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第1話 初恋の少女と出会った



 穏やかな時間が流れる昼。


 どこまでも続く花畑の合間、小柄な少年が一つの木が作った影に埋もれるようにして、膝を抱えて丸まっていた。


 少年の名前は、フェイ。


 六歳となったばかりのフェイは、すぐ身近にある暖かな世界に見向きもせずにただただ、落ち込み続けていた。


 フェイは旅の合間に立ち寄った流れの者。

 いつもならその場所にはいない、よそ者だった。


 そんな子供を見かける通りすがりの者達はいるが、話しかけようとするものはいない。


 みな、様子を窺いはするものの、まったく関係のない他人の少年へとわざわざ意識を割こうとする者はいなかった。


 その少年、フェイは木の影に溶ける様に静かに存在し、俯いて悩み続ける。


 それは、フェイ自身が自分の記憶がないという事だった。

 しかしその理由は、幼いながらも何となく察していた。


 今いるメウィス国とグウェン帝国との戦争が終わった直後に、その両国の境界に生まれたらしいフェイ。


 今よりずっと幼かったフェイは、幼い頃に帝国の兵士に追いかけられたという記憶しか残っていなかったのだが、その事実だけで誰でも記憶がなくなった大体の事情が察せられた。


 その後、両親が死んだに関わらず一人だけ生き延びたフェイは、記憶喪失の状態であてもなく彷徨い続け、運よく人の良い夫婦に拾われるなる事になった。だが幼いフェイは、ふとした瞬間にかつての自分は一体どんな人間だったのかと考えてしまうのだ。


 恐ろしい出来事しか思い出せない過去の事。

 両親の顔も浮かばず、楽しい思い出も何も残っていない。

 そんな状態だから、フェイは記憶を無くす前の自分がどうしようもない悪人であったなら……という不安に駆られる毎日を送っていた。


 だが木の陰でそんな暗い考え事をしていたフェイに、声をかける者がいた。


 反対側から木を回り込む様に近づいた少女。

 彼女は、影の中で丸く小さくなっていたこちらへと声をかけた。


「ねぇ、そんな所でどうしたの?」


 顔を上げたフェイは、いつの間にかそこに現れた少女に一瞬だけ驚くが、けれど再び顔を俯かせる。


「放っておいて」

「元気ないの? 落ち込んでるの?」

「僕はアクニンかもしれないんだ。ひどい奴かもしれないんだ。だから話しかけないで」

「そうなの? でもそんな風には見えないよ。あたしとお話してくれるもん」


 こちらの希望を無視して話しかけ続ける少女は、相手から何も言葉が返ってこないのを見てやがてはその場から離れていく。


 ややあって顔を上げると、さきほど声をかけてきた少女が再び近づいてくるのが見えた。


 その手には、一輪の花。

 良い匂いのする花で、精霊の好物で甘い蜜の出る……ハニーメリーという花だった。


 精霊はこの世界中に存在する毛玉の様な生き物で、単純な思考しか持たない弱い生物である。

 ふわふわとどこでも飛んでいるその精霊が少女の手元にある花を、楽しげにつついていた。


「こらっ、だめでしょ。この花はこの子にあげるの!」


 少女は、精霊を叱って少年へとそれを差し出す。


「はいっ、どーぞ!」


 フェイは目の前に差し出されたそれを見て、困惑するしかできなかった。



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