**03**
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賑やかな街の中をハッター先生と歩く。
なんの前触れもなく散歩に行くか、と言われ特に急ぎの用もなかったので応じて今に至る。
特に目当ての場所があったわけでもないらしく、本当にぶらぶらと散歩しているだけだ。
歩きながら隣の彼を改めて見目好いなあと思う。
長身に長い手足、ひょろりでもなくがっしりでもない均整のとれた体躯に整った顔立ち。
漆黒の髪は本人のこだわりがまったくないせいで手入れは特にされていないのに、さらさらである。
かぶる帽子のセンスがいかがなものかという分を差し引いても見目好いのでずるいと思う。
「ハッター先生、これ残り少なくなってるやつじゃなかった?買っておく?」
ふと目に入った店に陳列されている液体は、ハッター先生の家にあるものと一緒だった。
「いや、これは日持ちがよくないからね。ぎりぎりで買わないとすぐに駄目になる。また近いうちに買いに来てもらうよ」
「わかったわ」
頷くと、不意にハッター先生の笑みが目に入りその綺麗な顔に一瞬どきりとする。
「アリスはよく覚えているな」
ぽんと頭をなでられ嬉しくなる。こぼれた笑みにハッター先生は、嬉しそうだなと言った。
「ええ、なんだか先生に褒められるととても嬉しくなる。なんだか少し懐かしいような、くすぐったいような……」
そう言うとハッター先生は困ったような、何だか複雑そうな表情を浮かべた。
「アリス、以前から言っているが私のことを先生とは呼ばなくていい」
「うーん、でも、やっぱり『先生』の方が落ち着くわ。なんだかしっくりくるの。もしかして私以前からハッター先生って言ってたのかしら?」
「それは……」
複雑な面持ちのままハッター先生が何かを言おうとした時、
「やあハッターさん、今日はかわいいお嬢さんを連れてるね」
奥から出て来た店主さんが声をかける。
かわいい……。不細工ではないにしろ、平凡以外の何でもない自覚はあり、店主さんの言葉の世辞に私は苦笑する。
「そうだろう。私の自慢の助手だからな。それに彼女は可愛いだけではなく非常に勤勉で優秀なんだ」
「えっ、は、ハッター先生!?」
ハッター先生が、まさかの同意をするから驚く。さらにその賛辞にむず痒くなってしまった。
そんな私の様相をハッター先生は笑いながら見ている。……からかわれているのだろう。
店主さんまでもが微笑ましく見てくるものだからなんとも落ち着かない。
他の品を見つつ背を向けると、二人の笑う声が聞こえた。
「何もあんなところでからかわなくても」
日が沈みかけた帰り道、文句を言うとハッター先生は意外だといわんばかりに驚いた顔をした。
「からかってなんかないさ。本心だよ、アリス」
「いやいやいや。どう見ても私は平凡だし、頑張って勉強はしているけど自慢できるほど優秀ってわけでもないでしょう」
失敗もよくやらかす。
胸を張って言えることではないが、ハッター先生が二の句を継げなくなってしまうほどの失敗もやらかした。
なのにハッター先生はやわらかに微笑んでそんなことないさと言う。
「君はもう少し自分を認めるべきだ」
その真っ直ぐに私を見る目に吸い込まれそうになる。
夕陽を背にするハッター先生の綺麗な容貌に息を飲む。
……以前の私はどうかわからないけど、今の私にこんな見目好い人の耐性はそんなにない。
見惚れながら顔に熱が集まるのを感じ、振り払うように首を振った。
これは、焦がれるとかそういうのではなく。
……そう、恋い焦がれるだとかそういう感情は、ない。
何故だろう、強くそう思った。
私は、このままが、いい、と。
今のままでいたい、と、強くつよくーーーー。