ノベル:恋人と友達と旦那
校庭に植わっている葉桜が、春の終わりを知らせてくる。
自分、早海麗蘭。星花女子学園の、高校三年生。女の子とのスキンシップと、ゲームと、あとポテチが好き。
そんな自分には、彼女がいる。二つ年下の、平菱イアナ。髪を丸く結っている自分とは違って、ロングヘアを腰まで垂らしている姿がとても繊細でかわいらしい。…………あ、もちろん浮気はしてない。スキンシップと恋人との絡みは全然別のものだからね。それはそれ、これはこれ。浮気はよくない。
「……あ」
お昼時の校舎の売店で、見知った子達を見つけた。
「なに買おうとしてるの、みんな?」
「……あ、麗蘭先輩」
「こんにちは、早海先輩」
「やっほー、はーやん先輩」
見つけたのは、イアナの友達の愛粕茉胡里ちゃんと、黒馬美兎ちゃんと、剣咲安寧ちゃん。
◆
学園敷地内の適当なベンチに腰掛けてお昼として買ったコッペパンを食べながら、三人に疑問を投げかけてみた。
「「「……イアナがいつもの場所に来ない?」」」
「うん。いつも一緒にお昼を食べている場所に、今日は来ていなくって。なにか知らない?」
「美兎なら、クラス一緒だけど……」
「……今日は体調不良で欠席だそうだ」
安寧ちゃんの言葉に、美兎ちゃんが続けた。
「……まあ、本当のところは分からんが」
「アタシも同感。娘の友達にあんな言い方したあの母親なら、イアナにどんなことをしていても驚かない自信があるわ。マジで」
二人の会話から察するに、イアナのお母さんは相当アクが強いみたいだ。
「イアナのお母さんって、強烈なんだね……」
「強烈なのは日本酒くらいでいいのに……」
「そうなんだ…………。……ん? 日本酒って?」
「あ、こっちの話です麗蘭先輩」
「……とにかく、体調不良ならお見舞いに行きたいな。でも、自分寮生な上にイアナの住所知らないし…………」
「……それが、わたし達も知らないんです」
「みんなは、イアナの家に遊びに行ったりとかしたことないの?」
「前の家には行ったことありますよ。敷地に入る前に追い返されちゃいましたけど。お土産に良いお酒とか持っていってたのに…………」
「茉胡里がウイスキーを持ってきてたのは、追い返された一因だろうがな。それにしても文字通りの門前払いだったが」
「でも、なんか引っ越しちゃったみたいなんだよなー。あのデカい豪邸は普通に残ってたけど。イアナ母がアタシ達に言ってたことが本当なら、今は好きでもない旦那と一つ屋根の下状態じゃねーの?」
……引っ越したとか、そんなの一度もイアナから聞いたことなかったなぁ………………。
………………………………ん?
「……え、旦那? イアナって結婚してるの?」
「あ……安寧、それは麗蘭先輩に言わないようにしようって三人で決めたのに…………」
「……………………ごめん、うっかり」
「……まったくこいつは………………チッ。あとで説教な」
◆
「……おい、そこの使用人」
「なんでしょうか、成也様」
廊下ですれ違った使用人に、俺、権座令州成也は聞いてみた。
「イアナの様子はどうだ?」
「……まだ、お部屋で寝込んだままでございます。『吐き気がする』とも仰っておりました」
「そうか……。登和子さんに言われて昨日連れていったが、やはり今のイアナに分娩室の見学は刺激が強すぎたか…………」