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第35話 真祖も一緒に住むことになった

 目を回して倒れた真祖イリスだが、介抱する前に一人でムクリと起き上がった。

 そしてアオイをじっと見つめ、難しそうな顔で「うーむ」と唸る。


「改めて見ても信じられぬ。こんなにキラキラぁでフワフワぁなのに男……むむ、世界は広いのじゃ」


「長生きしてる真祖から見ても珍しいなんて、さすがは私のアオイくん! アオイくんの可愛さは人知を超えた!」


 クラリッサは自分のことよりも嬉しそうに飛び跳ねている。


「人知を超えたは言い過ぎな気もするが……ところで、なにもないところからドレスを出したじゃろ。あれは収納魔法の類いか? 存在は知っとったが実際に見るのは初めてじゃ」


「いえ、収納魔法ではなく――」


 そこまで言いかけて、アオイは言葉を切った。

 イリスは悪い吸血鬼ではなさそうだ。しかし、だからといって、ビルダーの能力を簡単に教えていいものだろうか。


「――ごめんなさい。能力の詳細は、家族以外には余程のことがない限り、教えるつもりはありません」


 そこを線引きとしよう。

 厳密に守る必要はないが、そうと決めておけば、今後、能力の使い方の目安になる。


「家族……つまり我がこの家に住めば、教えてくれるということか?」


「そうは言ってもボクはまだイリスさんをよく知らないで、いきなり一緒に住むというのは……」


 アオイはまた言葉を途中で止める。

 エメリーヌとは出会ったばかりで、この家に住むのを簡単に受け入れた。話した時間は短かったが、信用できると思えるなにかがあった。

 口調や表情、言動、容姿……様々な要素が混ざり合って印象を作る。


 ではイリスの印象はどうか?

 今のところ悪い印象はない。友達になれたら楽しそうだと思う。


「大丈夫よ~~。イリスは吸血鬼だけど、血を無理矢理飲んだりしないし。とってもいい子なのよ~~」


「別にいい子ではないぞ。我が偉大すぎて、人間たちが自ら血を捧げてくるのじゃ。襲う必要があれば襲ってみせるのじゃ」


 イリスは平らな胸を反らして、偉そうに言う。


「ふーん。じゃあアオイくんかクラリッサちゃんを襲ってみせて~~」


「そ、そんな……罪もない人間をいきなり襲えと言われても……」


 エメリーヌに煽られた途端、声を震わせてうろたえだした。


「うふふ、冗談よ。いい子のイリスに、そんなことできないの知ってるもの~~」


「じゃから、いい子ではない! 我は闇夜を統べる、偉大なる真祖吸血鬼! 人間など食料にすぎぬ。ただ……今はそういう気分ではないだけじゃ」


 イリスはどうしても真祖吸血鬼としての威厳が欲しいようだ。

 しかし無理だろう。

 愛らしい少女だから、ではない。

 ホラー映画に出てくる少女の幽霊は、とても恐ろしい。本来なら守られる立場の幼い少女が、怪物として現れる、というギャップが恐怖を生んでいる。

 ゆえに吸血鬼が美少女であっても、その怪物性は消えたりしない。


 問題なのは、イリスの表情が豊かすぎることだ。

 こんなに純粋無垢な笑いを浮かべていたら、外見相応の少女にしか見えない。

 実際は二百年も生きているらしいが、どう見たって十歳かそこらだ。

 そんな威厳のない吸血鬼だからこそ、アオイは彼女に好印象を持った。


「イリスさんはこの家に住みたいですか?」


「住みたいぞ! ここにいればエメリーヌにいつでも挑戦できる。それにアオイが出すドレスは最高じゃ。もっと着てみたいのじゃ!」


「クラリッサさんは、イリスさんがこの家にいても大丈夫ですか?」


「襲ってこないならおっけーだよ。アオイくんの可愛さを理解できる人に悪い人はいないはず! それに……イリスちゃんがいれば、アオイくんが定期的に女の子の恰好してくれるわけでしょ? ぐへへ……」


「定期的に女の子……? どこから出た話ですか。まあ、いいですけど。部屋はまだまだ空いてます。ボクとしてもイリスさんがここに住むのに異論ありません。イリスさんって強いですよね? ボクとクラリッサさんは冒険者なんですけど、たまに手伝ってもらうことがあるかもです」


「おお、手伝ってやろう。なにせ我は真祖ぞ。どんなモンスターでも一撃で倒してみせるのじゃ。頼りにするがよい!」


 イリスはドヤ顔で胸を反らす。

 彼女の戦闘力は、ついさっき見せてもらったばかり。

 慢心ではなく、確かな実力に裏打ちされた自信なのだ。

 実に頼もしい。


 それにしても光のドラゴンに続いて、真祖吸血鬼まで住人になってしまった。

 この世界においてどのくらい上位に位置する存在なのか知らないが、少なくとも田舎の屋敷に集中していい戦力ではないだろう。

 アオイは『なんだか凄いことになってきたぞ』とワクワクした。

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