ノベル:専務の苦悩
だめだ、どうしても落ち着かない。
寄せ集めの適当な資料を忙しなくめくりながら、私は会議机を囲む十数人の株主達を見回した。
「え、えぇと、皆様お集まりのようなので、そろそろ始めたいと思います」
私が音頭をとると、株主の一人、我妻さんが口を開いた。
「突然我々を招集して、一体何の用ですかな専務?」
早速、私に火の粉が降ってきてしまった。
「私達も暇じゃなくてよ?」
「そもそも臨時の株主総会ならもっと前もって……」
「急に天寿の本社に呼び出された儂らの身にもなってほしいわい」
……まったく。こんなときに社長も副社長もどこで油を売っているのか…………!
「えぇと、というのもですね、今朝がた平菱様から緊急の会議を開くよう連絡がありまして……」
「みなさんごきげんよう。今日集まってもらったのは……天寿の横暴さを知っていただくためです」
て、天寿の横暴さ!?
まさか社長、またなにか勝手なことをしているんじゃ……!
「あなた方、うちの娘をおたくの学園に閉じ込めているじゃない。母親であり最大の保護者である私になんの連絡もなく。それを横暴じゃないとは言わせないわよ」
「閉じ込めている!? いったいどういうつもりですか専務!」
「しっかりと我々が納得できる説明をしてほしいモンじゃのう」
「わ、私にはなんの報告も……」
「『自分は聞いていないから知らない』……と」
「そんなことで言い逃れができると思ってらして?」
「責任転嫁とは……。天寿の幹部も堕ちたモンじゃのう」
「とにかく、これ以上こんなことを続けるのなら、株主の平菱登和子として…………いえ、子どもを持つ一人の親としてそれ相応の対応をさせてもらうわよ。法的措置も辞さないわ」
「我々も、許しませんよ」
「そ、そんな……!」
うぅっ、いったいどうしたらいいんだ…………。