特別編:Play the game on instinct.
ちょっと本筋から逸れたお話です。
自分、早海麗蘭がイアナとそこに行ったのは、自分が高二の頃だった。
◆
「今日は楽しかったね、イアナ」
「ええ、とっても」
その日は、イアナとひさしぶりのデートを楽しんでいた。……思えば、これ以来デートはしていない。
「武玄ゲームから今春発売の新作VR、ただいまお試し期間中でーす! この機会にぜひ!」
ファミレス、動物公園と行って自分達が最後に寄ったのは、空の宮市内にある駅ビル。そこのゲームコーナーから、威勢のいい若い男の人の声が聞こえてきた。
「麗蘭……」
「……ん? ……んー」
「……やりたいんじゃない? 私は、この辺りで待っているから」
「……いいの?」
「ええ」
「……じゃ、お言葉に甘えて」
ずっとVRに興味はあったけれど、動画投稿による今の自分の稼ぎではとても買えるような値段じゃなかった。それがタダで遊べるのなら、それにノらない手はない。
「すみません、それやりたいです」
「ありがとうございます!」
係員の男の人に誘導された自分はレースゲームのアーケード機に使われているような固い感触の椅子に腰掛け、ヘッドギアを装着した。
それが、起動した瞬間。
視覚と聴覚をはじめとして、自分はゲームの世界へと吸い込まれていった。
◆
幻のような、夢のような。曖昧でふわふわとした世界。
自分は暫しの間、時間も忘れてゲームに没頭した。
そこで、ゲームの世界で自分はとある男の人と遭遇した。
そして、大切なことを教わった。……そんな気がする。
◆
「一時間も!?」
「心配したわ。麗蘭ったら、いつまで経っても起きないんだもの」
帰り道、自分はイアナを長らく待たせていたという事実を知った。
「そっか…………」
罪滅ぼし、というか、なんとというか。
自分は、イアナの長い髪を左手の指で鋤いて、謝罪した。
「……心配させて、ごめん」
「もう……」
「なんだかよくわからなかった」が正しい感想です。