ノベル:世間の視線の網を張れ
ううう、株主達を怒らせてしまった……。私にはどうすることもできない……。
「失礼します」
私が頭を抱えていると、一人の社員がタブレットを持って会議室へと入ってきた。
「専務、テレビ電話が繋がってるわよ。なんでも、社長が一枚噛んでるらしいわ。こんなことに付き合わされるなんて、エリートは辛いわね。……ま、これも私がひとえにエリートである証だけど」
「しゃ、社長が……?」
◆
「……よし、出ろ」
「うん。…………もしもし」
『どうやら行き詰まっているようだな』
自分の電話にかけてきたのは、やっぱりあの人だった。
「レイ、スピーカー」
「あぁそうだった。………………どうして、行き詰まってるって分かるの?」
『ただの女の勘だ』
「女なのかこいつ」
「…………ねぇ、昨日はあのあと大丈夫だったの?」
『あんな守護神がいるのは予想外だった。だが、あんな人間が常駐しているのなら思いの外この学園は安全地帯のようだな。結界を張っておいて正解だった』
「あなたは陰陽師かなにか?」
『いいや、そんな大層な者じゃない。ただ少し、この学園の周囲に細工をさせてもらった。……「人の目」という、な』
「人の目?」
「そういえば、今朝のホームルームで聞いたわ。学園に不審者が入ろうとしたから今日だけ先生達が見回りをするって。その不審者って」
「お母様と成也さんと世桂さん……」
「だろうな。つまり、その三人が一悶着起こしたおかげで、かえってこっち側の守りが強まったってことだ。……まさか、最初からそれを狙って……」
『そうだ。そして、平菱登和子が次の一手を仕掛けてくるのも予想済みだ。今頃、天寿では株主が集まっているところだろう』
「株主?」
「……お母様、他の株主の皆さんを扇動して天寿に圧力をかけるつもりなんだわ……」
震えるイアナの肩に、そっと手をのせる。これで少しでも、安心してくれたら。
『だが、これはチャンスだ。逆に利用して、株主達に真実を伝えろ。今まで何をされてきたか。これから何をされるのか。全てを』
「……他の株主が味方につけば、これ以上ないアドバンテージだ。……なあ、どうやって伝えればいい?」
『既に天寿の社長に話は通してある。もうじき、本社の会議室とテレビ電話を繋いでもらう予定だ』
「あの社長兼理事長柔軟性たけぇな」
「……うまく、伝えられるかしら…………」
「大丈夫。自分らがサポートするよ」
『話は決まったな。じゃあ、そろそろ切るぞ』
通話が切れて、数秒。
本当に、ひと呼吸もしないうちに、自分のスマートフォンが勝手に電話アプリを開いた。
「えっ、なにこれ」
「ドラマとかでよくある、遠隔操作アプリ……じゃないか?」
「自分そんなの入れた覚えないよ」
なんて話し合っているうちに、テレビ電話が繋がった。
向こうにはイアナのお母さんがいる。顔バレを防ぐために、自分とルームメイトは画面外に出るようにイアナから離れた。
◆
わたしは、赤ん坊の頃から姉さんに育てられた。姉さんがわたしの肉親であり、家族。
作戦は順調だ。
私達姉妹の復讐劇は、もうすぐ終わる。
そのときが、あなたの最期だ。
そうでしょう?
登和子様。