3.はじまり
次にスキルを使ってみよう!
「確か、スキルを使うときはスキル名を叫べばいいんだっけ?じゃあ行くよ!【融解(EX)】!!」
するとみるみるうちに紙はとけていった。まるでそこにはもともと紙なんてなかったかのように。
「なんか思ってたのと違ったけど確かに溶けたね。溶けるって言うから燃えたりするのかと思ってた」
なんでもって書いてあるし、本当になんでもとけるかどうか試してみよう。
「流石に無理だと思うけど、とけるって別に解けるだけじゃないよね?てことは解けるってこともあるんじゃないか?」
そこでかつて使ったもう二度と見ないと誓ってタンスの奥にしまった数学の参考書を引っ張り出した。
「よし!早速やってみるか。こういうのってイメージが大切っていうから、解くイメージをしながら発動しよう!それじゃあ、【融解(EX)】!!」
すると今度は溶けていくことはなく、だんだん問題が解けていっていた。
「え?ほんとに解けるの?冗談のつもりでやってみたのに」
その後一応解答を見て答え合わせもしてみたが、間違えている問題が見つかることがなかった。
「やっぱりこのスキルはやばいのでは?流石に(EX)ってことか」
しかし、倍率を切るような公立高校をギリギリで合格し、卒業しただけの馬鹿な私には、こんな使い方しか思いつかなかったのだ。
そんなことを考えていると、あの上司から連絡があり、曰く明日の昼に会社に来いとのことだ。
「はあ、ファンタジーな小説みたいにダンジョン攻略とかだけして生活したいなあ」
今はまだ昼の十一時だが、普段使わない脳を使ったので疲れてしまった。どうせ明日の昼までやることないし、もう寝ちゃおうかな。
そんなことを考えつつベッドに横たわると、気がつけばまぶたが落ちてきて、そのまま眠りについた。
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????年??月??日??村
「おい!なんだあれ!!あんなのが出るなんて聞いてないぞ!!」
「そんなこと言ってる場合じゃねえ!!さっさと逃げるぞ!」
そこにはまるでクジラのような形をした、それとは違う何かがそこには出現していた。
キエエエェェェーーーー!!!
その叫び声は雲を退け、山を震わせ、海を轟かせ、地を割り、人々に恐怖を与え続けた。
しかし、そこには一人の女性が何にも動じずそこに佇んでいた。その気迫は目の前で人々に恐怖を与え続けている化物にも引けを取らない。
そしてその女性は一言こうつぶやいた。
「【融解(EX)】」
その瞬間、まるでもともとそこには化物なんて存在しなかったような静寂があたりを埋め尽くした。
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「んんん、あれ?なんか明るい、まさか!?」
嫌な予感がして時計を見てみるとそれは十一時三十分を指していた。念の為日付を確認するとやはり4月3日と表示してあるので、丸一日寝ていた事になる。こんなことは今までなかった。
「こんなことしている場合じゃない!早く会社に行かないと!!」
いつもなら三十分かけている化粧も五分で済ませ、パンを口に咥えながら家を出た。
公共交通機関を利用してることもあって思ったよりも時間がかかってしまって、十二時を十五分ほど越えてしまった。
「すいません、遅れました。」
「なぜ遅れた?」
「遅れないようにと昨日は昼頃に寝たのにもかかわらず、まる一日ほど眠ってしまっていたらしいのです」
「言い訳はいらない。本当のことを言え!」
「本当なんです!信じてください!」
「信じられるかそんなこと!!」
そうだった、なんで私はこいつなんかに言い訳しているのだろう。どうせ何を言っても聞く耳を持たないこいつに。
「申し訳ございませんでした」
「まあいい。用件を手短に言う。お前、スキルは見れるか?」
「はい、まあ。」
「お前のスキルのレアリティは何だ?」
突然の質問に驚きを隠せずにいる。まさか会社に呼び出されてまでこんなことを聞かれるなんて思っても見なかった。
しかし本当のことを言っても大丈夫なのか?この上司は、腐ってもクズだ。本当のことを言った暁には私を手中に収めようとするに違いない。
やはりここは、嘘の【火属性魔法(R)】くらいにしとくのが良さそうだ。このスキルでできることは、大抵【融解(EX)】でもできるから、バレる危険性も少ないだろう。
「ええと、【火属性魔法(R)】ですね」
「おお、なかなかいいのを持ってるじゃないか」
「ありがとうございます」
「しかし残念だなあ。うちの会社にもう既にお前の上位互換の【火属性魔法(SR)】を持っている奴が二人もいるんだ。これがどういうことかわかるかね?」
「いえ、どういうことでしょうか」
なるほどついにうちの会社にも、大掃除の時期がやってきたか。丁度いいリストラの基準がついこの間出来たのだから、こいつはこんなにもウキウキで私を呼び出したのか。
「察しが悪いなあ。お前はクビなんだよ、クビ」
「はあ」
「はあ、つまんねえ。これだから高卒は。というわけだ、さっさと失せろ」
それはこっちのセリフだっつの。お前はこの世からさっさと失せやがれ。
そしてそのまま帰宅しようとしたが、いいことを思いついた。
「【融解(EX)】」
じゅわああ
その瞬間、上司のもとからそれほど多くなかった髪の毛が元からなかったかのようにきれいになくなっていた。しかし上司は、まだ気づいていない。
「今までお世話になりました。その頭よくお似合いですよ?」
そう言い残して会社を出ていった。




