トオルと後輩
二つ目の連載です。今日はもう一話出します。
「先輩!絶対やめた方がいいですよ!こんなの詐欺です詐欺!お金むしり取られて高校受験失敗しますよ!?何度も言ってるじゃないですか!いい加減諦めてください」
僕のスマホ画面でぎゃあぎゃあと大きな声で騒いでいる女の子がいる。
髪はピンク色のポニーテール、大きな目、二次元のように整った顔、服装はTシャツにショートパンツというエロい格好。今の季節は春だが、スマホの中は関係ないのかもしれない。
「でも、異世界に行けるってすごくない?僕は異世界見たいけどなぁ。それに受かってはいるじゃん?」
今彼女と会話している内容は僕の進路について。中学三年生である僕は、今年で高校受験だ。
高校受験と言っても、僕は今話している学校、異世界学園はこの地球に住んでいる人間にはにわかに信じられないが、異世界にあるという。
そんな男子の夢みたいな学校なんて最初はただのデマだと、皆思うだろう。僕もそう思ったのだが、もしあったらという希望を込めて調べていくと、本当にあるという確証はないのだが、ないという証拠も見つからなかった。
そして異世界学園のホームページに応募方法が書いてあったので、願書を取り寄せて普通に郵便ポストに入れた。
一週間後に願書を送り試験会場に向かった。
試験会場は普通の市民会館的な場所で行われた。
試験会場では僕一人で黒ずくめの男の人との面接、変な筆記試験などをさせられた。数学や英語などはあまり使わず、学校で習ったのはテストの文を読むために少し漢字と算数を使ったぐらいだ。
問題解決方法を聞く問題もあれば、なぞなぞの延長線みたいなものもあった。
面接での質問を抜粋しよう。
“知らない場所で殺人鬼に会いました。さて、もし仲間と自分のどちらかが死ぬとしたら、どうしますか?”
僕の答えは、平凡でつまらないものだ。“敵に仲間を殺してもらって敵も殺す”、実にシンプルだ。僕か仲間、どちらかしか生きれないなら仲間に死んでもらう。その敵もその後僕を殺しにくる可能性が高いから、死んでもらう。
まあこんな感じで全部の試験を終えた後、一週間後に合格通知が来た。そして今に至る。正直、こんな平凡な答えを連発した僕がなぜ合格したのかは不思議だ。
「もう!先輩は私と離れていいんですか!?」
「いやー別に離れてもいいけど後輩を置いていくつもりはないぞ?」
「なっ!?それで私が惚れると思ってるんですか!?そんな言葉じゃ惚れません!」
彼女は顔を赤くしていた。最近のAIには情緒なんてものがあるんだなぁ。
この画面の女の子、後輩と出会ったのは中学二年生の時。僕がスマホを親に持たせてもらって、迷惑メールなんてものを知らなかった時、よくわからず送られてきたメールを開いたらこの女の子が画面に現れた。
あの時は可愛い子だなぁと思っていたが、僕のスマホは常にこいつに占領されていたせいで速度制限になっていてすごく腹が立っていた。それなのにこいつの動作は何一つ変わらなくてさらに腹が立った。
「まあとりあえず後輩は持っていくからそこの心配はしなくていい」
「でも!先輩ちゃんと入学における注意事項読みました?その異世界高校には自分の持ち物は一つしか持っていけないんですよ!?武器を持って行った方が」
「いやぁ、武器買うお金とかないし、後輩って案外ちゃんと異世界高校について調べてるじゃん」
俺が入った後も考えてくれているいい子だ。
持ち物を一つしか持っていけないのに大丈夫なのかと、最初俺も思っていたがあちらで必要な物は大体揃えることが可能らしい。
「そ、そうですけどぉ、私は普通に公立高校に入った方がいいと思います!」
画面の中でサンドバッグを殴ってストレスを発散している。照れ隠しだろうか?こういう所は愛でたくなるよね。
「もう合格したし、お金は払わなくていいんだよ?行くだけ行ってみるよ」
せっかく合格したんだ、もし本当に異世界があるなら行きたい。
「〜!もう!どうなっても知りませんからね!?後輩の言うこと聞かなかった先輩が後悔しても知りませんよ!?そして親の説得はどうするんですか!?」
「なんか親は好きな所行きなさいって言ってたし、親の承諾書も書いてもらったしよくない?」
「・・・・・・私に言うことは何もありません」
ふてくされた後輩は布団を引き、そのまま潜り込んで寝込んでしまった。
「おーい、いじけるなよー」
俺の呼びかけを無視して、後輩は画面の電源を消した。
「はぁ、全くもう」
俺はスマホを置いて学校に向かった。
✕✕✕
異世界高校入学の日。
結局僕は異世界高校に行くことにし、あれ以来後輩とはなんとなく嫌な雰囲気のまま数ヶ月を過ごした。
異世界高校の制服に着替え、フル充電のスマホを持って家を出る。
親は朝早くから仕事だったが、頑張ってねと言っていた。休業中は帰ってきてねとも言っていた。
指定の場所に来てみると、またしても黒ずくめの人達がいた。
「おはようございます」
挨拶は人間関係の始まりだ。爽やかを意識して挨拶する。
「おはようございます、新田透様ですね?お待ちしておりました」
「そこまでかしこまらなくてもいいですよ。それで、僕はどうすれば?」
どう異世界に行くんだろう?もしかして何かの門と通じている的な?それとももうすでに実は異世界に来てましたとか?
「では持ち物確認の後、私が作ったワープホールの中に入ってください」
そう黒スーツの男性が言うと、拳で空を殴り、穴を開けた。
「・・・・・・え?」
早くも異次元を見てしまったようだ。何、異世界では拳で空間に穴を開けるのが主流の武術があるのかな?だとしたら帰りたくなったよ。
「では持ち物確認をします、貴方が持って行く物を教えてください」
俺はスマートフォンを取り出して見せる。
「これなんですけど、充電器ってあっちにありますか?」
俺の唯一の懸念点、あちらのインフラはこちらと同様に整備されているかどうか。
「ないです。あちらには電気で物を動かすということはありません」
「そうですか・・・・・・少し待っててください」
黒スーツの人達から距離を取って後輩に話しかける。
「後輩どうしよう。充電器ないって。コンセントもないらしいよ?」
「大丈夫です。このまま中に入ってください」
何も心配する必要はないらしい。彼女は余裕を持っていた。
僕は黒スーツの人達のところに戻る。
「大丈夫です。このまま行きます」
「わかりました。この中に入ってください、異世界に通じてます。ついたら現地の指示に従ってください」
「え・・・・・・。あ、ちょっと質問を一ついいですか?」
「私達が答えられる範囲でしたら」
僕はこれを聞いて、もし無理だったら今辞退する。
「僕にもそのような特殊能力的なのが得られるんですか?」
「もちろんです。貴方はその権利を勝ち取りましたから」
間髪入れずにその返事が来た。
それを聞ければ充分、異世界で自分を見つけれる可能性があるのなら。
「行くぞ後輩!」
「ビビってちびらないでくださいよ先輩!」
僕らはワープホールに飛び込んだ。
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