てる 8
私が黙ってしまったので、十時が袖を引っ張ってきた。
「それから?」
「、、、それから頼光達は山伏の格好に扮して酒吞童子の根城へ会いに行ったの」
「なんで山伏の格好を?」
「酒吞童子たち鬼も武士が退治しに来るという情報を得ていたようで、警戒していた。それを欺くための変装ね」
「いやいや、退治しに来るのが分かっていたのなら誰にも会わないでしょうに」
「そこで役に立ったのが神便鬼毒酒よ。酒吞童子は名前の通り、大の酒好きで頼光が差し出した酒に目がくらんで、もてなしたそうよ」
「おお、そのお酒こんな所で役に立ったんだ。でも待ってくださいよ。やっぱり変装していたとしても、おかしくないですか?山伏ってお坊さんみたいなものでしょ?『なんで坊主が酒を持ってるんだ!』って怪しまれません?確か、お坊さんってお酒飲んじゃダメでしょ?」
「山伏というのはお坊さんとは違うわよ」
「そうなんですか?」
「山伏は山の中に分け入って修行する修験者の事だけど、その信仰の対象は自然そのもの。山岳信仰なのよ。仏教ではない。それに仏教徒と違って飲酒も許されてるわ。私達の神道だって飲酒は許されている。日本の宗教ではお酒は神と親交を深める特別なものとされているからでしょうね」
「へー、、、」
「ちなみに、修験道の開祖は役小角とされ、その人は前鬼と後鬼という鬼を使役していたというわ。山伏は鬼も自然の一部として受け入れていたのかもしれないわね。その事もあって酒吞童子たち鬼にも怪しまれなかったんじゃないかしら」
「なるほどー」
「アナタも巫女なんだから神道に携わる者として、もう少し勉強した方がいいわよ」
「私、学校辞めちゃったんで、輝さんが教えてください」
十時が悪びれる事無く笑う。
(この子は学校をサッサとやめてしまって良かったのだろうか?)
知識を持っていないと、社会に出てから笑われる羽目になる。笑われるぐらいで済めばいいが、時には取り返しのつかない出来事に見舞われるかもしれない。知らなかったで済まされるのは学生の頃までだ。
(私のせいでもあるのか、、、)
因果応報というものかもしれない。私がこの子に自分の想いを重ねていなければ、彼女は学校を辞める事もなく、私の方もおもりに付き合わされることもなかった。だとしたら、時子さんが私にした事もまた因果だ。あの人のせいで今の状態に陥っているようで少し納得できない。
私はきっとこの因果を切ることは出来ないだろう。それはあの人との繋がりも全て絶ってしまう事になるのだから。
私はまた続きを語った。
「神便鬼毒酒を飲んだ鬼は次々に寝てしまい、その隙に頼光達は鬼の首を切り落としたの」
「頼光さん、卑怯ですね」
「アナタのご先祖様もね」
お互い、フフッと笑った。
「だまし討ちでもしないと鬼は倒せなかったんでしょう。現に首を切り落としたくらいでは酒吞童子は死なず、頭だけで頼光に襲い掛かってその兜に食らいついたと言われているわ」
「ああ!兜!」
十時は可愛く口を押えて、首を引っ込めた。
「スイマセン、、、それで、どうなったんですか?」
「力尽きる前、酒吞童子はこう言い残したわ『鬼に横道なきものを』と。横道とは曲がった行いの事ね。酒吞童子は不意打ちをした頼光を最後にののしったのよ」
「でも鬼は人をさらっていたんじゃないですか。よくそんなこと言えますね」
「私達人間だって鳥や豚、牛を殺して食べるじゃない。食べられる方からすれば非道な行いよ。酒吞童子にとって人間は糧であり、それを得る行いにやましさなんて無いと言いたかったんじゃない?」
「不意打ちをした人間の方が鬼だと?」
「そうね、、、そうかもね」




