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第1話 死亡。そして――

「ああ……やっぱり生産職じゃ、一人でケルベロスに勝つのは無理か……」


 如月(きさらぎ)(あおい)はノートパソコンを見つめながら呟く。


 このゲームの生産職『ビルダー』は、ほんの半年前までとても重宝されていた。

 それが今や、パーティーを組んでくれる相手を探すのに苦労するほどの不遇職になってしまった。


 しかし、その不遇も今日までだ。

 明日は転生システムが実装される日。

 これでまた楽しくゲームができる――と葵は胸を躍らせていた。


 葵は生まれつき体が弱く、人生のほとんどを病室で過ごしている。

 なんとか十三歳まで生きてきたが、いつ死んでもおかしくない。

 学校に通えず、当然、友達はいない。

 両親からも見捨てられ、いまや全く見舞いに来てくれない。


 現実世界に希望はない。

 その代わり救いになっているのは、とあるMMORPG。

 三年前にサービスが始まってから、ずっとプレイしている。


 病室にいながら、ほかのプレイヤーと一緒に、広い世界を旅できる。

 葵にとって、そのゲームこそが世界の全てだった。


 生産職『ビルダー』を極めた。

 素材とレシピを集め、強力なポーションや武器を作った。

 仲間に渡せば感謝されるし、露店を出して売れば儲かる。

 生産職プレイはとても楽しかった。


 だが半年前に運営会社が変わり、大きな変化が起きた。


 課金アイテムが大量に増えたのだ。

 それら新しい武器や防具は、無課金プレイで入手できるものと段違いの性能だった。

 課金ポーションはHPを回復するだけでなく、ステータスの大幅強化までしてくれた。


 最も割を食ったのはビルダーだった。

 ビルダーは強力なアイテムを作れる代わりに、戦闘力そのものは低めに設定されている。

 ほかのプレイヤーはアイテムを目当てに、ビルダーをフレンド登録したり、パーティーに加えたりしていた。

 なのに、そのアイテムが価値を失った。


 このゲームは無課金でも工夫次第で強くなれるのが評価されていた。

 そのバランスが完全に崩れた。

 ビルダーはただ弱いだけの不遇職になってしまった。

 葵の世界は一気に狭くなった。


 大勢のビルダーが引退し、プレイヤーの数が目に見えて減る。

 閑散としたフィールドを見て、運営会社は慌てた。

 いくら課金アイテムで集金しても、プレイヤーが減ってはゲームの存続に関わる。

 オンラインゲームの醍醐味は、様々なプレイヤーたちによる同時プレイにある。

 全身を課金アイテムで覆い尽くした者だけでなく、それを見て羨ましがる無課金ユーザーも必要なのだ。


 そこで運営会社は離れてしまったプレイヤーを呼び戻すため、アップデート予定を発表した。

 その一つが、転生システムの実装である。

 これまでは一度選んだ職業を変えることはできず、ほかの職でプレイしたかったら、別アカウントを作る必要があった。


 転生システムを使えば、同じアカウントでやり直せる。

 レベル1からになってしまうが、前の職業で覚えたスキルは全て引き継げる。

 所有していたアイテムは自動的に倉庫に移動するので、チュートリアルを終わらせて町に辿り着けば、転生前のアイテムを使えるようになる仕様らしい。


 転生システムの発表は、ビルダー以外にも好意的に受け止められた。

 なにせ古参のユーザーはとっくにレベルを最大値の300まで鍛えており、マンネリ化が進んでいた。

 ビルダーへの冷遇がなくても、終わりが近いゲームという空気が漂っていた。


 だが、剣士のスキルを持った魔法師や、僧侶のスキルを持った武闘家などが現われれば、戦略の幅が広がる。

 ユーザー全体が久しぶりに盛り上がっていた。

 引退した人たちもチラホラと戻ってきた。


 葵は楽しみすぎて、その夜、なかなか寝付けなかった。

 そして次の日。

 転生システム実装のためのサーバーメンテナンスが終了。

 即座にログインし、転生を実行。


 新しい職業は、魔法師。


 それを選択した瞬間、胸に激痛が走った。

 葵のバイタルを監視していた機械が、警告音を奏でる。

 まるでゲームの状態異常を知らせるように。


 医者や看護師が集まってくる。

 いつ死んでもおかしくないと知らされていた。

 けれど、よりにもよって、どうしてこのタイミングで――。

 葵の意識は絶望の中、暗闇に沈んでいった。

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