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てる

初めて会うその子の印象は『母親そっくり!』だった。

見た目ではない、容姿はきっと父親似なんだろう。母親からは無駄に主張してくる胸のDNAを受け継がなかったらしい。その外見でなく中身の方、人に対して物怖じしないというか、初対面の私にも素のままなのが伝わってくる、そういうところが母親そっくりなのだ。

だから、目の前にいる坂田十時、その子の母親である時子ときこさんと出会った頃の事を私に思い出させた。


『輝ちゃん、退魔師の事はシー、だからね』

時子さんは会ったばかりの私を子ども扱いしていた。唇に人差し指を当て、小さな子に約束させるような感じで何度も何度も退魔師を口外しない様に念を押してきた。あまりに同じことを繰り返すので、言い返そうかと思ったけど、代わりに何回言うのか数える事で気を紛らわせた。

8回。今でもその数は覚えている。高校生だった私に繰り返すような数じゃない。きっとこの人はアホなんだろうと、心にとどめた。


「わたくし、こういう者です」

昔の事を思い出したので、私は少しばかり仰々しく名刺を渡してしまった。おばあ様とは面識があるから今更かしこまる必要もないのに。ちょっと軽く手を挙げて久しぶりにやって来た親戚の誰か、ぐらいの軽いノリであいさつした方が、この子にとっても気が楽だったに違いない。もしかしたら本当に親戚と思い込んで腕まで組んできたかもしれない。時子さんはそうだった。私の事をまるで親戚の子とでも勘違いしていたんじゃないだろうか?やたらボディタッチが多く、ベタベタされたのを覚えている。

名刺を出すなんて他人同士の知り合いでもない一線を画す行為であり、それは大人扱いしてくれなかった時子さんへの当てつけだったかもしれない。

「あ、どうも」

その子は大人扱いされたことに少し戸惑っただけだった。丁度ケーキを食べようとしていた所へお邪魔してしまったらしく(後で知ったが誕生日だったらしい)名刺は口にフォークを咥えたまま受け取った。時子さんもそういう事しそうだ。


おばあ様からまだ何も説明を聞いていない様なので、私が代わりに説明することになった。

「あなたも退魔師であることは隠してください」

十時は目を丸くしていた。イチゴを頬張ったところだった(この子、イチゴは最初に食べるタイプか)その顔は「え?なに?」とでも聞きたそうだ。

時子さんもこちらの話を聞いているのかいないのか、よく分からないことがある。親子そろって、思考が幼い。


その十時が本当の幼子のように、退魔師になる事をぐずり始めた。

「勝手に決められても困ります!」

事前に説明しておかない時子さんのせいだ。まぁ、退魔師なんていう仕事、実の子にどう説明していいのか困るだろうけど。おばあ様も同じ思いだったのか、一切説明していないようだ。なら、一通りの説明をしてから私を呼んでくれればいいものを、、、親子3代揃って似た者同士なのだろうか?


おばあ様に代わって私が説明を進めると十時の目の色が変わった。

「え?お金貰えるの?」

(この子、ちょろいな)

現金というか、モノに釣られやすいというか、、、時子さんも目先の損得勘定で動く人だ。仕事で組んでいたので分かる。この子もモノで釣れば案外扱いやすいかもしれない。

「ちなみに、おいくらほど?」

読み通りの行動をしてくれる。考え無しなのか?私は更に興味を引き付けようと、あえて給料の金額は伏せた。

「沢山です」

だますつもりなど無い。沢山と言ったのは本当の事だ。名の通った企業で大卒生が貰える初任給くらいは出る。高校生がアルバイトで稼げる額より全然多いはずだ。それに成功報酬で上乗せもされる。時子さんなどはそれ目当てにしょっちゅう出張で日本中を飛び回っているのだ。


「私、やります。退魔師」


私の思惑通り、十時はその場で即決してしまった。本当にこういうところ母親似だ。いいアルバイトが見つかったとばかりに、にやけながらイチゴを頬張っている。後で嫌になってやめるとか言い出しても、それは説明を怠った時子さんのせいだ。私はどうなっても知らない。それに退魔師なんてものは好きこのんでやるようなものでもないだろう。やめたければ、やめればいい。この子の自由だ。

今回は源と坂田、昔から続く両家の間柄を考慮して優先的に話を持ってきたにすぎない。もし、十時がやらなくても世の中にはお金に目がくらんで退魔師の仕事を引き受ける人はいる。

代わりはいくらでも、、、そう、誰にでもできる簡単なお仕事なのだから。

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