第一話 最強の魔王の弟子は…
この世界には魔王がいる。
しかもRPGのラスボスのような、一人で世界を…”宇宙”を滅ぼす奴が”72体”存在する。
それらはあまりの強大な力から、72宙の魔王と呼ばれ恐れられていた。
そんな世界を救うべく、我らが誇る地球からこの遥か彼方の次元の海。
その全てを超えて召喚せしめし、魔王を倒す存在…
それこそが、地球出身のただの”男子高校生”。
”波留ノ・祇厨理”17歳である。
「痛っててぇ~こりゃどこだ。」
彼が辺りを見渡すとそこは黒いレンガの中、目の前には王座と赤髪の少女、そして自身が触れる地面は赤い絨毯。
(ん?赤髪の少女…)
「おぉー目覚めおったか、人間。」
「そういうおめぇーは誰だ?」
目の前の少女は、自身の体格、身長に見合わない大きな玉座に座り。
足を組んで波留ノを見つめる。
「我は、魔王神座七十二宙が最高位・”魔月神・最果ての魔王”と申す者。部外者であるそなたにもわかるように端的に言うと…”この世界で最強の存在だ。”」
「最強…ね…」
当然、単なる不良高校生。波留ノには理解に苦しむ会話内容だったが、彼はそう聞いてこう思った…
「とりまその殺気、ただの中二病じゃなさそうだ。」
「ほぉーこの我を前に、”中二病”と愚弄するか…人間風情…」
彼の中に眠る男としての、頂点に立ちたい。番長になりたい、テッペン取りたいと言う意志が…
「さぁー!どっからでもこい!」
彼の力を引き出した。
「では、お手並み拝見と行こうか…”異界からの使者よ”。」
この世界に来て早々に始まったタイマン、波留ノは先手必勝と言わんばかりに即座に仕掛けた右ストレートを魔王に向ける。
「オラァ!オラオラァ!」
「全く、一辺倒で隙だらけ。芸の無い奴だ…」
「うるせぇ!芸もへったくれもいらねぇーんだよ。」
その拳は振るうほど、早く正確に研ぎ澄まされて行く。そして、何より本人が一番感じていた違和感…
(体が…馬鹿見てぇーに軽い…)
今の彼は、フィクションの如き高速移動と残像が見えるほどの連続パンチを放っている。
これも、転生したことによる反動?なんだろうか…
「そうだ、ナレーターよ。こやつは転生したことで肉体がこの世界のレベルに合わせて進化した。といっても、女神からのチートスキルとかそんな類のものではないがな…」
「誰と喋ってんだこのシャンクス擬き。さっさっと神避でも見聞殺しでもなんでも見せやがれ!」
「なら”千年殺し”でどうかな?」
魔王はそう言って背後に回ると、波留ノのそのケツに謎のエネルギーで強化した指でカンチョウを喰らわせる。
「テメェーーー!!!なにしやがる。この変態幼女!」
「幼女ではない、この姿は…」
魔王が話を終える前に、一瞬で間合いを詰め渾身のアッパーでその顎を狙う波留ノ。
「まったく、”勇者”が不意打ちとは世も末だな。」
「勇者?なんのことだぁ!」
避けられ、交わされ、見切られてもなお殴るのをやめない波留ノ。
「そろそろ鬱陶しくなってきたな…」
そう言うと魔王は、指先に緋色の魔力を集中させ…
「悪魔ノ一矢」
魔王の指から放たれた緋色の閃光は、一回で周囲を灰燼に変え壁を貫き城を倒壊させ山々を平な地面へと変化させる。
「おっとしまった。せっかく3分で作った城がまぁーこんどはこだわらず。すぐに作り直せば問題ないか…」
攻撃を受けてなお、地面に倒れて生きている波留ノもまた人間ではない。
「くっそ…こんなの反則だぜ…」
「人の話を最後まで聞かんからだ。我のこの姿は力を極限までセーブした状態、本来の我はもっと色っぽい大人の女だ…」
「ならそれになれよ」
波留ノは不服そうに魔王に言葉を返した。
それは、テッペンを目指す彼にとって最も嫌悪するべき”手加減”をしたことによる不快感である。
「それは無理だ。」
「なんで?まさか、俺が弱いからとか抜かさねぇーよなぁ」
「まったくその通りだな。」
「はぁ!」
魔王の子バカにするような発言に、波留ノは立ち上がり眼を飛ばす。
「だが…それだけではない。今我はとある事情で本気が出せん」
「とある事情?」
「それが君を呼んだ理由、七十ニ宙の魔王に関する話だ。」
魔王が続けたのは、波留ノがこの世界に呼ばれた理由。
「この世界には七十二宙の魔王がいる。それも飛び切り強い世界を滅亡させる奴が七十ニも存在する。」
「んで、テメェ―もその魔王の一人なんだろうが?」
「そうだな、しかし我は少しかってが違ってな。汝に問う、なぜこの世界の魔王は七十二宙いると思う?」
それは目の前の彼女が力をセーブする理由、この世界の成り立ちと波留ノがここに呼び出された原因がその問いの答えにはあった。
「知らねぇーよ」
しかしこの勇者、見ての通りの単細胞。短ランと金髪、いつの時代の不良かはさておき…彼は問いなどどうでもいいと拳を握り。
「俺は強い奴と戦って勝りゃーそれでいい。」
「勝敗がそんなに大事か…」
「当然、勝てなきゃ喧嘩しても意味ねぇーからな」
両拳を合わせる彼の姿は勇ましく、最果ての魔王はその姿を見て微笑んだ。
「いいだろう、貴様の力は見定めた。とにかく倒せ、七十二宙を…その身一つで…」
「おう!」
彼と彼女はその日から結託し、魔王殺しの旅が始まった。
「で?勇者ってのはなんなんだ。」
「ハッ!理由はいいと言ったそばから我に問うか。だから人の話は最後まで聞けと言ったろう。」
「るっせぇーな、教えろよ。完結にな。」
「よかろう、勇者とはいわゆる異世界からの使者。その身に女神の加護を宿した現人神の名じゃ…」
「現人神?」
魔王曰く、この世界では度々魔王が出現するため。各国で召喚魔術により異界から勇者が呼び出されるらしい。
「ん?まてよ。そう言うのって普通弱い人間とかが呼び出すもんじゃねぇーか?」
「それがな、我も事情があってそなたに他の全魔王を倒してもらわんといかんくなってな。そのために勇者本来敵対するはずの汝を魔王である我が呼び出したのだ。」
「ふぅーん、了解。事情ってのは長そうだから聞かないでおくぜ。とにかく七十二宙ってのを倒せば俺は元の世界に…」
「戻そう、転移魔法は得意だ。」
そう、波留ノには元の世界に帰らなければならない理由がある。
病に苦しむ”妹”のためである。
「それだけではない、もしこの依頼を完遂できたのなら。我が直々に汝の妹を直してやろう…」
「マジか!てかなんで妹のことを…」
「我は世界最強の最果ての魔王!、全ての果てを知っているしそれを覆すこともできる。約束しよう、七十二宙を倒し我の力が戻ったあかつきには汝の妹、波留ノ・雫の最果てその命の終わりを覆すとな…」
その言葉、簡単には鵜呑みできないと波留ノは知っていた。
原因不明の不治の病、あらゆる医者がさじを投げて治せないと言った死のカウントダウンを覆すと言った。
全てを知り得る、目の前の全知全脳の魔王に…
「信じるぜ、その言葉。俺も勇者として魔王を全員倒す…」
「そうであってくれ、汝は我の”希望”なのだから…」
こうして、力を封じられた最強の魔王と魔王を救うため召喚された勇者の奇妙な冒険の旅が始まったのだった。
次回 有象無象
「え…俺なんで捕まってんだぁぁぁ!!!」
【勇者投獄】