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第29話 ドラゴン襲来

 その日はアオイもクラリッサも仕事をせず、家でのんびりしていた。

 朝からフルーツ三昧である。


 庭に植えたフルーツの木は、収穫し尽くしても三日後にはまた実る。二人だけでは、とても食べきれない。


 収穫して余らせたフルーツを放置しておくと、当たり前だが徐々に腐っていく。

 が、木になったままにしておくと、いつまでも腐らない。

 そして収穫した分だけ、三日後にまた実るのだ。


 ゲームの仕様を忠実に再現している。そう理解しているアオイでさえ不思議でたまらないのだ。

 ゲーム未体験のクラリッサは、いくら食べても減らないフルーツの木を見て、狐に化かされたような顔で首を捻っている。

 しかし彼女にとって一番大切なのは、理屈よりも「美味しいフルーツ食べ放題」という実利のほうらしい。

 不思議だなぁ、と言いつつ、美味しいなぁ、と毎日モグモグ食べている。


 余ったフルーツを売るというのも考えた。

 だが、全て収穫したら量が多すぎる。

 屋敷の前に露店を出しても売りさばけないだろう。

 どこかの八百屋に卸すというのも考えたが「大量のフルーツをどこから仕入れたのか」と不審に思われて、いらぬ注目を集めるのは困る。

 それに、需要と供給のバランスが崩れて市場価格がメチャクチャになりそうだ。

 農業で生計を立てるつもりのないアオイたちが、農家の生活を破壊するような真似はしたくない。


 このフルーツ畑は、自分たちのお腹を満たしつつ、庭の景観に彩りを添えるためにあればそれでいい。アオイはそう考えていたのだが――。


「あ、アオイくん! 窓の外を見て! なんかスゲェのが私たちのフルーツ畑でモシャモシャしてる!」


 なんかスゲェのってなんだ?

 もっと詳しく説明して欲しい。

 そう思いつつ二階の窓から外を見ると、スゲェのがいた。


 金色の毛並みを持つ、巨大な生物だった。

 頭から尻尾までの長さは十数メートル。

 トカゲを思わせる爬虫類的フォルムだが、表情には確かな知性を感じる。

 その大きなトカゲの背には翼があった。

 そう。ドラゴンである。

 黄金の美しいドラゴンが、前脚の爪を使って器用にフルーツをもぎ取り、美味しそうに食べているのだ。


「か、格好いい……!」


 アオイはたまらず呟いた。

 ファンタジー系の物語において、ドラゴンは最強クラスのモンスターと位置づけられることが多い。

 こうして目の当たりにすると、その理由がよく分かる。

 見た目のインパクトが、ほかのモンスターと段違いだ。

 問答無用で力強いと分かる。あの翼で空を自由自在に飛ぶのだろう。口から炎か光線を放ってくれるに違いない。


 と、見とれている場合ではなかった。

 これは怪獣映画ではなく、現実の光景だ。

 ドラゴンは今、フルーツに夢中になっているから大人しい。が、もし暴れたりしたら、この屋敷などひとたまりもない。

 アオイとクラリッサだって潰されるだろう。

 防御力が200以上あるから大丈夫だと言える状況ではなさそうだ。


「アオイくん! ボヤッとしてないで逃げなきゃ!」


 クラリッサが腕を引っ張ってくる。

 確かに逃げるべきだ。

 ドラゴンのパラメーターを確認したわけではない。それでも分かる。

 自動車を知らないこちらの世界の住人だってダンプカーのエンジン音を聞いたら、圧倒的な力強さが分かるだろう。

 それと同じだ。

 ドラゴンの出で立ちを見れば、逆立ちしたって勝てないと本能で理解してしまう。


 しかし、せっかく手に入れたこの家から逃げ出して、本当にいいのか?

 いや、なによりも大切なのは命だ。

 二度目の転生なんて都合のいいチャンスが巡ってくるとは思えない。仮に転生できたとしても、この世界のこの時代でアオイは生きていきたいのだ。クラリッサという家族を得たのだから。

 そう。家族。家族と暮らす家を捨てるなんて――。


 アオイは家への未練ゆえ、判断が遅れた。

 クラリッサは力任せにその体を運ぼうとする。


 だが、たちこめていた緊張感を吹き飛ばすように、間の抜けた第三者の声がした。


「あらあら、ごめんなさいねぇ。あんまり美味しそうだったからつい食べちゃったわ。ここ、あなたたちのお家かしらぁ?」


 その声は、ドラゴンの口の動きに合わせて聞こえてくる。

 こんな巨体なら、さぞ野太い声を出すだろうと普通なら想像する。

 ところが耳に届くのは、若い女性の優しげな声色だ。


 アオイもクラリッサも逃げるのを忘れ、ポカンとドラゴンを見つめ続けた。

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