10.青色のアイツ
私達は早速中にはいると一人の女性が座っていることに気がついた。
「あら、滉一さん来ていたんですか。それにそちらの方は?」
「ああ、紹介するよ。こちらが新しくうちに入る御門奈緒さんだよ。」
「御門奈緒です。これからはよろしくおねがいします。」
「自己紹介が遅れたけど、私は橘玲奈よ。ここの管理を任されているわ。これからよろしくね。」
勝手な推測に過ぎないが冰室さんが任せるということは恐らく管理に適したスキルを持っているのだろう。一体どんなスキルを持っているのか気になる。
そうして一通り自己紹介が済むと玲奈さんが実験室に案内してくれた。
「うわああ、ここもすごく広いですね。」
例えるならば小学校の体育館くらいの広さだろうか。そこは実験室というより実験ホールといったほうがしっくりくる。
「早速で悪いが橘くんアレお願いできる?」
「わかりました。少々お待ち下さい。」
そう言って橘さんは実験室を出ていった。
「あの、さっき言ってたアレってなんのことなんですか?」
「ああ、それは来てからのお楽しみかな?」
しばらくすると橘さんが戻ってきた。
「お待たせしました。こちらがスライムの核です。」
「ありがとう。じゃあ戻ってもらって結構だ。」
「わかりました。それでは失礼します。」
そう言ってまたこの部屋から出ていった。一通りのやり取りを見たあと私は気になっていたことについての質問をした。
「あの、さっきスライムの核って聞こえたんですけどそれは一体何なんですか?」
「これは言葉通りスライムの核だよ。」
「いやいや、この世に存在するスライムに核なんて無いじゃないですか。あれは伸びたり形を変えたりするモンスターのスライムに似ているものに過ぎないですよね?」
「やはり興味があるようだね。じゃあせっかくだし教えてあげるよ。少しだけ長くなるから立ったままだと辛いだろうから隣の部屋で座って話そうか。」
そして私達は実験室の隣りにあった計測室に入り、そこにあった椅子に腰掛けた。
「正直言ってあまり面白くない話だからリラックスして聞いてくれ。
奈緒君は最近各地で超常現象が発生している地点、そうだな、世間では“特異点”と呼ばれている場所で謎の生物が確認されているというのは聞いたことはあるかな?」
「はい。でもそれはスキル発現に便乗して吹いているデマなんじゃないんですか?そんなことを書いている記事を何個か見ましたが、いづれもすぐに削除されていましたし、大半がデマカセだってコメントしていましたよ。それにテレビニュースでも否定的な意見ばかりですが。」
「ネットやテレビを信じすぎるのはあまり感心しないなあ。そんなだから私みたいな変なのに引っかかるんだよ。詐欺師じゃなくて私で良かったよ。
ちなみにだけどネットの記事が消されるというのは基本的にいづれかの権力者に不都合が生じるときだけなんだ。テレビニュースに関してもそれに当てはまる。いわゆる世論統制ってやつだ。」
「うっ、確かに私は信じやすいですけど冰室さんは悪い人ではないと第六感が言っています。」
「そう言ってもらえるのはありがたいが私は君が思っているような人間じゃない。まあ、この話は置いておいてさっきの話に戻るろう。
さっき言った謎の生物はおおよそ40種類ほど確認されているけれどその中でも特に多いのがスライムなんだ。とはいえその名称は仮のものだけれどね。もちろんそう名付けられたのにも理由がある。それはその生物の特徴がゲームや漫画なんかに登場する“スライム”そっくりだったからなんだ。体は青色で液体のようだけれどある程度形を保ちつつ移動する。加えて、その液体のようなものの中に細胞で言うところの核のような器官があったんだ。試しに取り出してみたものがさっき見せたスライムの核だ。」
もし仮に冰室さんが言っていることが正しいとするならば、昨日調べたときに見つけた記事で『レベルアップして強くなった』という発言は正しいという可能性が出てきた。
「そういえば、冰室さんは鑑定スキルをお持ちと言っていたのでそれがなにかわかるのではないですか?」
スライムと名付けたって言っても鑑定で正確な情報がわかるはずだ。【鑑定(SSR)】で鑑定できないものなんて私のようなEXスキル持ちか、ボスレベルのモンスター位のものなのではないだろうか。
「ああ、調べた結果やはりあれはスライムだった。」
「え、じゃあさっきスライムと名付けたって言ってましたけどあれはどういうことなんですか?」
「理由としては単純で私が鑑定スキル持ちだと知っている人は君とさっき話していた橘くんくらいなんだよ。正直言って国にパシリのように使われるのが気に食わないんだ。まあいづれ他の鑑定スキル持ちが鑑定した結果が世に広まるだろうしそこまで重く見ていない。」
「そういう理由なら仕方ないですね。でも私にはすぐに話していましたけどどうしてなんですか?」
「それは勘かな?それとも気まぐれだろうか。いづれにせよこの会社に入ってくれると確信していたのもあるかな。こういうときの私の勘はよく当たるんだ。それに君は国に尽くすようなタイプには見えなかったしね。」
冰室さんにもこういった思いがあるんだなあ。確かに私は国に尽くすようなことをするタイプではない。もともと持ってる鑑定眼の凄さがうかがえる。
もしかしたら鑑定スキルが発現したのもそういった要因なのかもしれない。もともと持ってる特性に合わせてスキルが発現するのだろうか。それならば余計に私のスキルが何なのかわからなくなってきた。
「すまない。話が長くなりすぎてしまったがこれからスキルの検証を始めていこうか。」
「はい。私は何をすればいいんでしょうか。」
「そうだね。さっき見せたスライムの核にはある特徴があるんだ。それは形を変えることができないことだ。」
「それはどういうことですか?」
「君はモンスターのスライムの特徴はどんなものか知っているか?」
「そうですね、魔法が効きやすいとか、あと物理攻撃が効かないとかですかね。」
「そうだ。この核にはその特徴が残っているんだ。先日、君がくれた連絡に返信したけれど、その時とけるについての説明をしたのは覚えているかな?一つは固体のものを液体にする作用。もう一つは一方の物質をもう一方の物質に完全に混ざりきるようにする作用。今回は前者の実験をしようと思う。
先程スライムの核は形が変わらないとは言ったがあれはあくまで固体だ。つまり液体にしてもう一度戻せば形を変えられるのではないかと思ってね。
それにこれにはもう一つのメリットがある。さっき説明し忘れたがスライムの核には謎のエネルギーが込められていることがわかった。しかし今の形では到底利用できない。そこで君のスキルだ。とけるというのは、物質の性質を変えることなく形を変えることを言うからいわゆる魔道具的なものにも利用できるかもしれないね。
つまりは君のスキルの実験と新しい素材の獲得、君と私のWin-Winの関係ってことだ。」
確かに言っていることが正しいのだとすればWin-Winの関係と言えるだろう。
「そういえば本当に物理攻撃が効かないんですか?」
「そう思うなら全力で壊そうとしてみてごらん。」
そう言ってこちらに渡してくれたのでそれを受け取るとまるでカラスのような感触だった。
「これでもし壊れても知りませんよ?」
まずは握りつぶそうと思って思いっきり力を入れてみたが、普段運動もろくにしない到底壊れる気配がなかった。
次に床に向けて思いきり投げつけてみたり全体重をかけて乗ってみたりしてみたが傷がつくどころか汚れすらついていなかった。
「これ本当に丈夫ですね。ガラスみたいな感触なのに傷どころか汚れすら付きませんよ。これ、どれくらいの衝撃にも耐えられるんでしょうか。」
「現状わかっている限り、対物ライフルでも傷一つ付かないらしいよ。」
「えー!?それなら先に言ってくださいよ。そんなの私程度の力じゃびくともしないのは当然か。」
「これで一通りの説明も済んだし今度こそ検証を始めていこうか。」




