男性にとって、女性の乳房は心の故郷なんですよ
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今回は寝起きのドタバタ劇です
健太とエリスが岡山に出掛けた日の夜、この日の晩ごはんはエリス手作りのカレーライスだった。
天上界ではお米が貴重らしく、エリスはご飯を炊くのを楽しみにしていたのである。
独り暮らしの健太の部屋にも、一応は炊飯器もあるのだが、最近はスーパーのお総菜で食事を済ませる事も多く、炊飯器が使われる事はほとんどなかった。
エリスは慣れない手つきで米を研いでいたのだが、一応はご飯の炊き方は知っているようで、どうにか炊飯器でご飯を炊く事が出来た。
カレーもとても美味しく出来ており、健太が自宅で食べる晩ごはんとしては過去にないほど充実した食事であった。
そして、晩ごはんの後はテレビを見たりして過ごした後、交代でシャワーを浴びて、後は寝るだけである。
夜も23時を過ぎたあたりで、エリスが先にシャワーを浴びた。ユニットバスから出て来たエリスは、その日買ったばかりのパジャマに身を包んでいた。
次いで健太がシャワーを浴びている間に、エリスは手際よく居間にあった座卓を片付けて布団を敷いて寝床を作っていた。
健太がシャワーを浴びてユニットバスから出て、台所でパジャマを着てから居間に戻って来た時には、居間の電気は小丸電球に切り替えてあり、すでにエリスは布団の中にいた。
健太が自分の寝る場所を探してキョロキョロしていると、既に布団に入っていたエリスが健太に声をかけた。
「何やってるのよ?」
「いや、俺はどこで寝ようかと……」
健太の言葉を聞いたエリスは掛け布団をめくった。
「今日からは一緒の布団でねるんでしょ? さぁ、いらっしゃい」
エリスの言葉に健太は驚いた。
「あれって、冗談かと…」
「冗談なわけないでしょ。湯冷めしないうちに、早く布団に入って」
エリスは何を今更というような表情で言った。
「じゃ、お邪魔します……」
健太はおそるおそる布団に入った。
健太はエリスの右側に寝転んでいるが、健太の左腕がエリスの右腕にわずかに触れている。
ただそれだけの事なのに、健太は妙にドキドキしてしまうのである。
「さすがに窮屈すぎない?」
一人用の布団に二人寝ているので狭いのは当然だが、それにしても窮屈すぎる。健太はエリスと密着出来て嬉しいというより、ここまで窮屈だと眠れそうになくて、それを心配していた。
「掛け布団はそれぞれ使った方がいいわね」
エリスは布団から出て、昨夜健太が使っていた掛け布団を用意した。
健太はエリスが新たに用意した掛け布団の方へ移った。一つの掛け布団を二人で使うのとは違い、これなら広々とはいかないまでも、先ほどまでよりはかなりマシになった。
(確かに、床に毛布を敷いて寝るよりは随分と快適だな)
健太は狭いながらも、背中が痛くない点については満足していた。
このような状況で、健全な男女ならもっと互いの距離を縮めるところだが、健太自身にそんな勇気があるはずもなく、健太は何となく気まずい雰囲気を感じていた。
(お喋りでもして気を紛らわさないと眠れなくなりそうだ)
健太はエリスと話す事で緊張を解くつもりだったのだが、何を話せばいいのかアイデアが出て来ない。
また、沈黙の時間が長ければ長いほど、話し出すには勇気が多く必要になってくる。
それから数分、健太は何かを話そうとするのだが、最初の一言が出て来ない。こういう時には、エリスから話し掛けてくれたら助かるのだが、なぜかエリスも沈黙している。
(やっぱりエリスも緊張してるのかも)
いくら堂々とした態度でもエリスはまだ18歳である。年上の男と寝るのは緊張するに違いない、そう思うと健太は気持ちが軽くなってきた。
(ここは年上の俺がエリスの緊張を解いてあげなきゃな)
健太は何でもいいから話し掛けてみようと思った。そして、エリスの方へ体を向けた。
エリスは目を閉じたまま微動だにしない。
(緊張してたのではなく、眠ってただけなのかよ!)
健太は自分同様にエリスも緊張しているのかと思っていたのだが、単純にさっさと眠ってしまっていただけであった。
健太はリラックスした表情で眠るエリスを見つめながら考えた。
(知り合って間もない男の隣で、よくこんな無防備になれるものだ。俺が何もしないと信用されているのか、それとも、そんな勇気はないとバカにされているのか、あるいは、何かされても構わないと考えているのか……)
健太はエリスの考えはわからないが、緊張して眠れず、更に、話しでもしようと思ったが、言葉も出なかった自分が情けなく思えてきた。
(そうか、疲れてたんだな)
エリスは今朝は健太が起きるずいぶん前から起きていたはずだ。それから一日動き回った後、家に帰ってからは晩ごはんも作っていた。健太も疲れていたが、エリスはそれ以上に疲れていたのである。
そんなエリスの寝顔を見ていると、健太は妙な緊張感が解けてしまった。
(今日はお疲れ様でした。そして、おやすみなさい)
健太は優しい目でじっとエリスを見つめながら、心の中でおやすみの挨拶をしてから、エリスの方に向けていた体を元の方向に戻して目を閉じた。
健太は緊張感が解けた脱力感からかすぐに眠気に襲われて、いつの間にか眠っていたのである。
それからどれだけ時間がたったのだろうか……
健太は目を覚ました。正確には目はまだ開いておらず、意識だけではあるが……
健太は目を閉じたまま、やたら気持ちが良い事に気付いていた。
(何だろう……いいにおいだな……)
健太はいい香りに魅了されながら、顔が何か柔らかい感触に気付いた。
何かはわからないが、気持ちがいいのでスリスリと頬擦りする。
意識がはっきりするにつれて、自分がうつぶせになっている事に気付いた。何か柔らかい物の上に顔があって、更に、右手がそれをつかんでいるようだ。
(何かわからないけど気持ちいいなぁ〜)
柔らかい感触を顔全体で楽しむ、右手でその柔らかさを更に楽しむ。健太はこれが夢か現実かわからないが、とても幸せな気持ちだった。
しかし、意識がはっきりしてくると、それが何なのかが気になる。それを確かめるために健太は両目をゆっくりと開いた。
健太は目を開いてから体を少し起こしてみた。
「あっ!」
健太は思わず声が出た。
目の前には無表情で天井の一点を見つめるエリスの顔があった。
そして、健太が気持ち良いと思って頬擦りをしたり、揉みしだいていたのはエリスの胸の双丘であった。
「あら、おはよう」
エリスがため息をつきながら挨拶をする。
「あ……あぁ、おはよう」
健太はぎこちなく挨拶を返した。
「俺、何かしたっけ?」
健太はわざととぼけて言った。
「今もしてるけど……」
エリスはそう言ってから、寝転がったまま自分の胸に視線を移した。
視線の先は、エリスの左の乳房をしっかりと掴んだ健太の右手があった。
「あっ、いや……ごめんごめん」
健太は慌てて右手を離してエリスに謝った。
「まぁ、謝る必要はないけど、あなた……私をずっと抱いて眠ってたのよ。気付いてた?」
エリスが苦笑いしながら言った。
「いや、全然気付かなかったよ」
健太は頭をふって答えた。
エリスが言うには、何時間も前から、健太はエリスを抱き枕のように抱きながら眠っていたらしい。エリスも構わず眠っていたのだが、やがて自分の胸に顔を埋めてきたうえに、胸を揉みしだき始めて目が覚めていたらしい。
健太はこの状況に慌てふためいているのだが、エリスは冷静を装っていた。あくまで装っていたのであって実際は違う。
実のところ、エリスは天上界で男性と付き合った経験はあるのだが、健太が想像しているほど男性経験が豊富なわけではなかった。
健太はエリスを絶世の美女のように思っているが、天上界にはもっと可愛い女の子はいくらでもいるのである。
当然、エリスは男性と一緒に寝た事など一度も無かったのだが、昨夜は疲れていたのをいい事に、さっさと眠ってしまったので、健太には堂々としているように見えていたのである。
エリスは健太に抱きつかれ胸を触られていた時も、起こすのはよく眠っている健太に申し訳ないし、かといってどう対処すべきかわからずされるがままだった。
「いや、ホント悪かった」
健太が場を取りなすように謝った。起きたばっかりだというのに冷や汗をかいているほど焦っていた。
「そこまで気にするほどじゃないわよ。でも、男性っていつまでたってもオッパイが好きなのね」
エリスが肩をすくめて言った。
「いや……そんな事は」
「はいはい坊や、今夜は上半身は裸で寝るから、お母さんのオッパイをしっかり吸ってくだちゃいね」
エリスが赤ちゃん言葉でからかった。
「もう勘弁してよ」
健太が弱りきった表情で懇願した。
「私もあなたが思ってるほど男性経験があるわけじゃないの。だから、あれは私には刺激が強すぎたわ」
エリスが苦笑しながら言った。
「そうか、やっぱりあの狭い布団に二人で寝るのは無理じゃないかなぁ?」
健太がエリスに言った。
「じゃあどうしたいわけ?」
エリスが返した。
「もう一人分の布団を買うよ。エリスは布団よりベッドがいいかな?」
健太が提案した。
「私はベッドの方がいいけど、この部屋にベッドを置いたら狭くなりすぎないかしら?」
エリスが困ったような表情を見せた。
「折り畳み式のベッドなら、昼間は畳んでおけばいいから、それほど邪魔にならないよ」
健太はベッドなら折り畳み式にするつもりだった。
「でも、お金がかかるでしょう? 申し訳ないわ」
「エリスが見た目ほど男性経験が無いのとは反対に、俺は見た目よりお金を持ってるんだよ」
健太が胸を張って言った。確かに、健太は乗り鉄以外に大してお金をかけない生活スタイルだったので、周囲が思っているよりはかなり多額の貯金があったのである。
「あら、上手い事言うわね」
エリスが笑顔を見せて言った。
「よし、決まりだ。ベッドは俺が適当なのを通販で注文しとくから、近いうちに家に届くはずだよ」
健太もエリスにつられて笑顔になって言った。
「健太、ホントにありがとう。でも、ベッドが届くまでは一緒に寝ますから、たっぷりオッパイを吸っておいてよね」
エリスが笑いながら胸を両手で揺らしながら言った。
「もう勘弁して下さい」
健太は両手を合わせて懇願した。
「冗談はこれくらいにしておいて、健太は今日は何時から仕事なの?」
「今日は10時出勤で、終バスまで乗るから帰りは23時くらいになるかなぁ」
エリスは時計を見て時刻を確かめた。
「まだ朝6時よ。どうする? もう一度寝る?」
「いや、もう目が覚めちゃったよ」
健太の答えを受けてエリスは考えた。
「じゃあ、朝ごはん作るから、ごはんの後に通販で買うベッドを調べましょう」
エリスが言った。健太は大きくうなずいた。
「それがいい。通販のサイトで調べよう」
「じゃあ、朝ごはんの用意をするから、健太は布団を畳んでおいてくれる?」
エリスは言ってから台所に向かった。
10分もしないうちに、エリスは朝ごはんを作って居間に戻って来た。
「食材が乏しいからトーストしか出来ないの。今日は私が一人で昨日行ったスーパーで食材を買って来たいわ」
トーストをかじりながらエリスが言った。
「スーパーまではけっこう遠いし、一人で大丈夫?」
健太が心配するが、エリスは笑いながら大丈夫だと手を振った。
「昨日道順は覚えたし、私は昼間はする事がないから、散歩がてら行ってみるつもりよ」
「じゃあ、お金渡しとく」
健太は5000円札をエリスに渡した。
「ありがとう。晩ごはん期待してね」
エリスが楽しそうに言った。
二人は朝ごはんを食べた後、健太のスマホで通販サイトで折り畳み式ベッドを調べてみた。
いくつかのサイトを調べて、エリスが気に入ったのがあったのでそれを注文した。届くのは一週間くらい後になる。
「9時もすぎたし、少し早いけど仕事に行くから」
健太は玄関に行って靴を履いた。
「行ってらっしゃい」
エリスが玄関からマンションの通路まで出て来て、手を振って見送った。
「行ってきます」
健太は笑顔で答えた。
健太はエレベーターに乗って1階へ降りて行く。4月上旬の土曜日、今日は良い天気になりそうだ。
次回は健太が仕事に出ている間、一人で家に居るエリスの日常についてのお話です。お楽しみに