きじこ
ある日、きじこはタブレットを胸に抱え、モモの側に行きました。しかし、モモはマニキュアを塗るのに忙しいようです。春の新色、ロマンピンクのラメ入りです。ウキウキで塗っています。きじこに気付いてすらいません。きじこはモモに顔を近づけて見つめました。
じーーーーーっ
「ちょ、待って!なに?」
流石にモモも気づきました。その彼女にタブレットを差し出します。絵本を読んでほしいのです。ネットには無料で読める絵本が沢山あります。人間はとても便利なものを使っていました。
モモの顔は困り顔になりました。
「マジごめんねー、読んであげたいんだけどぉ、今マニキュア塗ったばかりで、触れないしぃ」
きじこは諦めません。座っているモモの膝の上に強引に体をねじ込みます。
「ちょ!マジでダメだって!」
どうせマニキュアが乾くまで待たなくてはいけないのです。だったらきじこがタブレットを操作し、モモが読めば問題ありません。
あのサルなどはモモが動けないのをいいことに、後ろから抱き着く様にして日向ぼっこをしているのです。モモも、『安心するー』などと言っています。包容力?胸の差でしょうか?羨ましい!
「待って!失敗しちゃう!」
膝の上に座って読んでもらうのはいい考えだと思ったのですが、モモが本当に困っている様なので諦めました。
モモが台所の方に呼びかけます。
「ねぇ!シュタっち、代わりに読んであげてくれない?」
しかし、シュタっちも夕飯の準備に忙しい様子。
「スイマセン。準備が出来てからでいいですか?」
モモでないと意味が無いのです。きじこは首を振りました。
モモが申し訳なさそうに言います。
「ごめん。乾くまで向こうの二人に読んでもらってて。後で読んであげるから。ね、お願い」
こう言われてはしょうがありません。モモでなければ意味はないのですが、これ以上彼女に余計な気を使わせない様、二人に読んでもらう事にしました。きじこは幼くても分別のある子なのです。
幼いきじこでしたが、べつに文字が読めないという訳ではありません。普通のキジだった頃、空から光の筋をなして落ちて来た”何か”に体を貫かれると、きじこは生まれ変わり、獣人としての能力に目覚めました。半分は人なので言葉も文字も文化もおおよそ理解できるのです。きっと人間達が言うところの神様の力なんだと、きじこは考えています。
縁側にいたディとゆきぽのもとにやってきました。
ゆきぽは丸まって寝ているようです。あのふわふわの尻尾に包まれながら自分で絵本を読むのも悪くはありません。
しかし、ディがこちらをチラチラ見てきます。モモの命令だからと分かっているのでしょう。自分にその役割が回ってくるのを待っているのです。お互いモモを介していなければ馴れ合う事もありませんが、致し方ありません。
ディがしびれを切らして言いました。
「なんだ、読んでほしいのか?」
読んでほしいわけではないので首を振りかけましたが、ここはモモに余計な気を使わせない為にも堪えました。えらい。きじこは自分で自分を褒めてあげたくなりました。
しょうがなく、本当にしょうがなく、サルに言いました。
「読ませてあげる」
「舐めてんのか?お前、」
怒鳴ってくるかと思いましたが、そうではありませんでした。あぐらをかいて座っていた足を立て膝にして開き、ここに座るようにと手招きしてきます。どうやら絵本を読んでくれるようです。それはいいのですが、立て膝にしているので着ているチュニックはめくり上がり、パンツが丸見えです。これだからサルは。無意識にオスを誘っているのでしょうか?オスなど誘う必要は無いのです。向こうからやってくるのだから。
「フッ」
「おめぇ、今とんでもない事、考えてただろ?」
腕を掴まれ無理やり座らされました。乱暴者です。これではモモから着させてもらっているせっかくの洋服にシワが出来てしまいます。そんな事はお構いなく、ディは後ろから抱き着く様にきじこを包み込みました。
モモが背中を向けたまま手を振り言いました。
「ごめんねー、ディ」
「構わねぇよ。ガキの面倒は群れ全体で見るのが当り前だからな」
野生の猿は集団生活をしているのです。
「ディ、おっとなー」
ディもそう言ってもらえると悪い気はしないのでしょう。きじこの背後から嬉しそうにしている気配が伝わってきます。
ディはタブレットを操作しました。
「なに読んでほしいんだ、んん」
無駄に大きい胸がきじこに押し付けられました。暴力です!哺乳類と鳥類ではそもそものスペックが違います。種族を超えた蹂躙です!きじこはムッとしました。
でも、、、モモも大きいので代わりと思えばいいだけの事。きじこは胸を枕にその身を預けました。
「くるしゅうない」
きじこはお姫様気質なのでした。




