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しま子 2

流れて行く桃を見送っていると亀姫が呼んだ。

「さあ、桃はいつでも食べられます。それよりもご馳走を用意しておりますので、こちらへ」

案内された部屋にはアタシなんかが見たこともない豪華な料理が用意されていた。

「どうぞ、召し上がれ」

見た瞬間から口の中によだれが溢れ、喉が動いてしょうがない。桃を食べていたおかげでお腹は鳴らずに済んだけど、我慢の限界だった。

「いただきます!」

こんな機会、一生のうちでもう巡ってくることはないだろう。目の前のご馳走をアタシは夢中になって口へかき込んだ。1つ皿が空くと、2つ新たな料理が運ばれ、もう1つ皿が空くと、3つ料理が追加される。大きな食台は料理で埋め尽くされてしまった。

(お母さんにも食べさせたいな、、、)

亀姫はアタシが食べる様子をニコニコと眺めている。

「あの、アタシ一人ではとても食べきれません」

「フフフ、もうすぐわたくしの家人もやってきます。お気になさらず、堪能してくださいまし」

アタシは急に恥ずかしくなった。

(まるで我慢できずに先に食べ始めちゃった子供じゃない!)


「あら、アナタが亀姫の、」

愛想よく入ってきた人達は亀姫に負けず劣らずの美女ばかり

「わたくしの姉妹たちですわ」

亀姫に紹介され、美女達に囲まれたアタシは場違いな所に来てしまったと後悔したが、みな人柄がよく、話しているうちに委縮していた気持ちが解きほぐれていくのを感じた。

(不思議な人たちだなぁ、、、)

むろん天人様だ。アタシなんかとは生まれも育ちもまるで違うのだろう。その心の余裕みたいなものが、人であるアタシの事も受け入れてくれているのかもしれない。


楽しいひと時に、お腹も心も満たされた。

「さあ!もうよろしいでしょ?」

「ええ、あまり長居しては二人に迷惑ね。そろそろ帰りましょうか」

取り残されたアタシに亀姫が言う。

「楽しんでもらえましたか?」

「はい、とても」

「ふふ、お楽しみはまだこれからですよ」


次に通されたのは豪華な広間だった。

パン!パン!と亀姫が手を叩き合図すると、外で見かけた子供達が着飾った姿で入ってきた。様々な楽器を持った子たちもいる。亀姫が中央に立つ。一人が頷き、ポロンと琵琶を奏でた。琴線に触れるその音色に合わせ、着飾った子たちが揃って舞い始める。亀姫もその中心で羽衣をふわふわとなびかせ踊った。

(夢みたい、、、)

夢心地とはこの事だろう。本当に夢を見ているのではないかと思うけど、目の前では美しい亀姫が優美に舞っている。夢じゃない。


亀姫は踊りながらアタシに視線を合わせてくる。

「ふふふ、」

彼女は不敵に笑うと、踊りながら着物を1枚、また1枚と脱ぎ始めた。アタシは薄衣一枚の姿になった亀姫に見とれた。恥ずかしいはずなのに視線を逸らすことが出来ない。

彼女がくるくると回りながらアタシのそばまでやってきた。身をひるがえす度、あの蜜のような甘い香りが鼻をくすぐる。

いつの間にか音楽は止んでいた。子供達の姿もない。亀姫はアタシの隣に腰を落とした。肌が触れる。踊ったばかりで紅潮して熱く、しっとりとした肌が。うっとりとしているアタシに亀姫がすねたような声を出した。

「寝ちゃ、イヤ」

彼女は置かれていたお酒を手に取ると口に含み、アタシの口を吸った。初めて喉に流れ込むお酒は焼け付くように熱く、体をカッカと燃え上がらせ、目は自分でも血走っているのが分かるほどに冴えた


亀姫が今までの清楚な言葉使いとは逆に、なまめかしく、それでいて子供の様に甘えてくる。

「ねぇ、、、今夜は泊まっていって。いいでしょ?」

頭の隅に母の顔が浮かんだ。

「、、、うん。」

抗えなかった。ずっと苦労してきたのだ。少しぐらい良い思いをしたって母も許してくれる。

「うれしい、、、」

亀姫がもたれかかってきて、アタシはそのまま仰向けになった。

帯がほどかれ、露になった肌を亀姫が愛撫していく。

「んっ、、、待って、、、やっぱり、アタシ、、、」

急に怖気づいた。

「なんで?」

亀姫は愛撫をやめてくれない。肌に唇を寄せチュ!チュ!と、ワザと音か聞こえる様に鳴らしてくる。

恥ずかしさでいっぱいな頭を働かせ、適当な言い訳を探す。

「だって、アタシ女の子だから、、、」

「わたくしだってそうですよ?でも、、、」

彼女が体を起こし、申し訳程度に残していた羽衣を取り去る。

「わたくしは亀の化身。」

密着させている秘部にムクムクと盛り上がる感触があり、見ると亀姫には雄々しいソレが生えていた。

「男⁉」

「いえ、わたくしの亀頭は変幻自在なのです。きっと貴方様を満足させて差し上げます」

「アタシ、、、」

「はい?」

「しま子、、、です」

亀姫の顔が喜びの表情に溢れ、嬉々としてアタシに覆いかぶさってきた。

「しまこ、、、しまこ、、、」

耳に唇を押し付け何度も何度もアタシの名前を呼ぶ。

その晩、アタシ達は夫婦の契りを交わした。


それから3年。


毎日出される趣向を凝らした料理、絢爛豪華な屋敷では毎夜、宴が繰り広げられ、亀姫とは夜ごと睦みあった。

「何も心配はいりません」

彼女の言葉通り、アタシは働く必要など無かった。食事は食べたい時に食べたい物を出してくれ、満腹になれば昼寝をしても怒られず、夜は欲望のままに。朝になれば亀姫を腕に抱き、昼まで惰眠をむさぼった。怠惰の限りをし尽くしてもこの生活がやめられない。

時々、村の事を思い出したりもした。アタシが急にいなくなった事で大騒ぎになっているのではないか?それよりも母を一人、残して来たことが気がかりだった。

1年、2年と経つごとにその思いは強くなっていった。


「何を考えてるの?」

腕の中の亀姫が聞く。

「ううん。何も、、、そろそろお昼かな?」

「食事にします?」

「ううん。このままで」

アタシは亀姫を強く抱きしめた。

「、、、心配ですか?」

「何が?」

「・・・・・・」

彼女は何も言わない。心が読めるのに、、、

目を合わせず、亀姫がぽつりぽつりと独り言のように言葉を漏らす。

「わたくしは、、、とてもズルい女です。しまこが、、、貴方様がわたくしといつまでも一緒に居てくださる様にと、食事も、宴も、わたくしの体も与え、ここから離れがたくさせてきました」

彼女の心の一端に触れた気がした。

「・・・・・・口に出すとこの生活が終わってしまうんじゃないかと思って今まで言えなかったけど、本当はお母さんの事が心配だったの。ううん、心配してるのはきっとお母さんの方。もしかしたらとても怒っているかもしれない。でも、一度くらい顔を見せに行っておかないと、、、アタシももう18だよ?お嫁に行っててもおかしくはない。ねえ、亀姫。一緒にお母さんに挨拶しに行こう?」

「それは、、、もう出来ません」

「なぜ?」

アタシの疑問に彼女は応えてくれなかった。


代わりに小箱を取り出してきて言う。

「コレは玉匣たまくしげわたくしが大切にしている櫛が入っています。お持ちください」

綺麗に装飾が施されている小箱が手渡された。

「貴方様が帰りたいと言うのなら止めません。」

「いいの?じゃあ、」

「けれど、わたくしは一緒に行くことはできません。」

「なぜ?」

「・・・・・・」

彼女は応えてくれない。代わりに玉匣に手を重ね、念を押す様にこう言った。

「決して、この箱を開けてはなりませんよ」


それからアタシは亀姫に見送られ、小舟に乗って漕ぎだした。

不思議なことにまたあの眠気が襲ってきて、気が付くとアタシは砂浜に船ごと乗り上げていた。

「どこ?ココ、、、」

そこに広がる風景になんとなく見覚えはある。湾曲した砂浜、遠くに見える山々、故郷の浦の浜だ。しかし、何か違和感を覚える。

とりあえず、家を目指して歩き出した。歩くうちにその違和感は強くなっていく。

「変だ、、、」

アタシの知っている建物が全くない。たった3年で?しかも代わりに建っているのはどの家も木で作られておらず、まるでお城か何かの様に頑丈そうな作りだ。

「へんだ!」

子供がこちらを指さし笑っている。その子は着物など来ておらず、西洋の服を着ているらしかった。

(あんな高価なもの着て、どこの子だろう?)

竜宮城では亀姫がアタシに何着もの着物を送ってくれた。中には変わった羽織もあり、西洋の洋服だと教えてくれた。とてもではないがアタシが一生働いても買える代物ではなかっただろう。


「コラ!人を指さしちゃダメっしょ!」

今度は派手な格好をした女性が現れた。顔に化粧を施し歌舞伎役者の様でもあるけど、何か違う気がする。演劇なんて見に行く機会のなかったアタシには分からない。

ただ、身なりは派手でも不思議と警戒心は湧かない。その個性的な化粧をした顔がこちらに向く。

「お姉さん、その恰好コスプレぇ?超決まってるぅ」

(変な言葉使い、、、)

でも悪い人ではなさそうだ。アタシは聞いてみた。

「あの、ココはどこですか?」

「?、、、浦の浜 海岸公園っしょ?」

「浦の浜、、、」

アタシは駆けだした!建物や道に見覚えは無かったけど、方角は自分の家を目指して!


「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・なにもない」

自分の家が建っていたはずの場所には何もなかった。けど、そこから見える海の景色は幼いころから慣れ親しんできた風景そのものだ。確かにここはアタシの家が建っていた場所のはず、、、

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・追いついたぁ!」

さっきの派手な女性だった。

「急に走り出すから、なんかヤバいって直感?お姉さん訳アリっしょ?あーし、相談乗るしー」

なんだか言っている事はよく分からないけど、心配してくれているのは伝わってくる。

「アタシ、混乱してて、、、ここにアタシの家が建っていたはずなんだけど、無くなってて、風景も全然違うし、それに見たこともない建物ばかりで、、、」

「ハイ!」

彼女が勢いよく手を挙げた。

「あーし、閃いたし!」

彼女が両手で可愛くこちらを指さしてくる。さっきは人を指さすなと子供に注意してたはずだが?


彼女は歩き出した。そばに立っていた大きな岩に向かっていく。きっと石碑か何かだろう。

「むっかしー、むっかしー、浦島は~ぁ、助けた亀にぃ、連れられて~ぇ♪」

急に歌い出してビックリした。彼女が手招きして岩を指さす。

そこに彫られていた文字は今、彼女が歌ったものだった。

「アナタ、浦島太郎?」

「え?違います、、、浦嶋子うらのしまこです」

「えーっとぉ、、、気を悪くさせたらチョーごめんなんだけど、男?」

「いえ、女です。よく間違われます」

「そっかー」

彼女は腕を組み、何か考えているようだった。ぶつぶつとつぶやきが漏れている。

「タイムパラドックス、、、でも、史実は既にここにある、、、並行世界の可能性も」


パン!と手を叩いた彼女がにっこり笑う。

「分かんないや」

とても明るい子だと思った。こちらが混乱していることなど小さな事の様に思えてくる。

「えーっとぉ、、、じゃあ分かっている事を教えるね。お姉さんのその服装、たぶん江戸時代のものでしょ?小袖って呼ばれてなかった?袖もそんなに長くは無いし、おそらく江戸前期の頃だと思うな。脇開けが開いてるからお姉さんまだ10代でしょ?」

急にしゃべり方が変わって驚いたが、言っている事は合っていると思う。

「うん、、、多分」

「あーし、ファッション得意だし」

竜宮城では亀姫からきらびやかな衣装を与えられていたけれど、久しぶりに会う母親が見間違わない様、3年前に着ていた服を引っ張り出して着たのだった。

「多分だよ?たぶん、お姉さん江戸時代前期の時代から今の時代にタイムスリ・・・うーん、時間を超えて流れ着いたんじゃない?」

「言っている事がよく分からない、、、」

「だよねー、、、うーん」


彼女が考え込む様に腕を組み、石碑を見上げる。

「ここにはね昔、浦島さんっていう人が住んでいてね。ある日、亀に連れられて竜宮城に行ったんだよ」

自分の事を話しているようで少し怖くなった。

「アタシはその竜宮城から久しぶりに帰って来たの、、、」

「そっかー、ちなみに浦島太郎って聞いたことない?」

アタシは首を振った。

「そっか、そっかー。この昔ばなし、いつの時代から語られてるのか、あーしも知らないからアレだけどぉ、少なくともお姉さんは今から300年くらい前の時代の人だと思うよ?」

そんな馬鹿な!そう言いかけて言葉を飲んだ。天人様の住む蓬莱山ほうらいさんが人間のことわりに準じていなくてもおかしくはない。実際にあそこで暮らしてきたアタシには分かる。


「竜宮城はね、人間の住む世界とは時間の流れが違うらしいの、、、ちなみにお姉さんどれくらい竜宮城にいた?」

「3年程、、、」

「1年が100年かぁ、、、まじパナイねー」

この人はアタシを気遣ってワザと明るく接してくれているのかもしれない。けど、現実を突きつけられ、段々怖くなったアタシの足は震え始めた。

「大丈夫?」

「ええ、、、」

「それで乙姫様には会ったんだよね?」

「乙姫?アタシが会ったのは亀姫だけど?」

「うん?・・・・・・」

彼女がまた独り言をぶつぶつと言い始めた。

「という事は浦島太郎さんが居て・・・そのうえで・・・?」


パン!と手を鳴らし、また笑顔になる。

「何かお土産、貰わなかった?」

そう言いつつもその視線はアタシがわきに抱えている箱へと向けれれている。それを手に持ち替えて彼女に差し出すと、

「ストップ!」

言っている意味は分からないが、鋭い言葉に体が反応して止まった。

「ソレ、絶対開けちゃあいけないやつ」

「なぜそれを?竜宮城を出発する前に亀姫から言われた言葉なのに」

「うん。浦島さんはね、そのお土産の箱を開けた途端、おじいさんになっちゃったんだよ」

「なぜ⁉」

「きっと竜宮城で止まってた時間が箱を開けた事で進んだんじゃない?」

「そんなことが、、、」

だとしても、あの亀姫がそんな恐ろしい物をアタシに持たせるだろうか?信じられない!


1つ疑問に思っていた事がある。

初めて竜宮城を訪れた時、亀姫は何か言いかけた『あなたはもう、、、』あの言葉の意味がなんとなく今、分かった気がする。『アタシはもう自分が住んでいた時代には帰れない』そういう事だったんじゃないだろうか?

『わたくしは、、、とてもズルい女です』彼女が言った言葉が頭の中を駆け巡る。


「かえりたい、、、」

アタシは力が抜けて地面にへたり込んだ。

「どこに?」

(どこに?)

アタシの住んでいた家はもうない。母も、、、

亀姫の優しい顔が浮かんだ。その笑顔の裏でずっとアタシを欺いていたのかもしれない。なのに今は彼女の事が恋しくてたまらない!アタシはなぜ、竜宮城を!彼女の元から離れてしまったのだろう?欺かれていたとしても何か問題があっただろうか?アタシもずっと疑問に思って疑念を抱いていたじゃないか。それは亀姫に筒抜けだったはずだ。アタシは結局、彼女の事を本当の意味で受け入れていなかったのだ。


後悔の念が渦巻き、悔しさは涙として流れた。手が震える。肩が震える。足が震える。

全身が張り裂けそうに痛い!

フッと肩に重みを感じた。頭をあげると心配そうに見つめる顔があった。

明るい声でその人は言ってくれた。

「うちに来る?」

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