ノベル:おめでとう
今日、五月十四日は、私の恋人の麗蘭の誕生日。
でも、家と学校以外の場所に行くことが禁止されている私は、プレゼントのひとつも買ってあげられない。以前は、もう少し外出が許されていたのに。
「……イアナ、今日は来られたんだね。体調、大丈夫?」
「ええ…………。……麗蘭」
「ん?」
「誕生日、おめでとう……」
「…………ありがとう」
「………………」
「………………」
……今日の麗蘭は、なんだか様子がおかしい。私の、唯一の癒しなのに。麗蘭に元気がないと、私まで…………。
「……イアナ」
「何?」
「…………結婚してるって、本当?」
「え……」
…………うそ。お母様が直接言ってきた茉胡里と美兎と安寧以外は誰も知らないはずなのに。
「ど、どうして…………」
「……ちょっとね、聞いちゃった」
……聞いちゃった。
安寧辺りが言っちゃったのかな。
「ち、違うの麗蘭! 私は、本当は……!」
「……ごめん。自分、イアナが結婚してるって……もう大切な人がいるって、知らなくて」
「れ、麗蘭……」
「…………別れよう。イアナに、迷惑はかけられないよ。……浮気は、よくないよね」
「そんな……。私、私…………麗蘭がいなくなったら…………」
「いやちょい待って!」
声に驚いて振り向くと、校舎の陰から茉胡里と美兎と安寧が出てきた。
「「みんな…………」」
「あのときアタシ言ったじゃん。『好きでもない旦那と』って。イアナの本命は、今も昔もはーやん先輩ただ一人だよ!」
「うちの安寧が口を滑らせてすみませんでした。あとでぶん殴っておきます。風紀委員権限で」
「美兎、それは職権濫用だよ?」
「……麗蘭、私は…………」
「イアナ……」
「ほんの少しだけ、待っていてほしいの。今は……法律上は不倫になっているけど、あの人とはすぐに別れるから! だからそれまで、それまでだから………………」
「……わかった。自分、待ってるよ。イアナの家の問題が、解決するまで。必ず」
「麗蘭…………!」
「イアナ……」
自然と、私達は抱きしめ合った。
二人で歩む未来を信じて。
◆
学校を終えて自宅に帰ってくると、お母様から信じられないことを言われた。
「おめでとう、イアナ」
「ど、どうされたのですか、お母様…………?」
「今からあなたは、純潔よりもずっと大切なものを授かるのよ。成也さんからね」
「すまないイアナ。少々予定が早まってしまった。けれど案ずることはない。俺が、必ず君をシアワセにしてあげよう」
「そん……な…………!」
「菜琴、守衛達にイアナと成也さんを例の部屋へ連れていかせなさい」
「承知しました」
「お、お母様、おか………………」