ノベル:対立する使用人
私は、平菱登和子への復讐を果たすために平菱家に潜入している使用人、裏見。
「登和子様、車の準備ができました」
「わかったわ」
そして私の復讐相手に仕えているあの使用人が、世桂菜琴だ。
「そういえば菜琴、この間私に歯向かった馬鹿なあの男の会社の株は買い占められたかしら?」
「既に買い占めが完了しています」
「ふふ、これであの会社は私のものよ。思い知りなさい」
思い知るのはお前だ。
「たとえどんな会社が私に敵対してきたとしても、株を買い占めて私が大株主になってしまえば途端にいいなりになるのだから楽勝ね。引き続き、あなたに私の通帳とカードを預けておくわね、菜琴。なにかあればなんでも買い占めなさい。あなたは頭が悪いけど、私の命を狙っているような怪しい人よりは何倍も信用できるわ。あなたに『裏切る』なんて難しいことができるわけないもの。そうでしょ? 裏見」
「な、なんのことでしょう…………」
「とぼけるつもりかしら」
「とぼけるもなにも、私は……うっ!」
私は、背後からやってきていたガタイのいい二人の男に両腕を掴まれ、引っ張られていった。
「は、放してっ!」
「連れていきなさい。……教えてくれて助かったわよ菜琴。潰した会社の社長の娘の顔なんていちいち覚えていないもの」
「ありがとうございます。……裏見さんは、どうしますか?」
「連れていかせたあの守衛達の好きなようにさせておきなさい。用が済んだら、適当に捨てておいていいわよ。どうせその頃には、私に噛みつく力なんて残ってないだろうし」
「わかりました」
◆
屋敷の裏手の草むらに、私は倒れ込んだ。
「うぅっ!」
もう、受け身をとる体力すら無くなってしまった。
「裏見さんっ!」
私のことをチクった女が、ようやく守衛から解放された私のもとへ駆け寄ってきた。
「大丈夫です…………くさっ!」
「……今更……なにしに来たの…………?」
「『用が済んだら適当に捨てておいて』と登和子様に言われたので、捨てにきました」
「…………」
「……裏見さん。やっぱり復讐なんて間違ってますよ。復讐がうまくいったところで、人はもう戻ってこないんですから。天国に行っちゃったご家族も、きっと喜びません。なにより…………イアナお嬢様を悲しませることになります。イアナお嬢様のお気持ちも考えてあげてください」
「……は?」
「復讐なんて勝手な動機で大切な肉親を奪われて……。それじゃあ、お嬢様が可哀想です。……もうお屋敷には置いておけませんけど、応援してます。裏見さんなら、きっと立ち直れるって」
「…………余計なことを……!」
「……では、今から裏見さんを捨てますね。…………………………さようなら」