第十話 最速王とデーモンサーキット
「おい、最果て。今回は肉体の成長はないんだな。」
「だんだん遅れてきてるのだろう、次を倒せば成長する気が!するぞ。」
「遅れてきてるってなんだそのRPGの経験値システムみたいな成長要素は、お前はポケモンか!」
二人の仲よさそうな会話に恥で少し不服そうにしている女が一人…
「ねぇ~波留ノ、私もかまってよぉ~。」
「おっおう…つか”離れろよ”。」
不滅王は、波留ノの腕を摑んで離れようとしない。
その理由はただ一つ!
「いままで数百、数千年、加護のせいで誰にも触れられなかったから…」
「やっと触れられる…てか…俺は恋愛漫画の主人公じゃねぇーんだぞ。」
「性格もなりもエロゲ主人公と大差ないであろう。」
「んだとコラ!」
バトル系作品と思えないほどの、ピンクいムードの中目の前に飛び込んできたのは一人の男の叫びであった。
「俺様に勝てる奴!こいぃぃぃ!!!」
そこには大きなサーキットをバックに、下半身が完全に馬と同化したケンタウロス?のようなその男は誰も走らぬサーキットの上で叫ぶ。
「うるせーぞハゲ!」
「ん?お前は誰だ…」
男はこちらを見た、それを認識した波留ノは即座に構えた。
そして先手必勝と言わんばかりに、仕掛けた。
なぜそうしたのか、それは彼から放たれる邪悪のオーラが魔王のそれであるとものがたっていたからだ。
「おっと…無駄だぜボーイ?」
「なに…」
しかし、波留ノが放った退魔の剣による渾身の突きが男の体をすり抜けた。
しかしなぜ?そう言う能力だとしても波留ノ剣であればそれすら無力と化し、確実に当たるはずなのに…
「悪いが、この世界じゃ”レース”以外では誰も傷つけられない。だがレースでなら…」
波留ノは周囲を見渡しサーキットで叫ぶこの男以外に誰も走っていない理由を理解した。
それは、周囲に飛び散る血しぶきと肉片からであった…
「ようこそ一億人目の勇者、この世界の名は”デーモンサーキット”。多次元宇宙中から俺が召喚した勇者達やそれに並ぶ実力者達と一緒に楽しく殺し合うデット・エンド・レースを楽しむ場所さ…そーら楽しめ楽しめボーイ…」
「なるほどね、つまりマリカーみたいなもんか…」
「だと言いな…」
そして波留ノはこの命を賭けたレースに、参加することとなった。
そのための準備として、最果てに頼んで作ってもらったマシーンとユニホームを着て不滅王とともにスタートラインへ向かう。
「え?なんで僕も参加するの?」
「なんでも、このレース武器とか使ってもいいみたいでな。二人一組で運転手と武器で別れるらしいんだよな。」
「そっか、最果ては参加できないもんね。」
ちなみに、もう一度説明するが。最果ての魔王は72宙の魔王討伐には直接関与できないため基本的に間接的なサポート(今回のレーシングマシーンを作るなど)を手伝うか応援と解説しかできないのである。
「気負付けろよ、波留ノ奴のマシーンは…」
「ん?マシーン?つかあれ…」
波留ノは目の前にいるこの世界の魔王が乗る乗り物を見て…
「"馬"じゃね?」
なんと、ケンタウロスである魔王の本体は上半身だけであり。
別の馬を下半身とし連結したことで、青白い下半身を手に入れた。
「おいおい、車に馬が勝てるかよ!。」
「あぁ〜そうだな」
そんなこんなで話していると、「ピー」と三回なるレーススタートを知らせるゴングの一度目が周囲に鳴り響く。
「普通わな…」
「は?」
強烈なゴングの後で書き換えてしまいそうななか、魔王は気になる発言をした。
「そういや言い忘れてたが…」
そして、その二言を持って二度目のゴングが鳴り響く。
「俺の名は最速王、そしてこの馬の名は…」
最速王がレース前に告げた最後の言葉と共に、三度目…試合開始のための最後のゴングが周囲は鳴り響く。
「"スレイプニル"だ。」
その言葉の直後、他の世界からやってきた勇者達や波瑠ノ達が数ミリ進む間に魔王は遥か彼方へ消えてしまった。
「まさか、神速馬を使うとはな。」
(「神速馬?」)
「あぁ〜光の速度を超えて駆ける神の神器馬。まったく、人間相手に大人が無いのぉ〜」
魔王が無線で波瑠ノと不滅に伝えた神器馬とは、この世界に存在する武器や乗り物に格付けられたレアリティの中で最高に位置する神の時代に作られた神話級武器。
その一つであるスレイプニルは、全存宇宙最速を誇る馬であり。
その速度は、波瑠ノ達の機体はもちろん。
光が止まって見えるほどの速度であり、決して追いつけない反則級の武器。
馬だからと舐めていた勇者達の心をどん底に落とす、最悪の機体。
「そんなのありなのぉー!」
絶望する不滅や他の勇者達の中、波瑠ノ一人がスタートを切って進み出す。
「神速だかなんだか知らねぇーが!そっちがまだ試合は終わってねぇーんだろ!」
しかし、もう決して追いつかないそのはずなのに波瑠ノには一体どんな作戦があると言うのか…
「おし!そろそろだな…」
「え?何が…」
不滅はそう言う波瑠ノの方をみてある違和感に気づく。
「あんたその弓…どこから?」
「ん?あぁーこれか?これはな、前回のお前の戦いの後。実は退魔の剣が進化してな…」
次の瞬間、波瑠ノ説明が終わると同時。
不滅と波瑠ノの乗るその機体が一気に動き出す。
「名付けて、"退魔之剣・マーク2 アーチャー"。」
波瑠ノが新たに発言した能力、アーチャーの能力は退魔之剣が光の矢を放つ弓に変化することである。
しかし、本来光の矢を放てば衝突し消えてしまうところを波瑠ノは光の形を紐のようにして最速王の乗る不滅王の足に命中させ今なお進み続ける馬に引っ張られる馬車のような形でスタートを決めたのだ。
「ハッハ!他愛ない。魔王殺しが聞いて呆れる…」
「そうかい?そう思ってんなら今から見せてやろうか?魔王殺しの真髄を!」
手を組んで置いてかれた波瑠ノを馬鹿にして笑った最速王の背後に引っ張られてきた波瑠ノと不滅が追いついてきた。
「ハッハ!なるほど気づかなかったぞ。お前が弓を使えるなどとはな…だが所詮は引かれるだけのお荷物よ、自力が無ければ結局俺を抜くことはできん…」
「てめぇーこそ勘違いするわなよ、俺はもうお前の馬に弓を"命中させたんだぜ"?」
「何?」
「足にな…」
波瑠ノが言う通り、スレイプニルの足には光の矢が刺さっている。
それはここまで波瑠ノと不滅を運んだその足に確かに刺さっている。
しかし、今の今まだスレイプニルは悲鳴一つ上げなかった。
それは、神の神馬としての高い耐久性があったことによる弊害。
もし通常の馬のように泣いていたらいち早く最速王は気づけたはず…しかし波瑠ノは刺さったその矢の先端を残して光りの紐を解除し…
(バーン!)
スレイプニルの足についた矢を、爆発させた。
「その馬神の馬だったらしいが、今は魔王の眷属なんだろう。だったら、俺の矢は猛毒だ…」
足を失ったスレイプニルは叫びをあげて失速、最速王は遠のく波瑠ノを見て声を張って言葉を伝えた。
「よもや!この最速王に勝てると者が現れようとはなぁ!あっぱれだ勇者!!!」
「そりゃどうも…」
波瑠ノはそれとは対照的に小声で返した、そしてそのまま全てを置き去りにして50周コースを走り切り難なく勝利した。
「さぁ!最速王。約束通り、完走すらできてねぇーあんたの首を貰うぜ。」
「好きにしろ、俺に二言は無い…」
そして、二人は気持ちよく手を繋いだままその首を波瑠ノは切断し最果ての呪いは少しゆるまり小学校低学年程度には成長した。
「よっしゃーーー!!!次の世界はどこだぁ!最果て…」
「次は…」
最果てがその言葉をいい終わる直前、事件は起きた。
『悪りぃ〜が、次の世界は俺様が決めさせてもらうぜ。勇者…】
「あ"?誰だテメェー…」
どこからともなく現れた赤い回廊と赤いスーツの男。
「なぜ…汝がここに…」
その男の名は…
「"アゼルスター・ダンプティー"。」
『ピンポンピンポン!正解ぁ〜い…久々だな、魔王様。】
「なんだこいつ?最果ての知り合いか?」
波瑠ノが二人の会話を聞いて、一瞬男から意識を離した瞬間。
男は最速王が可愛く見えるほどの圧倒的速度で、波瑠ノの認識の外側で一瞬にして…
「やめろぉぉぉ!!!」
波瑠ノをなんらかの能力で、別世界に飛ばし両者はその場から跡形もなく消え去った。
次回…
『天使を殺した悪魔を別の天使が殺す…これが復讐の連鎖だぜガキ…】
【真紅と混沌の支配者・アゼルスター】