ノベル:ふたつの「なぜ」
「はあっ、はあっ」
体育の授業でくらいしか激しい運動をしない自分は、息を切らせながら最寄り駅へと走る。
指定された住所…………イアナの家は、学園から電車で二駅先の場所にある。
今、イアナが具体的にどんな状況におかれているかは分からない。けれど、とにかくやばいっていうのはなんとなく察した。こういう展開はゲームでもときどき見かけるから。
「イアナ………………!」
◆
『……お、あの伝説の『MIRROR SUVIVER NIGHT』があるなんて。高校生になって早々、こんな近所に思わぬ掘り出し物が……っと。……ん』
『あっ…………』
商品棚のゲームソフトを取ろうとして、同じ物を取ろうとした少女と手をぶつけてしまった。
『…………すみません。それ、どうぞ。私は……ちょっと見てみたかっただけなので…………』
『んー……じゃ、遠慮なく』
『そ、それ、人気なんですか?』
『このゲーム? 人気というより、どんなキャラで何度立ち向かっても誰も生き残れないバッドエンドしかエンディングが存在しない鬱ゲーで有名なゲームだよ。ゲーム、興味あるの?』
『……私、生まれてからずっとゲームをやったことがなくて…………。どんなものか、知りたかったんです……』
自分とイアナが出会ったのは、市内のリサイクルショップだった。
それから、何回か会って、ゲームについて教えているうちに、なんか、気になってきて。「なんか気になって」って、ものすごくアバウトだけど。
告白したのは、自分の方からだったね。
恋人同士になってから、デートにも行ったよね。ゲームセンターとか、河川敷とか、ラーメン屋とか。
…………そういえば、四月に入ってからだったよね。イアナに、元気がなくなったのは。もっと、早く気づいてあげられればよかった。年上なのに、情けないな。
大変なことになっているのなら、必ず助ける。
だって……。
◆
「惚れた女の子を幸せにするのが、恋人の務めだからっ!」
走る。走るよ、イアナ。君のためなら。
自分を奮い立たせるために、声に出して叫ぶ。
「うっ!」
イアナのことに夢中になっていたせいか、駅の入口で女の人とぶつかってしまった。
「…………すみません、ちょっと急いでて」
「いえ……。…………早く、行ってあげてくださいね」
「はい! ……っと、券売機券売機。慌てて飛び出してきちゃったからなぁ…………。今、小銭いくらくらい持ってたかな……。あれ?」
もう五月とはいえ、日が暮れてくると空気も冷える。スエット姿に上着を羽織って、そのポケットに財布とスマホだけ押し込んで出てきてしまった。切符を買うために財布を取り出そうとしてポケットに手を突っ込むと、覚えの無い小銭がジャラっと音を立てた。
「なんでポケットに直接小銭が……。……まいいか。今は急がないと」