チャットログ:ただいま作業チュー
「レイ。今からお風呂入ってくるけど、お前どうする?」
「今から動画の編集しながらNebburicoさんとボイチャ(=ボイスチャット)する約束してるから、あとででいいやー」
「そ。でもお前は乳でかくて汗が溜まりやすいんだから早く来いよ」
「んー」
自分、早海麗蘭は星花女子学園の桜花寮に住まう高校三年生。寮のルームメイトからは名前の一部を取って「レイ」と呼ばれている。そういえば昔は「レイ」から派生して「ゼロ」なんてあだ名もあったっけ。懐かしい。
ルームメイトは、自分に皮肉を交えて良いながら、バスタオルやらの荷物を持って部屋を出ていった。この寮の部屋にはお風呂が無く、寮生は大浴場かもしくは共用のシャワー室を利用している。ちなみにルームメイトは大浴場派で、自分はシャワー室派。
「もしもーしミレイラでーす」
『おつかれさまです、ミレイラさん。この間はコラボ、ありがとうございました』
「いやいや、自分も楽しかったよ」
パソコンに接続したマイクのスイッチを入れて動画編集ソフトとチャットソフトを立ち上げ、Nebburicoさんと会話を始める。お互い素性は知っているけど、動画の撮影中にうっかり本名を言わないようにボイチャのときもハンドルネームで呼び合っている。ちなみに彼女の正体は、イアナと同い年の網橋理子ちゃん。動画を出しながら歌も歌っていたり声優もやっていたりする。ピンクマっていう有名なキャラクターの中の人。すごい。
「あ、そういえば観たよさっき上がってた動画。あれ最近みんなやってるよね。『パーフェクト・フォートアウト』」
『Nebburicoさんもやりませんか?』
「自分、あんまりタワーディフェンス系はやらないんだよね。面白そうだったらやってみるよ」
『そうですか』
「……あ、あの動画の字幕に使ってたフォントってどこで手に入れたの? めっちゃほっそいよね。あれ」
『「草映える倉庫」っていうサイトで配布されてましたよー。…………よし、完成』
「もうできたの。やっぱ早いね、毎日上げてると」
『声録ったり違うこともしようとすると、編集スピード上げないといけませんからね。エンコード(=編集したデータを動画にすること)中も台本読んだり、ながら作業ばっかりになりますねぇ。…………ん、ちょっと待って。今まだ通話中だから。いや、ちょっ』
…………ん?
「どうしたの?」
『あぁあいやすいません…………』
「……もしかして、そこに彼女いる?」
『……はい。明日から週末なので、うちに泊まりに』
『わかってるなら切ってもらっていい?』
「おーこわこわ。んじゃ、お楽しみにー」
『はいまたよろしくお願いしままだ切ってないんーー!』
「あ、切れた」
…………今度の週末は、自分も実家に帰ろうかな。特にすることないけど。