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第49話 風になったクラリッサ

 アオイはクラリッサの要望通りに指輪を強化した。

 クラリッサはその場で動きを試そうとするが、思いとどまらせる。

 敏捷性400オーバーがどれほどか、想像できない。

 アクセルとブレーキを踏み間違えた車の如くコントロール不能に陥り、その辺の建物に突っ込んだら大変だ。


 なので次の日、エメリーヌに頼んで、マナバーストの試し打ちをした場所に連れて行ってもらった。


「大げさじゃな。速くなったといっても、我やエメリーヌほどではないのじゃろ?」


 イリスは呑気な口調で言う。


「そうですけど。指輪なしのクラリッサさんの敏捷性は101です。それが501になるってことは約五倍。いきなりそんなに強化されたら、まともにコントロールできませんよ」


「ふむ、そういうものか。いや、待てよ? 防御力はそのままなんじゃろ……? 万が一、なにかにぶつかったり転んだりしたら……クラリッサが削れて消えてしまうのじゃぁ!」


「いや、さすがに消えないと思いますけど」


「じゃが怪我はするかもしれん! この実験は中止じゃ! 防御力を上げてから出直すのじゃあっ!」


 イリスは柔軟体操しているクラリッサに近づいていく。

 が、エメリーヌが羽交い締めにして止めた。


「もう、イリスったら心配性なんだから。私が回復魔法を使えるから大丈夫よ。骨折しても、その場でくっつけてあげる~~」


「じゃが、しかし……」


「安心してください。クラリッサさんは馬鹿じゃありません。いきなり最高速で走ったりしませんよ。本気を出すのは慣れてからです。そうですよね、クラリッサさん」


 アオイは信頼するクラリッサに視線を向ける。


「え、慣れてから……? う、うん、そうそう! いきなり本気で走ったら危ないもんね……あはは」


 引きつった笑みが返ってきた。

 アオイの彼女に対する信頼が、やや減少した。


「我はやめたほうがいいと思うが……お前らがそこまで言うなら信じてやろう。じゃが、もしクラリッサがエメリーヌでも治せないほどの大怪我をしたら……我は泣くからな! 手がつけられないほど大泣きするからな! 覚悟しておくことじゃ!」


 どういう脅しだろうか。

 しかし大泣きする子供には、きっと誰も勝てない。

 それにクラリッサが大怪我したら、アオイも泣きそうだ。


「気をつけてくださいね。場合によっては、ボクら二人が大泣きするんで」


「アオイくんも!? お姉ちゃんとしてアオイくんを泣かせるわけにはいかない……いや、泣き顔を見たいかも……いやいや、駄目だ!」


 クラリッサは自分の両頬を叩いて気合いを入れる。

 そしてダッシュ。

 あっという間に百メートル以上も先に行ってしまった。と思ったらもとの位置に返ってくる。


「かなりいい感じに動ける! 今のが五割くらいだったから……次は八割で、それでも大丈夫だったら本気出す! ちょっと遠くまで行ってくる。おおおっ、風になるぜ!」


 クラリッサは一瞬で消えてしまった。

 自分の足であんなに速く走れたらとても楽しいだろう。

 アオイだって同じ指輪を装着すれば、近いスピードを出せる。が、アオイの反射神経だと、それこそ障害物にぶつかって終わる気がする。


 風になるのがどんな気分か、早く本人の口から聞きたい。

 アオイはクラリッサが帰ってくるのを待つ。


「なかなか帰ってこないわね~~」


「あいつ、本当にどこかで怪我しとるんじゃなかろうな……?」


 太陽の角度が変っても、クラリッサは帰ってこなかった。

 いくらなんでも遅すぎる。

 二手に分かれて探すことにした。

 アオイはドラゴン形態のエメリーヌに乗り、空から見渡す。


「どこまでいっちゃったのかしら……」


 エメリーヌでさえ不安げな口調だ。

 アオイは気が気でない。

 神経を研ぎ澄まして探す。

 と、そのとき。


「おーい、おーい」


 少女の声が近づいてきた。

 その方向を見ると、意地悪そうに笑うイリスが、泣きはらした顔のクラリッサを抱きかかえて飛んでくるではないか。


「ぬふふ。クラリッサの奴、なにをしていたと思う? 遠くまで行きすぎて帰り道が分からなくなって、うずくまって泣いておったのじゃ」


「うぅ……だって気がついたら全然知らない土地で……誰もいないから道を聞けないし……なんとか帰ろうと頑張っても景色がどんどん変っていくし……怖かったよぉ!」


「まさか大泣きするのが我でもアオイでもなくクラリッサだったとはなぁ! じゃから我はやめたほうがいいと言ったんじゃ。やはり真祖は偉大! 我の勝利じゃぁ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] クラリッサかわいい!w
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