始まり
やる気があったら書く
「君はさ、アタシに救われたんだよ。じゃあ次はどうすればいいかわかるかな?簡単だよ。君が救う番さ。アタシじゃなくても良い、別の人を救うんだ。それはそのための力さ。」
《魔獣》の出現によって住民の殆どが避難した住宅街で紡は逃げ遅れた少女を連れて避難をしていた。
10年前、開発都市の殆どを破壊した大災害の頃から開発都市周辺には全身に影を纏ったような見た目の《魔獣》が現れ始めた。魔獣達に高い知能は見られず、唯一の行動理念としてこの世界の人間を攫うことを目的にしているらしい。
「大丈夫?怪我は無い?もう少しで出られるはずだからね。」紡はある程度安全と思われる物陰で少女の安否を確認し、少女を落ち着かせる。空手をやっていたことがあるため、護身ぐらいはできるかも知れないがそもそも魔獣に対人の技が使えるのか、さらに少女を守りながらそれをやらなければならないため、気づかれずに逃げられることに損はない。 そんなことを考えながら紡は隙を見つつ脱出の機会を伺う。「いまだ!行こう!」少女を連れ、急いで次の物陰へ、というところで少女が転んでしまう。
「大丈夫⁉︎早く立って逃げないと…ッ!」
瞬間、本能が前に紡を飛ばせた。紡のいた場所には紡を掴もうとした魔獣の手があった。「魔獣が…!」自分よりも大きい体躯を前に紡は自分の護身術は使えないと判断、即座に逃げることを選択する…が
「速い…これじゃあ逃げられない…ならこの子も救えない…でも!そんなの間違ってる!今度は私が救う番だ!その為に!この力がある!」
魔獣の手が紡を掴む為に振られる。しかし紡を掴む寸前にその手は止まる。代わりに出たのはまるで標的が目の前から消えたかのような困惑の声だった。しかし紡は目の前にいる。
「逃げよう!」
紡は魔獣の困惑を確認し次第少女を連れて駆け出す。
「お姉ちゃん肌が黒く!大丈夫⁉︎」先程の魔物から十分な距離をとった後、少女が紡の腕の辺りが黒く染まっているのを見つける。それはまるで魔獣のようだった。
「大丈夫だよ、はっ!ほらね?」紡は少し気合を入れたような声を出した後黒く染まった腕が元に戻る。
「でも…」少女は首元のあたりに新しく小さくなった黒く染まった部分を見つけていたが、回復するようだ。それでもこれ以上の追求は紡が嫌がりそうなのでやめた。
そこから魔獣に会うたびに紡は力を使い、隔離防壁の手前に来た頃には全身が黒く染まっていた
「ここから先に行ってね。まっすぐ行けば防壁だから、そこに守護隊の人たちがいるだろうから」
紡は少女を安全地帯まで行かせようとする。
イカナキャ。
「お姉ちゃんは行かないの?」
コノコヲツレテ
「私はまだ取り残されている人がいないか探してくるよ。それに…こんなんじゃ魔獣と間違えらレ?ちゃうよ。ダから…行って」
イッチャダメ
イクノハムコウ
自分で自分の状態を笑い、少女に退避を求める。
ムコウヘツレテイカナキャ
「大丈夫、すぐに戻シ、テ私も出ルか…らっ⁉︎」
途端、爆発音、煙の中から黒い人影が出てくる。
ツレテイカナキャ
黒い人影は少女と紡を一瞥、少女の方に、飛んだ。
「危なイ!」
人影と少女の間に入り、人影の跳躍を止める。
チガウ
力強い跳躍だったが、黒く染まった体はそれを受け止めることができた。
チガウ、ツレテイクンジャナイ
人影の殴打に拳を合わせ、拮抗する。
スクワナキャ、救ウんだ、救うんだ!
意識がはっきりとしてくる、しかしその一瞬の隙を突かれ殴り飛ばされる、飛ばされた先は少女の近く、少女は紡に近寄り、紡は少女に伝えた。
「私が時間を稼ぐから、逃げて、行って!」
少女は言った通り走り出した、人影はそれを追おうとする。
行かせない。そう心に誓い、人影を弾き飛ばす。
人影の方も手持ちからナイフを取り出し、戦闘準備を完了する。距離が縮まる。正拳、流される、崩れた体制に刺突、染まった腕で受け止める、能力を使う、一瞬の困惑を見せる、足を取りに行く、触れた瞬間、力強いカウンターが帰ってくる、腕がやられるが、足に食らわせることができた。
次の一撃で決まる。染まりも服下で引いてきた。使い物になる右手に全てを込め、全身全霊をかけて、正拳を突き出す、よりも早く自分の胸にナイフが刺さっていた。地面に膝を付き、相手の方に倒れる。
「まだ…」諦めない。掠れた声の続きは言葉にならない。
敵がとどめを刺しに来る、まだだ、まだ引きつけろ。
ナイフを振り上げる。今だ!
叫び、相手の足を始点に、自分と共有する。
自分と同じ場所に自分と同じ刺し傷が出来る、相手の腕がダメになり、自分の足がダメになる。しかし紡ももう限界だった。そこで紡の意識は途切れた。