プロローグの最後の話
めちゃ長いです。
第二次人魔大戦も終わってからしばらくすると、国民たちの騒ぎも次第に冷めていきました。
その頃には大国は勇者の扱いを考えていました。
魔王を倒した存在がもしかしたら叛旗を翻すかもしれない、そうなったら自分たちは何もすることができないだろう、と。
大国の上層部たちはレイナが怖くなったのです。
その頃レイナは人界に残って人間を襲っている魔王軍残党を討伐していました。
魔王討伐が終わってからレイナは仲間を作らずに、残党の討伐にも一人で行っていました。
その顔には魔王討伐前までに見られた活発さはありませんでした。
大国の上層部は考えました。
レイナをどうにかしたい。
しかしレイナには誰も勝てないだろう。
それに国が英雄を倒すことは国民が反乱を起こす大きな原因になってしまうかもしれない、と。
大国の上層部は悩みました。
何かいい策はないか。
そして名案と言うべき策がひらめいたのです。
あの魔王ですら勝てなかって存在がいるじゃないか、と。
大国はレイナに怪物をさせることにしたのです。
ーーーーーーーーー
ある日レイナは王城に呼び出されました。
そして国王はレイナに怪物討伐を命じたのです。
曰く、魔王を倒したお前ならばあの怪物を倒すことができるだろう、と。
しかしレイナは知っていました。
これが自分をどうにかするための言い訳にしかならないことを。
レイナは魔王が怪物を倒せなかってことを知っていたので、単独ではとてもなし得なかった自分の魔王討伐から考えても自分はきっと勝てないと思っていました。
それでもレイナはその命を受けました。
レイナは残りの人生に意味を見出せずにいたのです。
レイナは一度家に帰って準備をしてくることを告げると、すぐに用意をまとめ、国から出て行きました。
国を出るときに魔族の奴隷数人と目が会いました。
彼らは子供で、主人と思われる男に暴力を振るわれていました。
レイナの記憶には彼らの指定ためが印象に残り、消え去ることはありませんでした。
レイナが森に着くと、森の様子は昔とはさらに変わっていましたが、レイナは気にすることなく奥に進んで行きました。
途中には命に関わるような危険に幾度も遭遇しましたが、レイナは気にすることなく奥に進んで行きました。
レイナはこの怪物討伐で命を落とすことを望んでいたのです。
奥には前回魔王が施して封印そのままが残されていました。
レイナはその封印に触れました。
そしておどろきました。
怪物にかかっている封印は魔王がかけたものではなかったからです。
もっと高位の封印がかけられていました。
レイナが驚いていると封印はひとりでに解けました。
そして怪物が姿を現したのです。
レイナは息を飲み、すぐに怪物に攻撃をしかけました。
しかし、効きませんでした。
レイナは幾度も幾度も攻撃をしかけました。
しかしどれも効きませんでした。
何をやっても効きませんでした。
レイナが諦めずに次の攻撃を考えていると、ふと、頭によぎるものがありました。
それは国を出るときに見た魔族たちの目でした。
その瞬間レイナの諦めない心は折れました。
レイナは攻撃をやめました。
そして武器を捨てました。
怪物はココで初めて口を開きました。
『諦めるのか?』
レイナは静かに頷きました。
『死ぬのか?』
レイナはまた頷きました。
『なぜだ?』
レイナは最初は黙っていましたが、静かに語り始めました。
仲間を全員失ってしまった。
人間を魔族から救ったら、今度は人間が魔族を虐げている。
そして今度は邪魔になった自分を殺そうとしている。
こんな汚れきったもののために行われた魔王討伐が正しかったことなのかどうかわからない。
死んで行った仲間たちも浮かばれない。
国を出るときに見た、魔族の目が記憶から離れない。
あの目は魔王討伐の旅の途中に見た魔族に虐げられていた人間と同じ目をしていた。
立場が逆転しただけではないか。
気がつくとレイナは胸に溜まっていた思いを全て打ち明けていました。
途中からは涙も溢れてきました。
止まりませんでした。
怪物はその思いを静かに聞いていました。
怪物はまた静かに口を開きました。
『なるほど、それで死にたいのか』
レイナはまた静かに頷きました。
『それは死んでしまった仲間達が望む答えだと思うか?』
レイナは頷きませんでした。
怪物は静かに語り出しました。
自分は人間が好きだと。
そして怪物が思うレイナの仲間たちの考えを。
悩んで死ぬくらいならば今できることを精一杯やって諦めないべきだと。
魔族の扱いに思うことがあるならば改善しようとするべきだと。
レイナは最初は心を閉ざしていましたが、怪物が真剣に自分の悩みと向き合ってくれていること、そしてその心の暖かさに触れて心を開いて行きました。
怪物の人間好きは荒んだ勇者の心を温め、励ましたのです。
レイナは少しこの怪物の元にいることにしました。
怪物も人間がいることがまんざらではないようで、レイナを追い返したりはしませんでした。
怪物はレイナの住むところを用意してあげました。
こうしてレイナは怪物の元に数日間いました。
その結果、レイナの顔には笑顔が戻り、勝手の明るさを取り戻し、怪物の言うくだらない話を聞いて笑ったりするほどになりました。
レイナはそこでふと疑問に思いました。
こんなに人間好きなのになぜ人魔大戦など起こったのだろう、と。
レイナは怪物に聞きました。
怪物は話し始めました。
人魔大戦より前のことを。
そしてその直前のこと。
そしてその後のこと。
レイナは話を聞いているうちにこの怪物が哀れに思えてきました。
そしてこの何があっても自分の前からいなくならなそうな存在が欲しくなりました。
レイナは言いました。
自分の元に来てくれ、と。
怪物はこれをお断りました。
怪物はもう自分のせいで争いに起こって欲しくなかったのです。
レイナはそれを聞くと自信満々に言いました。
自分は勇者なので争いは起こらない。
起こさせない。
それに万が一起こった場合は自分が助けるから、代わりに自分が困ったことがあったら助けてほしい、と。
怪物は泣きました。
嬉しくて嬉しくて涙が止まりませんでした。
そしてレイナの誘いを了承しました。
レイナは言いました。
自分はこの前貴族になったのだ。
貴族には執事がつきものなので怪物には執事をやってもらいたい。
そのためにもその格好ではダメだ、と。
怪物はレイナの望んだ執事の姿に変身しました。
怪物にとって姿形を変えることなど造作もないことなどです。
こうして怪物の姿は誰が見ても人間の、イケメンな執事へと変わったのです。
レイナは言葉遣いも気をつけさせました。
自分が主人で怪物は執事なのだから当然のことだと。
怪物はレイナへの話し方を敬語に改めました。
レイナは国に帰る前に、上層部の秘密、団体のしてのものと、個人のものを怪物に聞きました。
これは怪物がなんでもできると言っていたのを聞いたためです。
そして秘密を聞いたのは怪物が手段を選ぶなと言って、この策をレイナに教えたからです。
怪物はすぐにレイナに答えました。
レイナはその答えを人ごとに分けて紙にまとめると国に帰りました。
その後ろには執事を引き連れて。
怪物が森を去ったことで森はおどろおどろしい雰囲気を出さなくなり、魔獣や毒の沼地などの危険地帯はひとりでに消えて行きました。
人界の人たちはこれを見てレイナが怪物討伐に成功してのだと思い、盛り上がりました。
反対に上層部は冷え込みました。
勇者を殺すのが目的で送り込んだのに、行きて帰ってくるばかりか、万が一の時のための最終兵器を失ってしまったこと。
しかし元々討伐が理由で送り込んだので勇者をどうにかすることもできません。
レイナは国に着くと、すぐに上層部の個人個人と接触を図りました。
上層部の人たちは最初はなぜレイナが接触してくるのか、そして一緒にいる執事はなんなのかわかりませんでしたが、レイナが話し出すとすぐに答えがわかりました。
ほとんどの人はレイナが秘密をネタに脅迫すると怪物をレイナ個人の執事にすること、そしてレイナには逆らわないことを了承しました。
一部の人は逆らいましたが、怪物がその力を使い、言うことを聞かせるのでした。
色々な根回しが終わった後、レイナは連合国会議を開かせました。
そこで魔界との条約の改正、この国だけではなく各国の法律の改正、そして怪物を正式にブレイブ家の家臣にすることを言ったのです。
各々不満はありましたが、どうすることもできませんでした。
レイナが握っている秘密の中には個人の貴族の家の滅亡、もっとひどければ国の滅亡もありえるような秘密もたくさんあったからです。
それに勇者だけで人類最強戦力なのに、世界最強戦力とも言える怪物までいたのでは誰も文句をいうことはできませんでした。
こうして支配権を手にしたレイナはすぐに魔族との条約と法律を改正しました。
条約はお互いが不平等にならないようにしました。
そして奴隷制を廃止し、一部の人が苦しい思いをしないような制度に改めました。
レイナはこれくらいしか支配権を使いませんでした。
この法律の改正については反乱が起こることもなく、むしろ苦しい思いをしていた人が多かったので、たくさんの感謝を受けました。
また一部の貴族は不満を抱きましたが、行動を起こしたところで多くの国民が不満を抱くこと、また勇者たちには勝てないこともあり、何もしませんでした。
魔界との条約はたくさんの国民の不満を招きました。
しかし、戦争に勝てたのは勇者の力が一番の功績でもあるのでその勇者の決めた決定には誰も逆らいませんでした。
魔族側からは特に何もありませんでした。
ブレイブ家の執事として正式に怪物を迎え入れることはひっそりと行われました。
人界の人たちは怪物は勇者のよって倒されたと思い込んでいます。
一部の人だけが真実を知っているのでした。
「これからよろしくね、執事?」
「かしこまりました、我が主人。」
こうして怪物の物語、そして勇者の物語は一旦幕を引くのでした。
とりあえずここまでにしておきます。
続きは来年の4月以降になるかもしれません。
でももしかしたら、
感想やブックマークの数で再開するかもしれないなーなんて。




