ノベル:学園の砦
「なんでここで匿うんだよ!」
……まあ、そうなるよね。
ここは、星花女子学園の敷地内にある、桜花寮の自室。
自分、早海麗蘭がイアナを匿うと伝えると、ルームメイトは夜にも関わらず叫んでしまった。
「……ったく。寮長さんとか先生達になんて説明したらいいんだよ…………」
「だって事情が事情だし……。もしイアナが連れ戻されたら、二度と自分と会えなくなるかもしれないし。そこまで束縛されていたなんて、自分知らなかったよ……」
「……とにかく、平菱の母ちゃんが毒親だってことはよく分かった。今夜は仕方ないからこの部屋で寝るとして、明日になったらなんとか先生達を説得するしかないな」
「それはありがたいけど……ずいぶん飲み込みが早いね」
「……恋人に一癖あるのはお互い様だろ」
「……んまあ、確かに」
「……あーでもそういえば、ここ二人分しか布団無いぞ。二人部屋だから当たり前だけど」
「……え、イアナと一緒に寝るけど」
「……そうなるんだろうけど、んなあっさり言うのな…………」
「……あ、でも私着替えが…………」
「……あー」
そういえば、イアナは下着の上からブレザーとスカートだけを着て飛び出してきたんだった。脱がされた制服を煙幕(?)の中で手探りで慌てて着直して自分のところへ駆け寄ったため、今のイアナはそれ以外何も所持していない。当然パジャマも無い。
「じゃあ自分のパジャマを着たら? ……で、今度の週末に新しいの買いにいこう。自分がお金出すから」
「麗蘭……」
「いやでも学園の敷地から一歩でも出たら捕まるだろ」
「「あ……」」
自分とイアナの声が揃った直後、自分の携帯が再び非通知の着信を知らせた。
「…………もしもし」
『早海麗蘭だな?』
電話の相手は、ニュース番組に出てくる女性関係者のような変声をかけていた。
「そうですけど」
『そこに平菱イアナはいるか』
「いますけど」
「……おい、スピーカーにしてくれ」
「え? ああ……」
ルームメイトに言われ、自分は耳に当てていた携帯のスピーカーをオンにしてからテーブルの上にそっと置いた。
『それならいい。今、彼女の母親と旦那がそこにいると目星をつけて向かっているらしい。校門付近には近づくな』
「なにそれ怖っ……」
思わず、本音が漏れてしまった。
「っていうかなんでそんなあっという間にバレてるの。あれから五時間くらいしか……」
「……私が、学校と家にしか行かないように言われていたから……」
「万が一脱走されても行くアテが無いようにされていたってワケか。……そうだ」
おもむろに、ルームメイトがなにかを書いたメモを渡してきた。そこには『話を引き延ばせ』と書かれていた。
「なんで?」
そう聞くと、今度は『相手が何者かを知っておかないとな』と書かれたメモを渡された。
「……えっと……ど、どうして自分らにアドバイスしてくれるの?」
『母親から平菱イアナを奪い取ってもらいたいからだ』
「そんなことをして、あなたになんのメリットがあるの?」
『お前達がそれを知る必要はない。…………来たぞ。側近も一緒だ』
「イアナ、側近って?」
「よ、世桂さん」
『……追い返されたぞ』
「まあ警備員のオジサンいるし」
『いや女だ』
「じゃあ用務員の倉田先生だ。自分あんまり喋ったことないけど」
『……命令されて、側近が実力行使に出たぞ。あれは……拳銃だな』
「「えぇ!?」」
「頑張ってください、倉田先生……!」
『…………三人揃ってつまみ出されたぞ。すごいな。…………あ』
『おい、こんなところで何をしている』
『あ、いや私は……』
『さっきの奴らの仲間か、それとも……』
『違う私はイタタタタタタタ…………!』
『もう二度と不審者の侵入を許す訳にはいなかくてな…………!』
『二度とってどういう……』
「「あ……「切れた」」」