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第17話 すぴー……すやすや……すぴー……

「もう遅いので、ボクもこの宿で部屋を借りることにします」


「同じ宿だと、明日また会えるね。一緒に朝ご飯食べに行こ!」


 クラリッサは嬉しそうだ。

 ところが満室で開いている部屋はないと言われてしまった。


「うーん……もう遅いし、今からほかの宿を探すくらいなら、私の部屋に泊まっちゃえば?」


「いいんですか?」


「全然おっけー。私もアオイくんも細身だから、一緒に寝てもベッドからはみ出したりしないよ」


「いや、ボクは床で寝ますよ」


「駄目駄目! アオイくんを床で寝かせるくらいなら、私が床で寝る!」


「ボクがお邪魔する側なのに、クラリッサさんが床とかありえないです」


「つまり二人ともベッドなら万事解決というわけよ!」


「……分かりました。クラリッサさんがよければ、それでお願いします」


 というわけでアオイは、クラリッサと一緒の部屋に泊まることになった。

 最初は純粋にありがたいと思った。

 しかし感謝の気持ちは時間が経つとともに薄れていく。


「ね、眠れない……」


 そう呟くアオイのすぐ隣で、クラリッサはぐっすり眠っている。

 彼女には抱きつき癖があるのだろうか。

 ずっとアオイをぬいぐるみかなにかのように抱きしめ、放してくれない。


 別に抱かれることそのものは不快ではないのだ。

 さっき言ったように、母親を思い出して懐かしくなる。

 だが、それがずっと続くと暑苦しい。

 とても眠れたものではない。


「うぅ……もう限界だ……クラリッサさん、起きてください。ボクを放して……クラリッサさん?」


「すぴー……すやすや……すぴー……」


 耳元で声をかけても、まるで起きる気配がない。

 一度寝たら朝までぐっすりタイプだ。


「す、するとボクは朝までこのまま……? 間違いなく寝不足になる!」


 なんとか脱出しようともがく。

 しかしレベル7の魔法師と、レベル21の剣士では力が違いすぎた。

 なにをやってもビクともしなかった。


「……諦めよう……心を無にして、少しでも眠れることを祈るしかない」


 アオイは体の力を抜き、目を閉じた。

 すると意外にも悪くなかった。

 クラリッサは鍛えているが体に柔らかさが残っていて、アオイを優しく包んでくれる。

 おかげで夜の冷え込みが気にならない。

 そういう寝具だと思えば、暑苦しさはむしろ温かみに思えてきた。安宿の薄い布団が、極上のベッドに早変わりだ。


「ん~~、ぐっすり眠れた! アオイくん、朝だよ! おはよう!」


「おはようございます。クラリッサさんは朝から元気ですね」


「うん。目覚めと同時に絶好調! 特に今日は調子がいい! 抱き枕がよかったからかな……って、私、一晩中アオイくんを抱っこしてた!? ご、ごめんね……寝苦しかったでしょ……?」


「あー……いえ、最初は寝苦しかったですけど、途中からむしろ気持ちよかったです。おかげでボクもぐっすりです」


「そっか、よかった! じゃあ、これから毎晩一緒に寝ちゃう?」


「え、毎晩ですか……」


「冗談、冗談。寝るときくらいは一人っきりになりたいもんね。分かるよ。でも……アオイくんが隣にいると本当に快眠できたから……たまにならいいかなぁ?」


「ええ、たまになら」


「わーい」


 そして宿の食堂で朝食をとり、冒険者ギルドへ向かう。


 アオイは攻撃魔法の練習をするため草原に行く。そのついでに薬草集めの仕事を請け負う。

 クラリッサは、アオイが作った新しいユニコーンソードに慣れるため、洞窟に潜るという。


「じゃあ別行動ね。夕方、ギルドに集合して、また晩ご飯食べに行こ!」


「分かりました。お気をつけて」


「アオイくんもね!」


 昨日会ったばかりなのに、一緒にいるのが当然という雰囲気だ。

 クラリッサがグイグイ来るというのもあるが、アオイはそれを自然に受け入れていた。

 波長が合う、というのだろうか。

 アオイは不思議な心地よさを味わいながら、草原に向かった。

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