第八話 リーシャ・マクスランダは困惑する。
このあたりから甘々になります。コーヒー無糖を横にお楽しみください。笑
さあああっと白い光がひいていく。
くらくらしていた視界がはっきりとしだして、私の目の前にいる人物の姿を顕にした。
「今のは...。」
意識を取り戻したフィン・ラッテオがベッドの上で上半身だけをおこし口元をおさえながら目を見開いて固まっている。
も、もしかして魔法陣を見られた...!?
いや、見られてない?
もし、一瞬でもあの魔法陣をフィンに見られていたなら、優秀な彼はきっと何の魔法陣か読み取ってしまっただろう。
......謝ろう。自分の欲に踏みとどまったつもりがフィンが目を覚ますと焦った拍子に魔法陣を解放してしまった。
ヤツに謝ったら魔法が解けた後にまた上から目線で皮肉を言われるかもしれないけど、今回に関しては私が悪い。
「これは!!あの、さ!ごめん!!私......。」
謝ろうとすると、フィンがこちらを振り向いた。
驚きに見開いていた黒曜石のような瞳が私を見てさらに見開いた。
「フィン・ラッテオすまない。全て私の責任......」
あまりの端正な顔に一瞬言葉をのんでしまったが、再度意を決して謝ろうとすると、すっとフィンの指が私の頬に触れた。
「へ?」
「リーシャ...。もしかして俺を心配して医務室にずっといてくれたのか?」
なんだ?フィンのやつが頬に触れた指はそのままに眼前まで顔を近づけてくる。
いや、ちょっと待て。近い。
眼前数センチの美顔は眩しすぎて目が潰れるからやめてほしい。
「心配というか、いや、心配だ。私が放った魔法陣のせいで...、すぐ解くか......ら?」
「やっぱり心配してくれたのか。優しいな、リーシャは。」
いや、違う。違わないけどなんかニュアンスが違う。
自分がしでかしたことに対しての罪悪感による相手への申し訳なさの心配であって、決してフィン・ラッテオに情があって心配していたわけじゃない。
そんなことを思いながら冷や汗をかいていたら、もう片方の手も私の頬に当ててきた。つまり私は両頬をフィン・ラッテオの両手にはさまれてしまったのだ。黒い瞳が優しい光を放ちながら私の顔を覗き込むように見つめてくる。
「ふ、ふへええぇぇっ!?」
思わず後ろ飛びをし、ビダンッと音がするほど勢いをつけて医務室の白い壁にはりついた。
「どうしたんだ?」
いやいやいや!どうしたんだ?はこっちのセリフよ!急に距離感近くないか!?
さっきの魔法陣のせい?いや、しかしあれは屈服させる魔法を発動させる魔法陣であって、こんな急に性格がフレンドリーに変わる魔法ではなかったはず。
それにどっちかと言うとフレンドリーというよりはむしろ...
混乱してしまった私は迂闊だった。
天才たるものいついかなる時も周囲の動きに敏感に反応し、対処しなくてはならないのに。
急に目の前が暗くなった。
壁にタンッとつく長い腕。
右向いても腕、左向いても腕。
しまった囲まれた!
はっとして顔をあげると
「もしかして恥ずかしがってる?」
いつのまにベッドから降りたのか、私の顔横の壁に両手をつき、私の背に合わせて若干かがみ込んだフィンがいた。
「なぁ、リーシャ。触れても?」
そんな問いかけをやたら色っぽい眼差しでしてくるが、さっきあんた無断で触れてなかったか?
というか、なんで私に触れようとする!?
「は、はいぃ?」
「よかった。嬉しい。」
「いや違う!今のは肯定のハイではなくっ!!あんた何を言ってんだ!?のハイィ?だ!!」
「ふわふわだな。」
「って、聞いちゃいないしー!!」
フィンは私の頬にそっと触れると、すっと私の横髪に手を差し込み、髪をすくように上下に優しく動かした。
髪を見ていた目線が降りてきて、私の目線とかち合う。
そしてフィンは笑った。あの皮肉めいた笑いではなく。まるでこの世で1番愛しい者を見たような眼差しで。
「可愛いなリーシャ。」
ひいい!一体どうしたんだ!フィン・ラッテオ!!
「だっ!」
「だ?」
目を細めて微笑する美顔が私の顔を覗き込む。
サラリと私の頬にフィンの長めの前髪がかかった。
そこで私は限界に達した。
「誰なんだあんたは!?こんなの、こんなの...
私が知ってるフィン・ラッテオじゃないーー!!」
ゴンっ!!
叫んだ瞬間何かを頭突きしてしまったようだが、目を閉じて医務室から猛ダッシュで逃げた私にはよくわからなかった。
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