第六話 リーシャ・マクスランダは驚愕する。
ラブコメ異世界小説『王子と私の婚約破棄戦争』第110話も投稿しました。
ガンッ!キィーン!!ガッ!、
魔法剣技の授業は週に1回の座学と週に4回の剣技の練習のほかに、金曜日にだけ行われる実戦授業がある。今日は金曜日だからその実戦授業の日だ。
まずは魔法剣士育成コースのクラスがホール中央の結界が張られた競技台へと上がり毎週の練習の成果を披露している。さすが専門コースの生徒だけあって、皆素晴らしい剣技に魔法を掛け合わせて、結界の中はものすごいことになっている。
実戦試合は勝ち抜き戦だ。
そして大抵最後まで残るのは...
「勝者、フィン・ラッテオ!!」
そう、大抵最後まで勝ち残るのは、才能あふれすぎるフィンのやつだ。
今回も決勝まで残ったらしく、次の対戦相手を待つ間結界から一旦でてきてか水分補給している姿が見える。
ん?
ふと、フィオナ様に視線を移すと、なぜか隣に座るテナード殿下がこちらを見ていた。私と目が合うとニコッと笑い手を振ってくる。
「え、えーと、この場合手を振り返さないほうが不敬になるんだろうか?」
狼狽えながら手を振りかえすと、テナード殿下はさらにキラッキラな笑顔で振りかえしてきた。
うーん。美形の笑顔が眩しすぎるのでそれぐらいにしてほしい。そんなに愛想良くされても私は隣国には留学に行きませんよ。
この時私は気づかなかった。
テナード殿下に手を振る私をフィンが苦々しい顔で見つめていたことを。
「おい、なんかフィンのやつ動きが荒くないか?」
決勝試合がはじまると私の近くにいた魔法剣士育成コースの生徒が怪訝そうな顔で呟いた。
「たしかに。何かに苛立っているみたいな感じだな。あ!ほら、焦りすぎて魔法詠唱と剣の振りがずれた!」
その生徒の隣にいた生徒が、うなずいて首を傾げる。
私も試合を見ていたが、たしかにいつもの余裕たっぷりな闘い方ではない。どうしたんだろう。
「さすがに持ち直しだけど、いつものような冷静な判断に欠けているようだよな。なんかあったのか?」
私はピンときた。
もしかして原因はあのお二人か。
観覧席を見るとまたテナード殿下が私に気付き、にっこりと微笑まれた。
フィンのやつ、恋しいフィオナ様が婚約するかもしれないテナード殿下といらっしゃるから集中できないのかも...。
テナード殿下に愛想笑いをかえしながら、そう思ったとき、
ドガアアアアアアッ!!
一際大きな魔法の爆発音がした。
「しょ、勝者、フィン・ラッテオ!!」
魔法剣士育成コースの試合が終了し、結界を張り直すため、一旦結界が解除される。
シューシューとフィンの放ったと思われる魔法の残煙がホールに立ち込めて、しだいに薄くなっていった。
「はあ、はあ、はあ......。」
煙の中から姿が見えてきたフィンは額に汗をたらし、肩で息をしながら、両手で持った剣の先を見つめていた。試合の相手は爆発の衝撃で昏倒したらしく、泡を吹いて倒れている。学園の医療班が慌ててホールにやってきて彼を医務室に連れて行った。
担架で運ばれる生徒を目で追いかけていると急にホールに「きゃあああああ!」と女生徒たちの悲鳴が響き渡った。
観覧席のフィオナ様とテナード殿下も立ち上がり心配気な表情で身を乗り出して剣技台を見ていた。
剣技台......。
視線を移した私は固まった。
「フィン......っ!?」
剣技台の上で剣を握ったまま、フィン・ラッテオは意識を失い倒れていたのだった。
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