ノベル:初朝も熱く、恐怖は暗く。
あたしは、早海麗蘭のルームメイト。早海麗蘭のことは「レイ」と呼んでいる。
レイが彼女を連れてきて、最初の夜が明けた。
「……まだやってんのかよ」
「「あ……」」
あたしがトイレから戻ってきても、まだこの二人はベッドでいちゃついていた。カーテンを開けたばかりの窓から差し込む少しばかりの日光が、二人の素肌を白く照らしている。生理用品を取り替えていたからまあまあ長くトイレにいたつもりだが……まだ足りないのか、こいつらは。
「ごめんなさい麗蘭、私が甘えてしまっているばかりに……」
「……いいんだよ、イアナ」
そう言って、レイは平菱の長い髪を自身の指ですく。愛おしそうに、切らぬように。
膝枕されて、優しく触ってもらえる。平菱にとっては、これ以上ない至福のひとときなのだということが、その表情から見てとれる。
「麗蘭と、ずっとこうしていたい……」
「自分もだよ」
「……お前ら、早く服着ろよ。朝のうちに、寮長にこの状況を説明しなきゃいけねーんだから。……あと」
「「……?」」
「…………この辺ちょっと女くせーぞ。部屋に消臭剤かけとけよ。そのシーツは、あたしがランドリーに出しとくから」
「う、うん……」
「すみません……」
◆
世にも恐ろしい通話の後。
あの朝の幸せな二人の姿は、そこにはなかった。
「大丈夫だよイアナ、大丈夫」
「うっ、うぅ……。麗蘭、私怖い……」
恋人の胸に顔を埋め、泣く少女。
不安そうにその恋人を慰める少女。
……見る影もない。
声をかけることもできない。
そこにあるのは、絶望に襲われた一組のカップルの姿だけだった。