第二話 リーシャ・マクスランダは画策する。
◇
どうやったらアイツの、フィンの鼻をあかしてやれるのだろう。
学園から屋敷に戻り教科書を広げ、次の期末テストの範囲となるであろう箇所を予習しながら考える。
夕食のあとは、伯爵家所有の魔法部屋で魔法の訓練をしよう。そうだ、明後日からはテスト明けの休みが数日あるから、その休みのどこかで新しい魔法剣を街に購入しに行くのもいいな。
そう考えて、自分はどこかでこの行動パターンを知っていたなとはたと気づいた。そうだ。1学期の中間テスト後にフィンにどうやったら勝てるのだろうと考えて行動に起こしたことそのままじゃないか。まるっきり同じことを繰り返そうとしている。
「......2学期も同じことをして、ヤツに勝てるのだろうか。」
1学期末テストは、フィンのやつがまた首位だった。
同じことを繰り返し頑張っても、2学期末テストも結局やつが勝ってしまうのでは?
「一体どうしたものか。」
ううーんと唸りながらノートに突っ伏していると、コンコンと扉を叩く音がした。
「リーシャ。唸り声が聞こえたが腹でも壊したか?」
扉の外から兄の無遠慮な声が聞こえる。
「兄上、私が淑女だと言うならもうちょっと言葉を濁した聞き方があるのでは?まぁ、お腹は壊してないけどね。で、どうしました?夕飯にはまだ早すぎる時間帯だけど?」
ガチャリと扉を開けると、目の前の兄は肩をすくめた。
「健康で何よりだな。アイツの心配性にも呆れるよ。」
「アイツ?」
「いや、なんでもない。元気ならいいんだ。来客だからな。
フィオナール王女がおまえに会いたいとテラスで待っていらっしゃる。
「フィオナ様が!?」
ぱあっと私の声が自分でも明るくなったのがわかった。フィオナ様、フィオナール第一王女様はこの国の王女様で、幼い頃から父にひっついて登城していた私にとっては登城する度に城の庭園で遊んでくださった、まるで姉のような存在だ。
急いで新調したドレスに着替える。ドレスの色はフィオナ様の髪の色でミルクティー色だ。魔術師や魔法剣士達は学園を卒業する時に生涯で仕える主人を1人決める。大抵は王族に仕えるのだが、私リーシャが生涯仕えようと心に決めているのはもちろんフィオナ様だ。
◇
「リーシャ、久しぶりね。学園でも学年が違うとなかなか会えないから、久しぶりに会いにきたわ。」
ニコニコとうちのテラスのアイアンチェアに座るフィオナ様。フィオナ様は魔法学園の2年生だ。
夕暮れにはまだ早いが涼しくなってきた庭園の色とりどりの花がフィオナ様の背景になっていて、美しすぎて感極まりそうである。
しかし......。
「なんでコイツがここにいるんですかああぁー!!」
金刺繍のドレスを着た美しいフィオナ様とフィオナ様をさらに美しく際立たせる庭園の花々...そこまでは良い、来ていただいて涙が出そうなほど嬉しい。しかし、フィオナ様の横には黒い髪に白い襟シャツ、黒いパンツに黒ブーツ、腰には剣を携え、庭のそよ風になびく薄い水色のマントを羽織ったアイツがいた。
「先程ぶりだな、リーシャ。俺はフィオナ様の護衛だ。」
ふふんと黒髪の護衛の男、フィン・ラッテオが笑った。すごいだろ、と自慢でもしたいのだろうか。
「フィオナ様、もうちょっとまともな護衛はいなかったのですか?」
「んだと?」
「なによ?」
言い合いをしだした私たちの間に慌ててフィオナ様が口を挟んだ。
「今日は正式な訪問じゃなくプライベートな訪問だからフィンに頼んだの。2人とも仲良くしましょう?さあ、お茶にしましょうか、ゼレス。」
「そうですね。庭園は陽が落ちると寒くなりますし、どうぞ屋敷の中へ、フィオナール様。お茶と最近流行りの菓子を用意致しますよ。さあ、お手を。」
私の兄、ゼレスがフィオナ様をエスコートして屋敷の中へと入っていく。
それを見送っていると、ふと視線を感じフィンを見た。するとフィンははっとした顔をして、すぐに顔を背ける。
「俺はエスコートしないからな!」
「なっ!?こっちこそ願い下げよっ!!」
別にフィオナ様みたいにエスコートしてほしくてフィンを見たわけじゃないのに!
きぃーーーーー!言い方が腹立つわ!なんなのよ!
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