第三話 リーシャ・マクスランダは思いつく。
◇
「リーシャ。そんなにお茶が苦いならお砂糖を入れたら?」
「いえ、苦くはありません。フィオナ様。ただ心が苦々しいだけです。」
コイツのせいで!とフィンを見ると、あっちもなんだよ?と睨んでくる。
だいたいなんで護衛のあんだまで一緒のテーブルでさも当たり前かのようにお茶を飲んでるんだっ?
「おまえ達いい加減にしろ。フィオナール様の御前だぞ。ほら、リーシャ、これお前が食べたかったとか言うなかなか手に入らない菓子だろう?これでも食べて眉間の皺を直せ。」
兄が言うと、給仕がまずフィオナ様の前に菓子をのせた皿を置き、そのあとに私の前へと皿を持ってきた。
「こ、これは!毎朝10時から発売で15分で売り切れてしまうと言われる幻のジャムクッキー!?兄上、私のために並んでくれたのですかっ!?」
「オレじゃない。オレはそんな時間の無駄な使い方はせん。
知り合いにもらったんだ。良かったな、リーシャ。」
良かったなと私にいいながら、兄上の視線はなぜかフィンのほうに向いている。
「俺は甘いものが苦手なんで、遠慮しときます。」
フィンは目を伏せながらコーヒーを飲んだ。
確かにアイツは食堂でも甘いものを食べているところを見たことがない。
「ふふふ、わたくしは甘いものの摂取量を王室で厳しく管理されているからフィンの分はリーシャが全部食べていいわよ。」
フィオナ様がニコニコと紅茶を飲みながら私に微笑んでくださった。ああ、フィオナ様、あなたは女神ですか!
「でっ、では、ありがたく頂戴いたします。ぱくっ。お、美味しい〜!!」
フィンの分まで皿にのせてもらい山盛りになった菓子をキラキラした目で見ながら食し幸せを感じていると、ふとフィンと目が合った。
フィンは口元を片手で隠し、すぐに私から顔を背けた。
「頬がクッキーでパンパンでハムスターみてぇ。」
フィンが肩を震わせながら、ぼそりとつぶやく。
なっ!?ハム...!?女性が食べてる姿を見て笑い出すなんて相変わらずなんて失礼なやつなのっ!?
た、たしかにフィオナ様みたいに一口ずつ上品に食べるなんてできないけど、私はネズミじゃない!!
「リーシャ、最近は何をしているの?一年生達はもうすぐ初めての学園パーティーよね?ドレスは用意した?」
ツンケンした私達を眺めながら、フィオナ様がわざと話題を変えるように私に質問してきた。
学園パーティーとは二学期の期末テスト後にある学園祭のようなもので、その日は男子も女子も正装をして講堂に集まり、美味しいものを食べ歓談し、最後は1年生達全員が上級生の前でダンスを披露する魔法学園の伝統的行事だ。
普通、王族や貴族主催のパーティーではエスコート相手が必要だが、学園のパーティーは1人参加オッケー。参加不参加も自由だが、美味しいものが沢山用意されると聞いているからもちろん私は参加予定だ。
「ドレスは今着ている新調したこのドレスにフォーマルな飾りを付け足して着て行こうかと思っています。」
「まあ、そのドレスを?今日会った時から思っていたけど、素敵なドレスね。私の色にしてくれたのね。嬉しいわ。」
「もちろんです。フィオナ様は、私が仕える未来のご主人様ですからね。」
さっと椅子から起立し、くるりと回ってフィオナ様にかーテシーをすると、フィオナ様はうふふ、素敵よと笑った。そして何故か視線を違う場所に移した。ん?と思い、フィオナ様の視線を追うとそこにはフィンが無言でコーヒーを飲んでいた。
なんだろう?
「フィンは?学園パーティーには出席するのでしょう?誰かにドレスをプレゼントするの?」
フィオナ様が話に入ってこないフィンに質問する。
「さあ?俺がプレゼントしてもこの真っ黒い髪や目の色のドレスなんて誰もほしくないでしょう?」
フィンにしては珍しく皮肉っぽくもなく、どちらかというとため息をつきそうな雰囲気で彼は苦笑した。
するとガタンとフィオナ様が勢いよく席を立った。
「そんなことないわっ!!あなたからあなたの色のドレスを送られるのを喜ぶ人だっているのよ。あなたの色は星が瞬く夜空のような綺麗な黒なのだから!」
「フィオナール様......。ありがとうございます。」
フィオナ様が声を荒げたり、椅子を勢いよく立つ姿なんて初めて見た。
フィンもびっくりしたようで、一瞬フィオナ様を凝視していたけど、すぐにはっとしてフィオナ様に微笑み礼を述べる。
「そうよ。あなたは立派な青年よ。自信を持って。」
微笑み合うフィオナ様と、フィン。
いや、そいつは普段から自信ありまくりで私を揶揄ってきますけどもっ!と思ったけど、さすがの私もフィオナ様がとりなしてくださったこの状況ではそんなこと言うべきではないと言葉を飲み込む。
そして、あることに気づいてしまった。
私には決して向けない優しい笑顔。
優しい瞳。
ーーーフィンがドレスを贈りたい相手って、もしかして、フィオナ様なの?
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