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とき 9

おむすびを頬張っていると輝さんが聞いてきた。

「さっきは良く寝てたみたいだけど、何か夢は見た?」

「夢ですか?」

私は摘まんでいた漬物を口に放り込んでボリボリ食べながら考えた。夢の内容は覚えている。覚えてはいるんだけど、、、

(これを言ったら、また輝さんに呆られてしまうかな?)

彼女はこちらを見て、喋り出すのを待っている。しょうがないので漬物を飲み込み口を開いた。

「、、、もも」

「桃?」

「はい。多分、モモのタルトを食べるような?夢を見ていたと思います」

また食べ物の話?とか言って笑われるかと予想したのだけれど、そうではなかった。彼女は何か考えているようなそぶりを見せている。


私は聞いた。

「もしかしてお告げか何かですか?」

「ええ、」

やっぱり。おばばもよく夢の話を聞かせてくれたし、こちらも聞かれることが多かった。大概は何の意味も無い、たわいない話なんだけど妙に引っかかる夢もあったりして、そういうのを見た後は身の回りでちょっとした事件が起きたりする(たぶん思い込み)ただ、おばばからは巫女なのだからそういう直感のようなものを気に留めておくように言われてきた。


「私達巫女は時々、神様からのお告げを聞くことがあるわ。それは気象変化や動物の行動など普段の生活の中でも現れるものだけど、夢というのはより具体的に啓示を受けやすい、、、もう少し覚えている事はない?」

「そうですねぇ、見ていたのはどこかの家?の中だと思います。あ、でも私は上から眺めている感じで、お人形遊びで使うドールハウスを見ている感覚でした。たぶん海のそばの家だと思います。長い砂浜も見えたので。その家には10人くらいの人?うーん、人じゃないかも?動物だったかもしれません。とにかく不思議な感覚のする人達がいて、お祝いをしてるんです。誕生日なのかな?でも誕生日ケーキではなく、みんなで囲んでいるのはモモのタルトでした。そんな感じですかねぇ」

「よくそこまで詳しく覚えていられるわね」

「そうですか?おばばによく夢の話をしてたからかもしれないです」

「普通、起きたらすぐ夢なんて忘れてしまうものよ。アナタ、神託を受けやすい体質なんじゃない?」

「えへへ、、、で、何か分かるんですか?」


輝さんは少し考えてから応えてくれた。

「桃というのは神道において重要な印よ。日本神話に出てくるわ。イザナギは黄泉の国へ行き、死んでしまった妻のイザナミを連れ帰ろうとした。けど、変わり果てた妻の姿を見て逃げ出すの。イザナミは自身の腐った体から生まれた八雷神に追いかけさせたんだけど、イザナギは途中に生えていた桃の実を採って投げつけた。それによって雷神は退いたというわ。モモには退魔の力があるのよ」

「もしかして桃太郎の話って、」

「そうね。この神話を元に作られたのかもしれないわね。ほら、童話の中の雷様って虎柄のパンツを履いて角が生えてるでしょ?鬼と同一視されているのよ。それはイザナミ単身から雷神が生まれた事から推察するに、邪気が元になっていたからじゃないかしら?そう考えれば雷神達は鬼そのものよ。」


みそぎでもそんな話してましたよね?」

「そうね。邪気は祓い清めればそれが転じて命となる。また濃く集まれば鬼と化す事もある」

「桃が見えたって事は、神様が邪気を祓ってくれるという啓示ですか?」

「どうかしら、、、鬼が出る暗示ともとれるわ。神様が警戒しなさいと教えてくれたのかも」

「やめてくださいよー、鬼だなんて。だってお祝いをしてたんですよ?いい方に捉えましょうよぉ」

「お祝い、、、祭りというのは神を祭るものよ。鬼も祀る対象だった。モモのタルトなのが気になるわね。それがお供えだとすると、桃の様に強い力を持った邪を祓う者が必要という暗示かもしれないわ。それに海の側の家だと言ったわよね?イザナギのナギとは海に風が無い状態『凪』で、イザナミのナミは海の『波』を表しているというわ。どちらも海にまつわるのよ。この夢はかなり高い次元で共鳴している気がする。」


輝さんが真剣にそんな事を言うものだから、私は手に持っていたモノを見てちょっと怖くなった。

「もしかしてコレ、、、おにぎり」

「フフッ」

輝さんに笑われた。

「流石に考え過ぎよ。確かにおにぎりは”鬼を切る”が語源になっているという説もあるけど、アナタが持ってるのはおむすびよ。その意味はお米を通じて神様と繋がりたい、縁を結びたいという願いを込めて付けられたもの。だから安心して食べなさい」

私は残っていたおむすびを食べきった。

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