**04**
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くあぁぁ、と本日何度目かのあくびをしたところでぽんと肩を叩かれた。
「よお、アリス。でっかいあくびだな。ヤマネみたいだぜ」
振り向くとヘイヤが笑って立っていた。
「うん、天気が良くて今日は何だかよくあくびが出るの」
「ますますヤマネみたいだな」
「ヤマネほどじゃないと思うんだけど」
そう言うとヘイヤは大笑いした。
「アリスもハッターの買い出しか?」
「『も』ってことはヘイヤも?」
「ああ、前にハッターから頼まれてた材料が揃ったんでな、届けに行くとこだ」
「私もちょうど揃ったところなの、一緒に帰る?」
「おう、いいぜ!」
他愛のない会話をしながら歩く。
太陽色の髪がまぶしく揺れる。
ヘイヤはいつも笑っている。
いつも楽しそうに、おかしそうに。
だからか、何でもない話でも私まで面白くなって笑ってしまう。
「ずいぶん二人で楽しそうだな」
家に帰ると、ハッター先生が手を止め憮然と言った。
「うん、ヘイヤの話は面白かったわよ。あ、ハッター先生、これ頼まれてたもの」
机の上に紙袋を置くと、ハッター先生は、そういう意味ではないんだが、とぼそぼそ言っていたがまあ気にしないことにする。
「ハッター!これ、例のあれなー!」
「……ああ、どうも」
愛想もなしに受け取ると、ハッター先生はため息をついて冒頭のことについてはそれ以上何も言わなかった。
「今は何を作ってんだ?」
「ふむ、いいところに気づいたな」
ヘイヤが覗き込むとハッター先生はきらりと目を光らせた。
どうやら訊いてほしかったらしい。
まどろっこしい人だ。
「なんと、淹れる度に味の変わる茶葉だ」
世紀の大発明かのように、手を広げ大袈裟に紹介される。
「ちょうど今調合が終わったところだ。君たちは運がいい、新発明の茶葉でお茶会をしようではないか」
結局はそこに落ち着くのか。
「ヤマネも呼んでくるか?」
「そんな暇はない、今すぐお茶会をしよう!」
ハッター先生は、そわそわと子供のように落ち着かない様子。
「でも、ハッター、今は茶菓子がないぜ?茶菓子がないとお茶会とは言えねーよ」
「……ふむ。それもたしかに」
あ、そこは納得するんだ。
「俺、茶菓子とヤマネを調達してくるからちょっと待ってろよ!」
あ、ヤマネは調達されるんだ。何ていうか、もう少し人扱いしてあげて。
ヘイヤは笑顔で走り去って行った。
残された空間に一瞬静寂がおとずれ、息を飲む。こういう空気は苦手だ。
「あ、えーと……今日はどのポットとカップにする?」
食器の入った棚の方へ歩きながら話題を探す。
「君は」
背後からぽつりとハッター先生の声がするのを、聞こえないふりしながらカップを選ぶ。
「ヘイヤとずいぶん仲が」
「あ!このカップはどうかな」
言葉を遮り、適当に眼前にあったカップを取り出す。
……ハッター先生の言葉の続きは聞きたくなかった。聞いてはいけない気がした。
いつもみたいな何でもない毎日がいい。
それを察してか、ハッター先生は軽く息をついて、ポットを選び始めた。
「カップがそれならポットはこれがいいだろう」
そう言ってハッター先生はポットを取り出す。
カップに合わせて、とは言っても柄はばらばらなのだけど。
そうしてるうちにヘイヤと、またもやヘイヤに担がれたヤマネがやってきた。
そうしていつも通りのおかしなお茶会が始まった。