第十五話 不滅王と緋色の悪魔…
『悪意なき善意…人でなき人…アフラ・マズダの名に置いてその一切灰燼、焦土をを創造の光で迎え打たん…”善神之矢”』
アガイアレプトにより、その言葉が言い放たれた瞬間。
周囲に純白と蒼炎の化身が出現する、それはまさに神々しく神。
その化身が目の前の緋色の魔神に向けて手を人払いすると、当然緋色は例の鎌で次元ごと化身を切り裂く。
『無駄だ、破壊の力では”完全なる創造”には遠く及ばん…』
その発言の通り、緋色の次元や時空間すら歪める鎌ですらびくともせず緋色はまともにそれを受けてしまう。
『どう言うことだ…】
『いったろ、完全なる創造と…それらはお前の破壊と混沌の力を超越した不腐、不変、不滅の品々だ。けした、例え勇者だろうと最果ての魔王様ですらそれを壊すことはできない…そう言う理なのさ…』
なんと、アガイアレプトが作り出した果てしない大きさのその化身は決して傷つけることも汚すことも存在を消すこともできない。
不動にして不変の化身であったのだ。
『そんな無茶苦茶あるかよ…】
『無茶苦茶?はて…そもそも僕は”高貴なる水の魔神”。水とは流れ、あらゆる力の流れは僕が司る。時が動く、空間が蠢き、次元が動かされる…破壊とは本来の動きと反した時に起きる相互作用なんだよ。つまり…』
『流れを止めてしまえば、破壊は発生しない…】
『そう言うこと…さぁーもうちょっとだけ無茶苦茶にしようかな!』
そう言って、アガイアレプトが指パッチンをすると周囲を取り囲むように現れた7体の天使。
『善行を遂行するための不滅不在不動の大聖霊』
それらは、先ほどの善神どうようの素材でできた天使の軍勢。
一人一人異能はなく、一律に同じ武器、同じ装備、同じ翼を与えられた白き像。
しかし、そんな個性のかけらもないただの純白の像が緋色にとっては天敵となりえた。
『…やれ…』
アガイアレプトの指示とともに、彼らは動きただ一心不乱に目の前の敵を処理しようと光の槍をなげ、刺し、振るい、緋色を追い詰める。
『宇宙想像ノ煌!】
対抗するため放った破壊の爆風しかし…
「ジ…ジジ…テキヲ、センメル…スル」
彼らは壊れた機械のような、声で呻くだけで無傷。
「天…理ノ…咆哮…」
するとそのうちの一体が、槍を空中に投げ両手を合わせて前に突き出す。
すると投げられた槍を中心に、光輪が出現し光を蓄えそののち…槍は巨大なビームとなって緋色を襲う。
『クソがぁ!調子のんなよただのモブがぁー!…】
その光に浄化されまいと、緋色は鎌を回転させ直撃をさけ900億光年の宇宙を一瞬で駆けるほどのスピードで天使達の背後に回り…
『くたばり、消えろぉ!混沌ノ弾丸】
それは宇宙想像以前の闇、決して誰にも制御できぬ混沌と破壊の化身…
その力を凝縮し打ち放つこの技は、直撃した者の姿形を歪め。
再生も復活も再構築もできない、奇怪な姿へと変えてぶっ殺す。
美しく散ることを許さんする、絶対の攻撃。
『フフッ…ハッハッハ!醜く散れよ!!天使共ぉぉぉ!!!】
立ち込める混沌の煙が、彼らを隠し死を悟らせる。
『なにも変わらんさ…』
アガイアレプトがそう言い捨てると、先ほどの大天使が一体の超天使となって復活。
「な…ぜ…」
「我々は助合い、手を取り合って進化するのだ…破壊の申し子よ…」
そして超天使は、900億光年を駆ける緋色のスピードが霞んで見えるほどの速度で緋色の首根っこしっかりと摑み。
その目の前に、視界に入れるだけで目を焼き焦がすほどの光を放つ槍を突き付ける。
『もうよい!』
アガイアレプトはそれを止め、緋色の首を話すように天使に命じて緋色は間一髪助かった。
『情けをかけるなんて…あんたらしくねぇ~…】
『馬鹿を言え、時間が来たから止めたまでだ…』
『時間?】
アガイアレプトがそう言うと、背後から赤黒矢が飛んできて緋色の胸を貫く。
「悪魔ノ矢」
アガイアレプトが宣告した通り、わずか60分にして魔月神・最果ての魔王…
”現地に到着”。
『お久ぶりです、魔王様。』
「よいよい、今はこんななりじゃ。我に頭など下げるな…」
『そうは参りません、力を失ったとは言え。魔王様は魔王様…魔神となった今でも主であることに代わりはありませんから。』
「ほぉ~まったく律儀な奴じゃのぉ~お前は…」
二人の再開を喜ぶ会話の背後に立ち、緋色を誰よりも見つめる女が一人…
「どうしたのじゃ、不滅よ。」
不滅がただの村娘から魔王になるまでには、ある経緯があった。
「…あいつ…」
それは、不治の病の弟を護るため…”緋色の悪魔との契約”。
「あいつが、ボクを魔王にした悪魔だぁ!」
指を刺し、強く言い放つ不滅を見て周囲にいたアガイアレプトと最果ては驚く。
『久しぶりだなぁ~…お嬢ちゃん…】
ここで、緋色の魔神の過去について少し語ろう…
そもそも、魔神とはまだ魔王が世界にただ一人だった時代に最果ての魔王の軍勢。
初代魔王軍幹部6名が、主である最果ての力が封印され…魔王が多次元宇宙中に72宙散らばったことで生まれた上位存在の名称。
元々、全次元最強の魔王だった最果ての部下なこともあって今の魔王達より遥かに強かった。
だからこそ上位存在…しかしそうなれたのは幹部の6名だけ…
(俺は…ただの雑兵だった…)
その頃、まだ魔王軍の下っ端。マリオで言うクリボーの一人だった緋色は上に行くことに固執していた。
そのために強くなろうと努力を重ね、活躍しようと前に出た…しかし丁度その頃…
(勇者は変わった…先代の勇者が魔王に殺されたからだ。しかもよりにもよってその勇者は…)
歴代最強の勇者…朱雀・絶夜。
その前まで、魔王軍は優勢だった。人と魔族との長い戦争も魔族の勝ち終わる誰もが思っていた…
いくつもの星が潰され、最後に残った青と緑の星”地球”のみを残し全滅。
面白みがないと残した太陽を除いて全宇宙最後の銀河、太陽系、その中の小さな地球でまさか生まれてしまった産まれながらに神々しく発光し、幼少の頃に聖剣を引き抜き。
信頼できる仲間を連れ、道中で出会う魔物、魔獣を引き連れて。
(現れた、ハンサム顔のあいつが憎かった。…俺はもう少しでただのモブから雑兵から中ボスクラスに上がれたってのに…あいつがその夢を壊した。)
勇者のとって、マリオにとって…クリボーと同じく雑兵もまた記憶にすら残らない塵芥。
軽々と踏みつぶされた夢…
そして彼は願った…
「俺に…せめて俺に!”努力に見合う力をくれよぉぉお!!!」
その瞬間、”緋色ノ雷鳴”と共に塔は崩壊。勇者達は仲間の魔法使いの転移魔法でや無負えず村に戻った。
『俺は…】
(気づくと俺は悪魔になっていた…)
次回…
【最強勇者と悪魔の王】