんなことで滅ぼせるとは鼻から獅子王は思っていない。
だからこそ、次に使うのは引力。
自身に近づかせゆっくりといたぶる…
「滅びはなくとも、泣き虫なお前がどこまで耐えられるかな…」
獅子王は近くに寄せ、身動き一つ取れない不滅の全身をズタズタに切り刻み。
その攻撃に、思わず悲痛な叫びを上げてしまう不滅。
「痛めつけても痛めつけても再生する!いいなぁーこれ。最高のサンドバッグだぁぁぁ!!!」
完全に痛みに負けそうになる自身の精神の最中…
不滅は最果てのある言葉を思い出す。
「不滅よ、お前は相手の攻撃を喰らってから再生すると思い込んでいるようじゃが…死なないと言うことはもっと別のやり方に利用できる…例えばそう…」
(僕の体質の…本当の使い方…)
不滅は思い返し…負けそうな精神の隙間に、とある技の存在を思い出す。
「世界創成之焔…自爆…」
不滅は燃えれば二度と消えない炎を獅子王に浴びせるため、自身事その炎の火力で内部から爆発させてビックバンを引き起こす。
「うぁぁぁ!!!」
至近距離でいたぶっていた獅子王は当然それに巻き込まれ全身を…その身が滅ぶまで焼かれ続ける。
「これで…おしまいだよ…」
当然不滅は灰となっても、炎の中から再び完全な自分を取り戻し復活する。
「”灰は灰に…塵は塵に…傲慢な罪人を…焼き尽くすまで…”」
それでも滅びを拒絶する獅子王の強靭な肉体に、確実な死を与えるための詠唱。
「青之焔鳥…創成之焔」
それは更なる高火力な炎、通常のビックバンが宇宙一つを破壊する力だとすれば…
これは”無限の多次元宇宙”全てを一撃の元に灰にしてしまう業火。
流石の上位魔王もこれには死を待つ他ない…
そのはずだった…
次回…
「貴公ら…何か勘違いしているんじゃないのか?」
【第六話 第二形態】