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ノベル:初夜は熱く。

「イアナ。ずっと待っていたよ、この時を」

「ええ。私もよ、麗蘭れいら。貴女と体を重ねられる日が来るなんて……。夢みたい……!」

「夢じゃない。これはまぎれもない、現実だよ」

「ぐすっ……。……そうね。……来て、麗蘭れいら

「愛してるよ、イアナ」





「……………………あのさ。それこっちが寝るまで待ってくんねぇ? こっちが恥ずかしいわ」



 ◆



 それから、一夜が明けた。


 私、平菱ひらびしイアナは麗蘭れいら麗蘭れいらのルームメイトさんの協力もあって、なんとか寮長さんを説得することができた。必要以上に口外しないことを条件に、最長で一ヶ月の間桜花寮の麗蘭れいら達の部屋で寝かせてもらえることになった。


 担任の先生にも話をつけたし、麗蘭れいらが自分の貯金を崩してまで私の教材を最低限購買で買い揃えてくれた。こんなにありがたいことはないけれど、同時に申し訳なさも溢れてくる。自分の家庭の事情に恋人を巻き込んでしまうなんて。こんなことになるなら、もっと味方をつけて、結婚を拒めたらよかった。


 ……でも、隠れてばかりもいられない。

 こうなってしまった以上、もう家には帰れないし、帰りたくもない。もし帰ったら……私は「あの続き」を強要される。……吐き気が、私を襲う。

 成也なりやさんと、そしてなによりお母様と…………縁を切る。

 これしか、私に残された道はない。

 今回のことで、私はたくさん麗蘭れいらに迷惑を掛けた。世界で一番大切で、唯一の私の癒しなのに。

 私は、麗蘭れいらに償わないといけない。

 だから、絶対に麗蘭れいらのお嫁さんになる。

 私は、そう決めた。


「……まーひとまず学校側はこれでよしとして…………問題はこっから、だな。ここは天寿てんじゅの管理下、いわばちょっとした王国だ。外の世界とはある程度隔絶されているから、現状最も安全な場所だと言える」

「このままだと、イアナは一生ここに引きこもってないといけない状況だからね。なんとかしないと」

「えぇ、そうね」


 放課後、私達三人は桜花寮の自室に集まって改めて作戦会議を開いた。


「……ちゃんと、二人には言っておこうと思うの」

「どうしたのイアナ、あらたまって」

「……私、お母様と縁を切るわ。……もちろん、心残りが全く無い訳じゃないわ。一応は、私を産んでここまで育ててきてくれたのだから。使用人のみんなと離れるのも寂しい。でもそれ以上に…………私は、もうあの家に居たくない。お母様の道具になりたくない。私は……自分の幸せを優先することにしたの」

「……うん。イアナが、そう決めたなら。自分は賛成するよ」

「……満を持して恋人として晴れて一線を越えた二人はお熱いねぇ。…………悪かったよ、茶化して。だからそんな顔すんのやめてくれよ。……ま、平菱ひらびしの意思は痛いほど伝わった。本題に戻そう」

「…………自分らに残された選択肢は『逃げる』か『戦う』か……ってことだよね」

「そうなるな。もし逃げたとしたら、どこか遠くの地でひっそりと暮らすことになる。この場合のメリットは『見つけ出されない限りは平穏』ってこと。デメリットは『怯えながら過ごすことになる』のと『行き先の目処がまだ立っていない』ってこと」

「でも……ほら、ドラマとかで『流れの○○』とか『さすらいの○○』ってよく聞くし、案外旅をしながら生きていくっていうのも出来るんじゃないかしら?」

「……イアナ。悪いけど、それかなり難しいと思うよ」

平菱ひらびしの言ったことをこの現代社会で実践するのはだいぶリスキーだ。まず浮くし、目立つ。それになにより金が要る。今の平菱ひらびしは一文無し。残飯を漁ることになる上衛生面にも不安がある。オススメはしない」

「……ひ、『ひやとい』のアルバイトとか」

「イアナ働いたことあるの? いや、自分も動画収入くらいしかないし働いたこともないけど」

「……」

「……続けるぞ。もし戦うとしたら、安心して暮らせるというメリットがある分、なにより『勝てる見込みがない上に負けると逃げられない』っていうでかいリスクがある」

「……戦うといっても、どうしたらいいのかしら…………」

「そりゃあまぁ……物理的に殺るとか」

「それはそれでイアナの居心地が悪くなりそうだけど……。自分、前にそういうゲームやったことあるけど罪悪感やばいよ」

「…………去年の秋頃に自首するか自害するか迷ってたアレか?」

「……一週間くらい悩んだ挙げ句に死んだらバッドエンドルートだったよ。……あ、虐待で訴えるとか……はお金かかるか」

「そもそも握り潰されそうだな……」

「私の家、顧問弁護士がいるのだけど……」

「法廷で勝つのは絶望的だね……」

「「「……………………」」」


 所詮、私達はただの女子高生。実の親から逃げる方法も勝てる方法も見つからなかった。


「…………ん、ごめん電話。……また非通知だ」

「……例の奴か」

「たぶん」

「……よし、出ろ」

「うん。…………もしもし」


 非通知の主は、どこの誰なのか。

 それも未だにわからないまま、麗蘭れいらは静かに電話をとった。

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