ノベル:憎きを煙に巻いて
「そのえ○ち、ちょっと待ったぁーーー!」
指定された場所に着くと、どうしてか玄関扉の鍵が掛かっていなかった。悪いとは思ったけど、勝手にお邪魔してみたんだ。
イアナの叫び声を頼りに、目的地へと辿り着いた。
驚いた。
下着姿の自分の彼女が、知らない男に押し倒されていたんだから。
彼女の信じられないような姿を見て自分が叫んだ言葉に続くように、ブシューっと何かが噴き出す音が鳴った。
煙……のようなものが、辺り一面を包んで、くすんだ白色が、視界を支配した。
ガチャン、と何かが外れた音がした。
「い、いったいなんなのよこれはっ!」
「わかりません登和子様。なにがなんだか……」
「イアナ! どこにいるんだっ! 声を聞いただけでもわかったぞ! 君には同性の恋人がいたんだな! さあ、三人で仲良くしようじゃないかっ!」
状況が飲み込めないうちに、なにかがぶつかってきた。
「ひぐっ。よかった、会えた……」
ぶつかったのは、イアナだった。
「なにがあったの? …………って、そんなこと聞いてる場合じゃないみたいだね。とにかく外に出よう」
◆
「いや、まあ状況は分かったんだけどさぁ……」
「あはは……」
「えっと…………」
「なんでここ(寮の自室)で匿うんだよ!」
ルームメイトの叫びが、桜花寮の壁へと溶けていった。