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退魔師

小川に中年の女性が佇んでいました。

涼みに来たという訳ではないようです。まだ春先で気温も高くなく、小川といえ、その場所は底冷えします。けれど、その肩には革製の細長い袋をかけているので、竿をしょって釣りの下見に来たようにも見えますが、彼女はのどかな風景に不釣り合いなスーツ姿でした。

腕を組み、豊満な胸をその腕で支えて、ただ待っているのでした。


そこにおばあさん2人がやってきました。

「早いね」

「待たせちゃったわね」

ニコニコと笑って女性に近づいて行きます。川でスーツ姿の女性とおばあさんが2人。なんとも不思議な組み合わせですが、この小川は人が頻繁に通るような場所ではありません。犬の散歩をしている人がいるくらいです。誰もこの光景を不思議がる者はいませんでした。


スーツの女性が頭を下げてから言いました。

「わざわざ家の外まで足を運ばせてしまって申し訳ありません。お体は変わりありませんか?」

「なに、家の中は賑やかになったから、こっちの方がええ」

「おかげさんで体は元気よ。不自由は増えけど。気にしないで」

おばあさん達は愛想よく応えました。


スーツの女性は表情を崩すことなく聞きました。

「それで、O-18の様子は?」

おばあさん達は応えました。

「変わりないよ」

「掃除したり、ご飯作ってくれたり家の事を手伝ってくれるの」

「あの子が名前まで付けてあげて可愛がってるよ。もうオーイチハチじゃない」

「そうね。家族のようなものね」


やはりスーツの女性は表情を崩すことなく言いました。

「ですが、鬼です」

「確かに、、、」

「そうね、、、」

おばあさん達は持っていたタオルを小川の流れで洗い始めました。

「うちの子はモモの化身。邪を祓う強い力を持って生まれてきた。そのおかげで鬼の邪気を無意識に祓っておる」

「お供の方達も役目は同じ。あの子達と一緒に居る限り、鬼が本性を現す事も無いと思うの」

「こうやってワシらも祓っているしの」

「昔の様に退魔師としてやっていけるんじゃないかしらねぇ。フフフ」

洗っているタオルからは普通の人には見えない汚れが流れ出ていきます。水の流れとは邪を祓い流す力があるのです。


スーツの女性は洗濯をしているおばあさん達を眺めながら確認する様に言いました。

「アレは千年もの昔から代々坂田家で監視してきました。退魔師が国から秘匿されているとはいえ、その存在が認められてからも、国がずっとあの島を人の立ち入ることの出来ない国有地として管理してきました。あの島の中でならと、自由にさせていたのです。アレはもう人知の及ばない存在。神と言ってもいい」


おばあさん達は優しく言いました。

「うちの子は本当に優しい子じゃ」

「少し甘やかし過ぎたかもしれないけどね、フフ」

「あの子が鬼ヶ島に行くと言い出した時はビックリしたがの。やはり使命の様なものを感じていたのかもしれん」

「私達も覚悟を決めて送り出したけど、まさか鬼を連れ出してくるとは思わなかったわ」

「退魔師をしておったから、鬼の怖さはよう知っとる。けどあのオニはどこか違う気がしておるんじゃ」

「そうね。邪気が寄り集まって生まれる鬼は人を糧とする。けど、あのオニからはそういう衝動を感じない」

「鬼も全てが邪悪な存在とは呼べんのじゃろうて。昔は鬼を使役していた者もいるというしな」

「あのオニの本質は善よ」

「それが分かっていた昔の人も、畏れ奉る事で住み分けてきた」


スーツの女性はどう応えようか悩みました。

「言いたいことは分かります、、、だからこうして陰から見守ることにした。アレが鬼なのか神なのか見極めたいからと。お世話になった先輩達の頼みでなければ、島を出た時点で即刻処分していたところです」

「すまんの」

「鬼がどうのというより、うちの子が悲しむのを見たくなかったの。ごめんなさいね」


スーツの女性は、なんとも甘い考えだと思いました。この2人に対しても自分自身にも。彼女にも娘がいるのでその気持ちは分かるのです。

彼女はその甘さを断ち切る様に、肩にかけていた革袋に収められているモノを強く握りしめ言いました。

「これからも監視は続けます。もしもの事があればその時は、、、」

おばあさん達は何も言わず頷きました。

スーツの女性は退魔師であり武士なのです。

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