あなたにアフターサービスを
やれやれ一体どうしたものか。俺はこんなことを1年間考えていた。……一年間って何のことだ? 仕事のし過ぎで少し頭がおかしくなっているらしい。
厳密には、俺、鎌倉憑蚊は五時間の後の十分間休憩にうつつを抜かしているのである。
現在俺は、依頼主である役未雄吾の頼みで代わりに仕事をしている。それも、役未雄吾の容姿で。こんなことができるのも全て、俺の勤める会社の社長、三波真理火の超能力のおかげである。
とまあ、こんなことを考えていたから水も満足に飲めないわけで。
「役未くん、撮影始めるよ」
「はい」
ちなみに、監督との会話はこれと指示だけである。正直きつい。特にきついのは、この男、役未雄吾の人間関係だ。悪口上等主義の友人未満の男たち、役未雄吾の顔目的で近づいてくる女ども。対照的に監督が一番ましに見えてくるレベルだ。
はー---。つらい。
「……役未くん、始めるよ」
俺は、いや僕は監督の指示通りの場所につく。役に入る。俺は俳優ではないが、仕事柄それは得意だ。
僕は人生に絶望した男の恋人の兄の先輩の恋人の弟役になる。ずいぶん複雑だが、とどのつまり主人公の友人役だ。
適度に演技しながら時が過ぎるのを待つ。日をまたぐ頃にやっと、仕事が終わった。
「疲れた」
これに尽きる。
もとは一日の約束だったが、依頼主による交渉と倍以上の金額の提示により、なり替わりの期限は伸びた。
一週間。あと5日でこの仕事も終わる。
俺はため息をつきながら考えた。
(あと五日。あと五日のうちに……あれはかたずけないとな)
「アフターサービスだ」
入れ替わりの間に、人間関係を壊さないくらいに問題を解決してやる。
俺は恥ずかしいくらいの笑みを浮かべた。
「監督と……仲良くなってやる!!」
俺の決意は固まった。