第五話 リーシャ・マクスランダは切なくなる。
◇◇
ディーンゴーン...ディーンゴーン......
授業の始まりの鐘が学園内に響き渡る。
次の授業は魔法剣技の授業だ。
私たち1年生のクラスは、魔術師育成コース、魔術・魔法剣技習得コース、魔法剣士育成コースの3つのコース別のクラスに分かれている。2年生3年生になるとさらにクラスが細かく分かれるのだけどね。
この中で私が在籍するのは魔術・魔法剣技習得コースだ。普通は魔術師と魔法剣士どちらを目指すか迷っている生徒が選ぶクラスなんだけど、私の場合は将来フィオナ様に仕えるために魔術以外に剣術もできるように選択した。
これから始まる魔法剣技の授業は、魔術・魔法剣技習得コースと魔法剣士育成コースが合同で行う。
「フィオナール様だわ!」
ふいに誰かの声が聞こえたと同時に、他の周りの生徒たちもザワザワと騒ぎ出した。
「王女様!」
「横にいらっしゃるのはテナード殿下か?」
「素敵!ほんとお似合いだわ...」
「もしかしてお二人でご観覧を?」
生徒たちが視線を送るその先を見ると、制服姿でもなお美しいフィオナ様の姿があった。その隣を歩くのは隣国から短期留学に来ているテナード王子だ。
テナード王子もかなりの美形で金髪碧眼のいかにも王子様な容姿をされているから、美しいフィオナ様の横に立つとまるでその空間だけ芸術家が心をこめて描いた絵画のようなこの世のものではないかのような錯覚をしそうなほど神々しい。
私がフィオナ様にじっと見惚れていると「あら?」と気づいたフィオナ様がこちらに優雅に手を振ってくださった。嬉しくてすぐにカーテシーを返すと隣のテナード殿下もこちらににこやかに手を振ってくる。
実はテナード殿下の国では魔化学のほうが進んでいて、魔法を使える魔術師自体の数は減ってきているらしい。なので、短期留学に来られてから何度か隣国へ留学にこないか、永住でもいいんだけどとマクスランダ家の血を引く私に王子からお誘いがあったので顔見知りなのだ。将来フィオナ様にお仕えするつもりの私はもちろん断ったけど。
剣技用の広いホールの中央にある観覧席に歩いていく2人のお姿を見送っていると、魔法剣士育成コースの生徒たちが私の後ろにあるホール入り口から入ってきた。
振り向くともちろんその生徒たちの中にフィンもあったが、どうも様子が変だ。
いつも私に向ける皮肉めいた表情でもなく、ただ無言でまっすぐ前を見ている。
一体、何を見て......と疑問に思ったがその答えはすぐわかった。
彼はテナード殿下と歩くフィオナ様を見ていたのだ。
テナード殿下は名目上は短期留学だけど、実はフィオナ様との婚約をするために来訪したのではないかと噂になっている。
その噂は本当かどうかはわからないけど、フィンがフィオナ様を好きならきっとテナード殿下が気になるよね。フィオナ様だって昨日のご様子だとフィンを少なからず想っていらっしゃるような感じだった。
だけど、もしテナード殿下がフィオナ様に求婚したら、一貴族であるフィンは身を引くしかないだろう。
辛いね。とフィンを見ると、私に気づいたフィンは思いきり顔を逸らしやがった!
くー!かわいくないっ!
フィンは魔法剣を携えて私の横を通り過ぎて行ったけど、無表情なのに身にまとうオーラは怒ったような、それでいてそれを押さえ込んで苦悩しているかのようなそんなオーラを醸し出していた。
最近、彼はよくそんなオーラをだす。
私に色事はよくわからないけど、恋に悩んでいるのかな。そのオーラに触れると、こっちまでなんか、なぜか......苦しくなるよ。
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