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第38話 スタンピードの発生原因

「いや、待って。アオイくんがいくら転生者だからって……なんで真祖と……ドラゴン? 待って。人間にしか見えないけどドラゴンなの? けど水晶にそう表示されたからドラゴンなのよね……人間のかぶり物をしている、とか……?」


 ロザリィはかなり混乱した様子だ。

 フィクションで慣れているアオイよりも、この世界で生まれ育った人たちのほうが、吸血鬼やドラゴンに恐れを抱くらしい。

 強くて恐ろしいというイメージを幼い頃から刷り込まれているのだろう。


 とりあえずアオイは、エメリーヌとイリスには人間に対する悪意や敵意がないことを説明する。


「まあ、悪い人たちじゃなさそうなのは私でも分かるけど……問題なのは、そんな凄い存在がどうしてこんな田舎町にいて、しかもアオイくんの家に住んでるのかってこと」


「なんか偶然通りかかって、それでボクのこと気にってくれたみたいで。それで一緒に住むことになりました」


「なんか偶然……?」


 ロザリィは微塵も納得していない様子だ。

 アオイも、自分が彼女の立場だったら決して納得しないだろうな、と思った。

 そもそもアオイとて、エメリーヌとイリスの話をもっと聞きたい。

 しかしエメリーヌは昨日来たばかりで、イリスに至ってはついさっきだ。

 いい機会なので、もっとくわしく話してもらおう。


「アオイが言っているのは嘘ではないが、全てではないのじゃ。アオイと出会ったのは偶然じゃが、この町に来たのは偶然ではない。エメリーヌ、お前もそうであろう?」


「この町の近くに『澱み』がたまっているのを感じたの。限界を超えると大変なことが起きて、この辺一帯の景色が変っちゃいそうだから。散歩好きの私としては、綺麗な景色が消えるのは嫌なの。だから、もしものときのために、この町で待機しようと思って~~」


「うむ。吸血鬼からすれば、人間が減るのは食料が減るということ。死活問題じゃ。ゆえに守ってやろうと参上したわけじゃ。感謝するがよい」


 澱み。

 あまりいいイメージがある言葉ではない。

 この場合、どういう意味で使われているのだろうか。

 クラリッサとロザリィを見ると……二人ともピンときていない顔だ。


「澱みって、水が濁る的な? 井戸水がマズくなるの?」


 クラリッサは疑問を呟く。


「違う違う。そんな些細な異変ではないのじゃ」


「この場合の澱みは、空気や水じゃなくて……なんて言えばいいかしら。負の精神エネルギーとでも表現すべき?」


 人間に限らず、生物が活動すれば、よくも悪くも様々な感情が湧く。

 別に、生きるか死ぬかの話でなくてもいい。

 注文した料理があまり美味しくなかったり、出かけようとしたのに大雨だったりして不機嫌になる……そういった些細な負の感情さえ、たまり続けると世界に悪影響を及ぼすという。


 世界にたまった負の精神エネルギーは、いいことがあっても帳消しにならない。それぞれ別のエネルギーとして留まり続けるらしい。

 それを『澱み』とエメリーヌとイリスは呼んでいる。


「澱みは時間をかけてゆっくりと一つの場所に集まっていく。そして一定量を超えると、世界を歪ませてしまうのじゃ。例えば、ダンジョンと呼ばれる迷宮を作り出したり。あるいは、モンスターの異常な大量発生を引き起こしたり」


 モンスターの異常な大量発生。

 それはもしかして――。


「スタンピードのことですか?」


「そうね~~。人間はそう呼んでるみたいね~~」


 エメリーヌがそう答えたのを聞いて、ロザリィはハッとした顔になる。


「スタンピードの発生原因について興味深い説だわ! ドラゴンと真祖が語ったってのが信憑性を生んでるし……レポートにして提出していいかしら!?」


「いいわよぉ。別に秘密にしてないし~~」


「やったわっ! ボーナスが出るかも!」


 ロザリィは両手を合わせて喜ぶ。


「喜ぶのはいいけど。これでスタンピードが起きるってほぼ確定したようなものでしょ。ギルドはちゃんと対策できてるの?」


 クラリッサは真面目な質問をぶつける。


「それは大丈夫よ。すでに優秀な冒険者が何人かこの町に来てるわ。スタンピード発生予定日の少し前には、王国軍が来てくれることになってるし。あ、ちなみに二人の予測ではいつ発生するのかしら?」


「そうねぇ。ざっと一ヶ月後くらいかしらぁ」


「うむ。我もそのくらいだと思うのじゃ」


「一ヶ月後!? こっちの予測より随分と早いじゃない! 大変、支部長に報告しなきゃ……あ、ドラゴンと真祖がアオイくんの家にいるってのも支部長に言っていいかしら? できるだけ情報が広まらないように配慮するから」


「私としては知られてもいいんだけど。でも、アオイくんとクラリッサちゃんが困るかも~~?」


「まあ、あんまり言いふらさないほうが無難じゃなぁ」

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